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【レース感想】ツール・ド・フランス2021 第15ステージ

ユンボの大胆すぎる戦略

2週目の最終日は、アンドラに突入して1級・2級・1級・1級と山岳を超えていく、かなりハードなレイアウト。

 

ステージ勝利狙い、山岳ポイント獲得、そして前待ちと、この日も様々な理由でかなりの人数が逃げに乗ろうと試みて、割と激しめのアタック合戦の末に32人の逃げ集団が形成される。

まず目を引いた…というか驚いたのは、チーム・ユンボ・ヴィスマがセップ・クス、ワウト・ファンアールト、ステフェン・クライスヴァイクと、逃げに3人も送り込んできた事。

総合4位のヨナス・ヴィンゲゴーを抱えながら、まさか山岳アシストを全員逃げに送り込むとは…!

大胆すぎる前待ち?

それともステージ狙い?

はたまたファンアールトの山岳賞にフォーカス?

 

ユンボと同じく総合争いをしているイネオス・グレナディアーズは、ジョナタン・カストロビエホとディラン・ファンバーレの2人を逃げに乗せていて、これは分かりやすい前待ち狙い。

カストロビエホもファンバーレも、牽引力と登坂力を高い次元で両立させているので、どのタイミングで合流しても役に立ちそうだ。

 

そして、ある意味総合争い以上に熱い展開になりそうなのが、山岳賞争い。

なんと、山岳ポイントのトップ4、マイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネーション、54pt)、ナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック、50pt)、ワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス、49pt)、ファンアールト(43pt)が全員逃げに乗ってきている!

これは面白くなるぞ!

 

まずは1つ目の1級山岳、いきなり激しいスプリントでの争いになり、プールス、ファンアールト、ウッズの順番で通過。

続いての2級山岳は、ファンアールト、プールス、ウッズの順に通過。

 

ここまでの2つの山岳、キンタナは何故か全く争う気配を見せないのは何故…?

スプリント力に自信が無いから?

割と不思議に思っていたけれども、次の1級山岳でキンタナが山頂まで2kmの位置からアタック!!

一気に後続を突き放して山頂を先頭通過するだけではなく、そのまま単独でダウンヒルへ!

キンタナから少し遅れて、後続はファンアールト、プールス、ウッズの順で山頂を通過。

この時点で、暫定の山岳賞ランキングはプールス(68pt)、ウッズ(66pt)、ファンアールト(64pt)、キンタナ(60pt)という並びに。

その後、ダウンヒルで先行していたキンタナは追走に捕まり、山岳賞を争う4人は同じ集団で最後の1級山岳へ向かっていく。

 

逃げ集団から8分ほど遅れて1級山岳に突入したメイン集団を牽くのは、イネオス・グレナディアーズ

テイオ・ゲーガンハート、リッチー・ポート、ミハウ・クフィアトコフスキと、豪華アシスト陣が山頂まで順次全力でペースを上げ、メイン集団を絞り込んでいく!

山頂間近でクフィアトコフスキが牽引を終えると、もう殆どのチームがアシストを残せていないような状態に。

そしてダウンヒルに突入すると、「前待ち」をしていたイネオスのアシスト、カストロビエホとファンバーレが絶妙なタイミングで合流!

カストロビエホ、ファンバーレ、ゲラント・トーマス、リチャル・カラパスと、このタイミングで4人の選手をメイン集団に残すイネオスは、ダウンヒルでも強烈に牽引!

このイネオスの牽きによるハイペースに、前日総合2位に浮上したギヨーム・マルタンコフィディス)が付いていけない…!

イネオスの攻撃力、恐るべし。

 

20人弱に人数を減らした逃げ集団は、メイン集団から5分ほどのリードを保持したまま最後の1級山岳に突入。

登坂に入って間もなく、アタックを仕掛けたのはキンタナ!

個人的にはこの日の優勝予想キンタナを挙げていたので、「よし!そのまま最後まで逃げ切れ!」とテンションが上がった…けれども、キンタナはほどなくして捕まるだけでなく、そのままズルズルと後退していってしまう…。

 

山頂まで約5kmの地点、勾配の厳しい区間でアタックを仕掛けたのは、ユンボのクス!

このアタックにアレハンドロ・バルベルデ(モビスター・チーム)だけがなんとか反応するけれども、クスはしばらくするとバルベルデも突き放して独走を開始!

 

一方のメイン集団は、カラパスやヴィンゲゴーのアタックがあったりはしたけれども、どれもイマイチ決まり切らない。

アタックと牽制が繰り返されたことでペースも下がり、誰も抜け出せず、更には前にも追いつけないような状態に陥ってしまった。

 

山頂を先頭で通過したクスは、ダウンヒルもいいペースで突っ走る!

これまで山岳アシストとして活躍してきたクスの「本気」のダウンヒルを初めて見た気がするけれども、普通に上手いぞ!

追いかけてくるバルベルデとの差を20秒程度に保ちながら、順調に距離をこなしていく!

最後はアイウェアを観客に向けて投げるパフォーマンスを見せながら、余裕のフィニッシュ!!

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最強の山岳アシストとの呼び声も高いクス、山岳でライバルを突き放してツール初勝利!

今シーズン、少し調子が上がり切っていないような走りが続いていたけれども、ツールと言う最高の舞台でしっかりその力を証明して見せた!

そしてユンボは、「山岳アシスト(ファンアールトをこの括りに含めるかは微妙?)を全員逃げに送り込む」という大胆な戦略が見事に的中!

クスがステージ勝利、クライスヴァイクは中盤にヴィンゲゴーをアシスト、ファンアールトは山岳ポイントを稼いだ上で終盤にヴィンゲゴーをアシストと、逃げに乗った3人全員がしっかりと力を発揮する事に成功。

結果だけを見て評価するのは危ういのかもしれないけれども、これだけのリザルトを残したのなら文句は言えないでしょ(フランスのメディアからは「総合を放棄したのか」と手厳しい意見も出ていたみたいだけれども…)。

思い切った作戦を成功させたユンボが、果たして3週目にどんな戦略を立ててくるのか楽しみになってきた!