初心者ロードレース観戦日和

初心者でもいいじゃない!ロードレース観戦を楽しもう!

【レース感想】世界選手権2021 男子エリートロードレース

正真正銘のスーパースター

自転車大国ベルギーを舞台に開催される、UCIロード世界選手権2021。

f:id:kiwa2408:20210923113026p:plain

男子エリートロードレースカテゴリーの記念すべき100年目となる今大会には、もちろん世界各国からトップ選手が参戦!

www.kiwaroadrace.com※事前の注目選手紹介がこちら

 

地元ベルギーのワウト・ファンアールトが下馬評通りの強さを見せつけるのか、ディフェンディングチャンピオンのジュリアン・アラフィリップ(フランス)が意地を見せるのか、絶好調のソンニ・コルブレッリ(イタリア)が勢いそのままに頂点に立つのか、それとも他のライバルが出し抜くのか。

激戦必至の頂上決戦がスタート!!

 

アクチュアルスタートから5kmほど進むと、勝負に絡む可能性は低いと思われる国の選手による8人の逃げが形成される。

メイン集団はこの逃げをガッツリ逃がすのかと思いきや、意外と早い段階でベルギーの牽引役ティム・デクレルクがメイン集団をコントロールし始めて、タイム差を最大でも5分台に留めている。

全長267.7kmの長丁場なのでこのまましばらくは大人しいレース展開になる、恐らくレースが動くのは残り70kmを切って2度目の「フランドル周回コース(フランドリアン・サーキット)」に突入してからだろうと、自分を含めた多くの人が思っていただろうけれども、レースは意外な場所から動き始める事に。

 

1度目の「ルーヴェン市街地周回コース」を終え、これまた1度目の「フランドル周回コース」に突入する手前、残り183km辺りでメイン集団からアントニー・テュルジス(フランス)がアタック!

この動きはゲオルグ・ツィマーマン(ドイツ)、ミハエル・シェアー(スイス)、デクレルク、そして少し遅れてレムコ・エヴェネプール(ベルギー)などが反応してすぐさま引き戻されるけれども、ここからメイン集団は一気に活性化。

「フランドル周回コース」の入り口にあるスメイスベルグ(登坂距離700m・平均勾配8.8%)に入ると、再び攻撃の手を繰り出したのはフランス。

先日ブルターニュ・クラシックを制して勢いに乗るブノワ・コスネフロワがアタック!

この動きに追随したのは、先ほども同様にマークの動きを見せたエヴェネプールと、先日のブエルタ・ア・エスパーニャで3勝と好調のマグナス・コルト(デンマーク)。

そこから更に10kmほど進んだ辺りで更に10人以上の選手がコスヌフロワのグループに追いつき、15人の追走集団を形成する事に。

きっかけを作ったコスヌフロワ、エヴェネプール、コルトの他にも、プリモシュ・ログリッチスロベニア)、カスパー・アスグリーン(デンマーク)など、有力各国が選手をこの追走集団に送り込む中、唯一選手を乗せられなかった強豪国がイタリア。

そして直後のベケストラート(登坂距離439m・平均勾配7.7%)の狭い登坂を利用してベルギーが文字通りメイン集団に蓋をした事で、追走集団とメイン集団のタイム差は一気に1分近くにまで広がる!

こうなると、イタリアはメイン集団の牽引をせざるを得ない…!

イタリアはジャンニ・モスコン、アレッサンドロ・デマルキ、ディエゴ・ウリッシ、更にはマッテオ・トレンティンまで投入しての全力牽引をする羽目に。

ただ、追走集団にTT能力の高い選手が揃っている事もあり、その差はなかなか縮まらない…。

30km以上の距離を掛け、残り133km辺りでなんとかメイン集団は追走集団を捕まえたけれども、イタリアはトレンティンなど数名を失い既に消耗しきっているという、かなり厳しい状況に置かれる事になってしまった。

 

メイン集団はそのまま逃げも吸収して一旦レースは振り出しに…と思ったら、今度はフランスのペースアップを起点にメイン集団が割れてるぞ…。

オランダはエースのマチュー・ファンデルプールが後方に取り残されてしまったので、バウケ・モレマの牽引でなんとかファンデルプールを前方に送り込む。

そしてこの動きが前線に残れる実質「最終便」となり、その最後尾には日本の新城幸也選手の姿も。

残り126kmでまたしてもフランスの攻撃、ヴァランタン・マデュアスのペースアップにより、後方集団は完全に終戦

新城選手は…なんとか前方に残れている!

新城選手の姿を確認して一安心したのも束の間、残り117kmでまたまたフランスの攻撃、ワインペルス(登坂距離360m・平均勾配7.9%)でテュルジスがアタック。

この動きはイヴ・ランパールト(ベルギー)のチェックもあって不発に終わるけれども、フランスはひたすら攻撃の姿勢を貫きたい様子が見て取れる。

対して、ベルギーはアタックを毎回潰すような動きを見せているので、落ち着いた展開を望んでいる模様…と言うか、構図が逆か。

チーム力で勝りファンアールト(もしくはストゥイヴェン)でのスプリントに持ち込みたいベルギーをなんとかして崩したいフランスという構図、つまりそういう意味では戦前の予想通りと言えなくもないけど、まさかこんなに序盤からレースが動き続けるとは…。

 

残り110km前後からベルギーが隊列を組んで集団をコントロールすると、レースが一旦落ち着いたように見えたけれども、残り95kmでニルス・ポリッツ(ドイツ)がアタックを仕掛けた事でレースは再び活性化。

アタックが吸収されたポリッツは残り91km辺りで再度仕掛ける積極性を見せ、この動きを起点に新たな11人の逃げが形成される。

  • ポリッツ(ドイツ)
  • エヴェネプール(ベルギー)
  • マデュアス(フランス)
  • アンドレア・バジョーリ(イタリア)
  • ディラン・ファンバーレ(オランダ)
  • マッズ・ウルツシュミット(デンマーク
  • ヤン・トラトニック(スロベニア
  • イヴァン・ガルシア・コルティナ(スペイン)
  • ロバート・スタナード(オーストラリア)
  • ニールソン・ポーレス(アメリカ)
  • ラスムス・ティレルノルウェー

流石にイタリアも序盤と同じ轍は踏まず、有力国はしっかりと選手を送り込む事に成功した感じか。

 

残り70km、大きな勝負所と見られていた2度目の「フランドル周回コース」に突入。

その入り口にある「スメイスベルグ」、メイン集団では1度目と同じようにコスヌフロワがアタックを見せるけれども、これはヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー)が反応して集団に引き戻す。

その直後の「モスケラート」では、まずは逃げ集団が人数を減らしていき、後方のメイン集団ではミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)がペースを上げて集団の人数を削りに掛かる。

逃げで先頭に生き残ったのは、エヴェネプール、マデュアス、バジョーリ、ファンバーレ、ポーレスの5人のみ。

メイン集団からはクフィアトコフスキが一旦少し飛び出すけれども、カンペナールツの牽引でこの動きはメイン集団に吸収される。

 

ベルギーがランパールトの牽引でメイン集団のコントロールを図る中、レースを動かそうとするのは…またしてもフランス。

残り58km、「フランドル周回コース」最後の勝負所にして今大会最後の本格的な石畳の登りである「ベークストラート」(登坂距離439m・平均勾配7.7%)で、いよいよフランスのエースにしてディフェンディングチャンピオンのアラフィリップがペースを上げる!!

アラフィリップの強烈な加速に付いていけたのは僅か10人!

残り53km辺りでアラフィリップを含めた11人の追走が先頭の5人に合流、そこに後方からアスグリーンの強力なアシストを受けたミケル・ヴァルグレン(デンマーク)のみがなんとか追いつき、17人の先頭集団を形成!

先頭は独走力自慢のエヴェネプールがペースを上げる一方、後方の集団には牽引の余力を残せているチームがいない…!

タイム差はみるみる開いていき、勝負権は先頭の17人に絞られた!!

  • ジュリアン・アラフィリップ(フランス)
  • ヴァランタン・マデュアス(フランス)
  • ロリアン・セネシャル(フランス)
  • ワウト・ファンアールト(ベルギー)
  • レムコ・エヴェネプール(ベルギー)
  • ヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)
  • ソンニ・コルブレッリ(イタリア)
  • ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア)
  • アンドレア・バジオーリ(イタリア)
  • マチュー・ファンデルプール(オランダ)
  • ディラン・ファンバーレ(オランダ)
  • トム・ピドコック(イギリス)
  • ミケル・ヴァルグレン(デンマーク
  • マテイ・モホリッチ(スロベニア
  • ゼネク・スティバル(チェコ
  • ニールソン・ポーレス(アメリカ)
  • マークス・フールゴー(ノルウェー

 

先頭集団の牽引を中心となって担ったエヴェネプールは残り26kmで全ての力を使い切り、その仕事を終える。

序盤はアタック潰し、中盤は逃げ、そして終盤に掛けて牽引と、その仕事量はとんでもなかった。

そして、この21歳の天才をアシストとして使い倒す事ができる、ベルギーの層の厚さ。

お膳立ては整ったはず、あとはエースが決め切るだけだ。

 

しかし、エヴェネプールを失った先頭集団は、イマイチ統率が取れないと言うか、まだ20km強の距離を残しながら若干の牽制状態に。

果たしてどこでどんな動きが起こるのか予想が付きにくい状況の中、動いたのは…やはりと言うべきか、またしてもアラフィリップ!!

残り21.5kmの「ワインプレス」で、マデュアスのアシストを受けたアラフィリップがアタック!

この短すぎる登坂では僅か5秒のリードしか奪えずに引き戻されてしまったアラフィリップは、残り19.5kmの起伏でまたアタック!!

この動きもほどなくして吸収されてしまうけれども、アラフィリップはそれでも攻撃的な姿勢を崩さない!

残り17.4kmの「シント=アントニウスベルグ」で3度目のアタックを繰り出すと、遂に決定的なリードを生み出す事に成功!!

Embed from Getty Images

それは牽制も駆け引きもない、愚直とも言えるようなアタックだった。

そしてそれこそが、アラフィリップ最大の強みであり、それだけで十分すぎた。

 

後ろからは、ストゥイヴェン、ヴァルグレン、ファンバーレ、ポーレスの4人が飛び出して追いかけてくる。

しかし、この追走はやはりと言うか…協調し切れない。

それは更に後ろに残された12人、ファンアールト、ファンデルプール、コルブレッリと言った優勝候補を抱えた集団では尚更顕著で、この集団はペースが全く上がらない。

ただ一人、先頭を走るアラフィリップのみが迷いなくペダルを踏み込み、フィニッシュへと向かっていく!!

フィニッシュ手前、何度も後方を振り返り勝利が間違いない事を確認し、ゆっくりとその勝利を味わうような様子も見せつつ、そして最後はアラフィリップらしい大きなガッツポーズ!!

Embed from Getty Images

フランスの英雄アラフィリップ、持ち味を存分に発揮して2年連続の世界選手権制覇!!
勝利への展開を作り出すために攻撃を繰り返す姿勢、伝家の宝刀とも言える「分かっていても止められないアタック」、そして強力なベルギーのチーム力を崩すべくフランスの戦略、全てが噛み合った素晴らしい勝利!!

その積極性がゆえに「動きすぎて」失敗する事もあるけれども、その走りは見ていて最高に熱くなるし、そして勝負所ではしっかりと結果を残す辺り、やはりアラフィリップはスーパースターだ!!

素晴らしいレース、そして熱くて美しい勝利を届けてくれてありがとう!

そして、2連覇本当におめでとう!!

これからも、その熱い走りに期待しているぞ!!

 

そして後方では、追走の4人で表彰台を巡ったスプリント争い!!

前を牽かされていたポーレスは早々に脱落、ストゥイヴェンとヴァルグレンが競り合い、その後方からスリップストリームを利用したファンバーレも上がってくる!!

ハードな展開で各選手の消耗がかなり激しく、もはやスプリント争いというか「いかに余力が残っているか」というような泥臭い勝負を制して2位に入ったのはファンバーレ!!

3位にはヴァルグレンが入り、スプリント力では有利と思われたストゥイヴェンは4位に終わり、なんと超強力メンバーを揃えた地元ベルギーは表彰台を逃す結果に…。

 

更にその後方で、最大の優勝候補と言われていたファンアールトは11位でのフィニッシュ。

消極的にも見えたそのレース運びを批判する声もあるだろうけれども、レース後に「最後は勝負する脚が残っていなかった」(※)とコメント。

(※アラフィリップ「攻めて掴んだ美しい勝利」ファンバーレ「励ましてくれた監督に感謝」 - ロード世界選手権2021男子エリートロードレース選手コメント | cyclowired

同様のコメントを残して8位に終わったファンデルプール共々、規格外のポテンシャルを持った彼らでも、やはりこういう日はある。

「本命が勝つとは限らない」という、レースの難しさを改めて実感する出来事だったと思う。

 

そして我らが新城選手は、6分31秒遅れの49位で堂々のフィニッシュ!!

完走した選手が僅か68人しかいなかったこのサバイバルレースで、最終局面の直前まで前方に残っていたのは本当に凄かった!

今年はジロ・デ・イタリアブエルタ・ア・エスパーニャでも見事な働きっぷりを見せていたし、改めて世界の第一線で戦う力を証明できた1年だったと思う。

まだ来シーズンの契約が発表されていないけれども、流石にこれだけ活躍すればワールドチームから契約を貰えるはず。

来年も元気な走りを楽しみにしていたい!!

 

激闘、そして間違いなく名レース

いや~、凄いレースだった!!

序盤から息つく暇もないような展開で、見ているこちらのテンションもおかしくなりそうなぐらい激しいその内容は、間違いなく名レースだと断言したい!!

個人的にはベストレース候補の多い今シーズンなんだけれども、かなり上位に来ると言うか、現時点でのトップかもしれない。

激しいだけでなく、レースの難しさ、戦略的な面白さ、思惑が交差する複雑さ等がふんだんに詰まっていたと思うし、個人のパフォーマンスも熱さや美しさを感じさせる素晴らしいものだったと思う。

自国のプライドを懸けて世界最高峰の選手が熱く鎬を削り合う世界選手権、やっぱり最高だ!!

そしてやっぱりロードレースは最高だ!!

これからも、存分に楽しんでいきたい!!

 

それでは、また!!

Embed from Getty Images