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【レース感想】パリ~ルーベ2021

まさに地獄

「クラシックの女王」、もしくはその荒れた石畳を用いたレイアウトの厳しさから「北の地獄」と呼ばれるパリ~ルーベ。

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モニュメントという重要な位置づけながら新型コロナウィルスの影響で2020年は中止、今年も通常の4月開催は見送られ、10/3になんとか開催する運びに。

結果的に約2年半振りの開催となったパリ~ルーベ、当日の天気は実に20年振りの雨。

今大会のレイアウトには30の石畳区間(セクター)が設けられているけれども、レース前にはその石畳がまるで川のように水をたたえた写真なんかもSNSに上がっている…。

間違いなく、過酷で地獄のようなレースになるという状況の中、優勝候補はこんな感じか。

ただ、ファンデルプールはケガ明け、ファンアールトもオーバーワーク気味かもという事で、最初は予想から外そうと考えていたけれども、路面のコンディションを見る限り明らかに悪路への適正が例年以上に必要な訳で、この2人は有利な気もしてくる…。

迷いに迷った末に、自分の予想がこちら。

荒れた路面でなかなかアタックが仕掛けにくい状況が続き、最後はファンアールトがスプリントで勝利…という展開を想定。

他に挙げた選手は、逆にスプリントよりもタフさを重視した感じ。

正直なところどんな展開になるか読みにくくて、なんだか保険を掛けたような一言を添えているし、弱気な予想だ…。

 

雨は止まないどころか未だ激しく降りしきる状況下で、史上初の秋開催となったパリ~ルーベがスタート!!

何度かの逃げの打ち合いを経て、40km程走った辺りで形成された逃げは31人と、結構な大人数。

ユンボ、イネオス・グレナディアーズ、ロット・スーダルがそれぞれ3人ずつ選手を送り込んだ上に、優勝経験のあるグレッグ・ファンアーベルマートAG2R)のようなエース格の選手も含んだ、なかなかのメンバーが揃っている。

そのまま舗装路区間は特に大きな動きはなく、逃げはメイン集団から1分40秒程のリードを与えられた状態で残り161.4km地点から始まる最初の石畳区間に突入していき、いよいよレースが本格的に始まる。

 

石畳区間に入ると、やはりそこに広がっていたのは泥にまみれて非常に滑りやすい状態の石畳で…、案の定トラブルが続出。

続出するパンクと落車、そして集団は分断…。

選手達は当然泥まみれとなっているし、そのカオスなレース展開と合わせて早くも地獄絵図だ…。

セクター27では、先頭集団からフロリアンフェルメールシュ(ロット)、ニルス・エーコフ(チームDSM)、ルーク・ロウ(イネオス)、マクシミリアン・ヴァルシャイド(チーム・クベカ・ネクストハッシュ)の4人が先行に成功。

しかし、セクター24でヴァルシャイドは落車、更にはロウも遅れていき(パンク?)、先頭はフェルメールシュ(22歳)とエーコフ(23歳)の若手2人に

一方、後方の追走集団とメイン集団もトラブル続きでドンドン人数を減らしていく。

特に、メイン集団では落車が頻発してかなり悲惨な状況。

残り136km地点では、優勝候補のサガンがコーナーでスリップして落車、そのまま集団から遅れてしまう…。

他にも、エドワード・トゥーンス(トレック・セガフレード)、シュテファン・キュング(グルパマFDJ)、ジョン・デゲンコルブ(ロット)など、有力選手も含めて落車が頻発…!

もはやメイン集団は集団の体を成していないような状況で、最初の勝負所と言える難易度5つ星の第19セクター「アランベール」突入前に生き残っているのは、なんと僅か20人以下…!?

厳しい展開のレースを「サバイバルレース」なんてよく言うけれども、サバイバルという言葉では生ぬるい、まさに地獄のような展開だ…。

 

気が付けばいつの間にか雨も上がっている中、残り95.3km、遂に今大会最初の5つ星セクターである「アランベール」に突入。

先頭は相変わらずフェルメールシュとエーコフの2人。

そこから40秒程遅れて追走集団、人数は20人弱ぐらいか。

その更に1分後方にメイン集団(?)、人数は…13人しかいない。

例年と比べて明らかにスピードを落として突入していったアランベールでも、やはり落車は起きてしまう。

追走集団で単独落車、そしてメイン集団ではファンアールトも巻き込む落車が起きてしまい、集団が分裂。

更に出口付近でも追走から遅れた選手との接触によって落車があり、もうメイン集団はめちゃくちゃ…。

ファンアールトは舗装路でなんとかファンデルプール達のグループに合流するけれども、そのグループからソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス)など数名の選手が飛び出して前方を追いかけるという、なんとも落ち着かない展開。

そして残り83km辺りでは先頭の2人に追走の選手が数人追いつき、一時は10人程になる。

 

残り71.5kmから始まる4つ星の第15セクター「ティヨワ〜サール=エ=ロジエール」で動いたのは、メイン集団のファンデルプール。

皆が慎重に曲がりたがる連続する直角コーナーを利用してアタックを仕掛けると、メイン集団は分裂!

最大のライバルと言えるファンアールトは…集団後方にいたために反応できていない!!

ファンデルプールの加速は強烈で、ランパールトを含む数人の選手が一旦は反応するけれども最終的には千切れてしまい、ファンデルプールは単独で前方のコロブレッリなどのいる追走集団に合流!

更に、ファンデルプールは合流したと思ったらまたしても加速!!

流石にこれにはコロブレッリなどがしっかりと反応してアタックは不発に終わるけれども、なんという積極性だ…。

この一連の動きで、後方のファンアールトのいる集団とのタイム差は一気に30秒にまで広がる事に。

 

石畳区間を通過するたびに徐々に人数を減らしていた先頭集団で大きな動きがあったのは、残り54.1kmから始まる4つ星の第12セクター「オシー〜ベルシー」。

フェルメールシュ、ジャンニ・モスコン(イネオス)、トム・ファンアスブルック(イスラエル・スタートアップネーション)の3人で第12セクターに突入すると、ここまでも積極的に牽引をしてきたモスコンがアタックして、単独での抜け出しに成功!!

モスコンは続く5つ星の第11セクター「モンサン=ぺヴェル」で後方のファンデルプールとのタイム差を1分20秒にまで広げ、そのまま力強く独走!!

タイムトライアルのイタリア王者に輝いた経験もあるモスコンの独走力はやはり抜群で、逃げ遅れた2人を飲み込んだファンデルプールの猛追でもなかなかタイムが縮まらない!

 

残り30km、順調に独走を続けて逃げ切りの可能性も見えてきたモスコンを、アクシデントが襲う。

なんと、舗装路で痛恨のパンク…!

バイク交換をしてすぐさま再スタートをするけれども、やはりここで20秒ほどタイムを失い、追走集団とのタイム差は45秒前後に。

更に、モスコンは交換したバイクの空気圧が合っていない(高い?)のか、続く第7セクターでかなり自転車が跳ねる様子を見せ、しきりに自転車を気にしている…。

そして恐れていた事態が起きてしまう。

残り26km辺り、モスコンがコーナーで転倒…!

タイム差は一気に15秒にまで縮まってしまう…。

残り19.9kmから始まる4つ星の第5セクター「カンファナン=ぺヴェル」で、追走集団からファンデルプールがアタック!

付いていけたのはフェルメールシュとコルブレッリの2人のみ、そして先頭を走るモスコンはもう目の前だ!

第5セクターを抜けてすぐ始まる最後の5つ星の石畳区間カルフール=ド=ラルブル」で、ファンデルプールがまた加速するとモスコンは遂に吸収、そして直後にコルブレッリがアタックを仕掛けるとモスコンのみが脱落してしまう…。

ここまでレースを引っ張て来たモスコンは強さを明確に見せていただけに、トラブルを起因に脱落してしまうのは残念…ではあるけれども、これもこのレースの一部か…。

 

最後の難所と言える第4セクター「カルフール=ド=ラルブル」を抜け、先頭は3人。

奇しくも、ファンデルプール、コルブレッリ、フェルメールシュ、全員がパリ~ルーベ初出場。

「怪物」ファンデルプール、「欧州王者」コルブレッリ、そして独走力を有する22歳の俊英フェルメールシュ、優勝はこの3人に絞られた。

 

実績では明らかに劣り、更には序盤から逃げに乗って消耗しているはずのフェルメールシュが先頭で優勝争いをしている時点で驚きだけれども、フェルメールシュは全く臆せずに先頭交代もこなすなど、堂々とした立ち振る舞いを見せる。

フェルメールシュの過去の実績は…2020年ビンクバンク・ツアー総合9位、そして今年の世界選手権U23個人タイムトライアルで3位辺りが大きなリザルト。

万が一勝ったら大金星となるフェルメールシュは、スプリント力では猛者2人に対して勝機が薄い事をもちろん認識していて、残り3km地点では抜け出しの可能性を求めてアタックを仕掛ける!!

当然この動きにはファンデルプールもコルブレッリも反応してアタックは失敗に終わるけれども、しっかり自分の形で勝利を狙うその姿勢、本当に凄いな…!!

 

そして勝負は3人によるヴェロドロームでのスプリント決着へ。

警戒されて前に出されているのはやはりファンデルプール。

スプリント力のあるコロブレッリとしては狙い通りの展開、そしてフェルメールシュは最後方に位置取りをして様子を窺う。

最終コーナー手前、少し早めに仕掛けたのはフェルメールシュ!!
フェルメールシュが先頭でコーナーを抜け、コルブレッリ、ファンデルプールの順でその外から最後の力を振り絞ってのスプリントを開始!!

大外のファンデルプールはその踏みに力が無くイマイチ伸びない、そしてフェルメールシュが意外といい粘りを見せる!!

それでも、コロブレッリが流石のスプリント力を見せて僅かに前へ出る!!

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「北の地獄」の二つ名に相応しい死闘を制したのはコロブレッリ!!

今シーズン絶好調の欧州王者コロブレッリ、初のモニュメント制覇!!

雄叫びを上げながら自転車を高く掲げ、そして地面に転がり大声を上げての大号泣!!

見ているこちらの心を震わす、まさに感情の爆発。

間違いなく実力はありながらも決して順風満帆ではなかったそのキャリア、今シーズンに入ってからの覚醒、それでも勝てなかったツールと世界選手権、そしてその末に掴んだパリ~ルーベという最高の栄冠。

なんというストーリー、そしてなんというこの日の勝ち方。

ソンニ・コルブレッリ、31歳。

この男の物語、その新たな章はきっとここから始まる。

 

2位に入ったのは、なんとフェルメールシュ!!

序盤から逃げながら最終盤まで残るタフさ、そして明らかな格上との勝負ながら最後の最後まで勝利の可能性を求めたその動きは、本当に素晴らしかった!!

まだ22歳、2着となって本気で悔しがっていたメンタルも含めて、来シーズン以降も期待したい!!

 

3位に終わったファンデルプールは、最後はスプリントをする余力が残っていなかったか…。

ただ、中盤以降積極的に仕掛けてレースを動かしたのは、間違いなくこの男。

その「怪物」っぷりはしっかり発揮していたと思うし、胸を張ってまた次の目標に向かっていってほしい。

 

 

2年半ぶりに開催されたパリ~ルーベ、20年振りの雨のパリ~ルーベは、その「北の地獄」という二つ名の通り、そしてモニュメントという最高峰の格に相応しい、過酷で激しいレース展開で…最高に面白かった!!

「荒れた石畳の上を走る」という特殊なレースながら、泥だらけになりながら体力の限界まで振り絞って走る選手の姿、そして繰り広げられる展開の熱さは、逆にある意味でレースの根源のような魅力を強烈に伝えてくれたと思う。

来シーズンは再び通常通り4月開催の予定、つまりもう半年後だ!!

気の早い話かもしれないけれども、今から楽しみにしていたい!

 

それでは、また!

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