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【レース感想】ロンド・ファン・フラーンデレン 2021

スグリーンと言う名の狼

モニュメント(5大クラシック)の1つ、「クラッシクの王様」ことロンド・ファン・フラーンデレン

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「北のクラシック」のもう一つの頂点であるパリ~ルーベが秋へと延期になったため、今年は選手もファンもある意味では例年以上に熱を帯びての開催に。

 

主だった優勝候補は以下の通り。

  • 昨年覇者、「怪物」マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)
  • 昨年準優勝、異次元の脚質を持つワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィスマ)
  • 「ウルフパック」のエース、世界王者ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ
  • 現在絶好調、「ウルフパック」のサブエース的存在カスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ
  • シクロクロス界からの新たな天才トム・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ
  • 石畳での実績十分の大ベテラン、グレッグ・ファンアーベルマートAG2Rシトロエン

(※今年もドゥクーニンク・クイックステップはこのレース限定でチーム名をエレガント・クイックステップに変更しているけれども、略して「エレガント」では何のことかさっぱり分からないので、この記事内ではドゥクーニンクと表記

構図としては、ファンデルプールvsファンアールトvsドゥクーニンク勢vsその他、だと思う。

圧倒的な個の力を誇るファンデルプールとファンアールトにその力を発揮させないために、ドゥクーニンクがいかに先手を取って主導権を握るか、そして他のチームはその間隙を縫って勝負できるか、って感じかな。

 

それを踏まえて自分の予想がこちら。

肌寒い曇り空の予報だったこの日は、個人的には「ファンデルプールは寒いのが苦手」という疑惑が晴れていないため、圧倒的な個の力を持つ怪物を穴枠に。

ドゥクーニンクからはアラフィリップともう一人入れようと思い、絶好調のアスグリーンは他からのマークが厳しいと予想してイヴ・ランパールトを大穴にチョイス。

 

高鳴る期待感を胸に、レースがスタート!

…なんだけど、レースの本筋に入る前に、レース途中で話題になっていた「あのシーン」についての個人的見解を。

問題のシーンはこちら。

ミハエル・シェアー(AG2R)がごみ捨て可能な指定区間以外でボトルを捨てたため、レース途中で失格処分に。

ボトルを捨てるというか「観客に空のボトルを投げ渡す」のは、伝統的なファンサービスとして選手にも観客にも浸透していたため、Twitterなどでは多くの人が「これで一発退場は厳しすぎる!」と反応している。

正直言って、感覚的には自分も厳しすぎるとは思うし、「罰金ぐらいでいいんじゃないの?」とも思う。

しかし、この「指定区間以外でのごみ捨ては失格」は、4/1から施行されると明文化されているルールなのだ。

しかも、先月までは移行期間として罰金処分という選手が慣れるための準備もされていたし、新ルール施行後最初の大きなレースという事でレース前に改めてアナウンスもあったらしい。

それを処分を受けたシェアーも理解しているから、動画を見れば分かるように「あ!やっちまった…!」というようなリアクションをしている。

ルールとして明文化されている以上、厳格に適用するのは当たり前と言うか必須であり、逆に緩い方が問題ですらある。

慣れていなくて違和感はまだあるし、ファンとの交流が減るのは寂しくも思う。

色々と緩くてファジーなのはロードレースの魅力の一つであるとも思う。

それでも、現代社会の中で競技として成立させるために(環境問題やら安全面に配慮してのルール改正らしい)、ルールはルールとしてしっかり守るべきなのだと思う。

 

それでは改めて、レーススタート!

意外と早めに成立した逃げは計7人、メイン集団とのタイム差は10分以上も開くけど、そして思ったよりもいいメンバーが逃げにいるけれども、まぁこんなもんでしょ。

 

メイン集団で最初の動きがあったのは、残り約100kmにある石畳の登り「モーレンベルグ」。

ドゥクーニンクがアスグリーンの牽引で集団のペースを上げ、まずは軽い攻撃。

やはりレースを動かしたいのはドゥクーニンクか。

これでメイン集団は少し活性化して、直後にいくつかアタックや抜け出しのような動きもあったけれども、これらは問題なく吸収される。

 

その後しばらく集団は落ち着いた状態で進行し、レースが本格的に動き出したのは残り55kmにある最初の勝負所、「2回目のオウデクワレモント」。

ドゥクーニンクに主導権を握らせまいと、ファンデルプールがアタックを繰り出す!

そうはさせじと食らいついたのは、先日のE3・サクソバンク・クラシックで優勝と好調のアスグリーン。

スグリーンはファンデルプールにしっかりと張り付き、ファンデルプールもこれだけ厳しくマークされたら無理をせずに一旦緩めるしかない。

 

直後の「パテルベルグ」では、今度はアスグリーンがペースを上げて揺さぶりをかける。

先ほどとは逆にファンデルプールがしっかり反応してアスグリーンをマーク、アスグリーンの抜けだしを許さずに集団に引き戻す。

そしてパテルベルグを抜けた直後の平坦区間で、ティム・ウェレンス(ロット・スーダル)がアタックを仕掛けるとピドコックが反応して共に抜け出すことに成功。

この動きにアラフィリップ、フロリアン・セネシャル(ドゥクーニンク)、マルコ・ハラー(バーレーン・ヴィクトリアス)、クリストフ・ラポルテ(コフィディス)が乗っかる。

ファンデルプールとファンアールトは後方、そしてドゥクーニンクは前方に2人、後方にも2人と、ドゥクーニンクにとっては理想通りと言えそうな展開に!

 

残り45km、最大の難所とも言える「コッペンベルグ」でアラフィリップが追走集団から抜け出し、独走を試みる。

逃げ残っていたシュテファン・ビッセガー(EFプロサイクリング)は付いてきてしまったものの、これは大きな脅威にはなりえない。

エースが独走で後方に「2強」を置き去りにし、そしてそれをマークするチームメイトも複数残っている、ドゥクーニンクの必勝パターン!

…と思ったら、後ろからファンデルプールが引っ張る追走集団が猛烈な勢いで追い上げてきて、あっという間に先頭にジョインする!

しかも、ファンデルプールが連れてきた追走集団に、ドゥクーニンクの選手が誰もいない…!?

ドゥクーニンクのアスグリーン、セネシャル、ランパールトは、先頭から10秒程遅れた追走集団に取り残されてしまう事に。

 

先頭集団ではハラーが果敢な抜け出しを見せる一方、後方の追走集団(アスグリーン達がいる第3集団)は前方(アラフィリップ達がいる第2集団)に残り38km辺りで追いつくことに成功。

そして残り37km、ターインベルグに突入。

アタックを仕掛けたのはまたしてもアスグリーン、そしてピッタリとマークするのも再びファンデルプール。

というか、アスグリーンがマジで絶好調だな。

この2名に付いていけたのはアラフィリップとファンアールト、そしてディラン・トゥーンス(バーレーン)の3人。

そしてそのまま先頭を逃げるハラーを捕まえ、先頭は6人に。

 

先頭の6人に後方からアントニー・テュルジス(トタルディレクトエネルジー)が追いついた直後、残り27kmでまたしてもアスグリーンがアタック!

この平坦区間でのアタックについていけたのは、ファンデルプールとファンアールトの2人のみ…えぇ!?アラフィリップが付いていけない!?

え?それじゃ意味が無くない?

アラフィリップが後ろに単独でいてどうするの!?

一体どんな戦略的な意味があるのかとTwitterのタイムラインもざわつく中、自分も含めた多くのファンが段々と状況を飲み込み始める。

ただ単に、アラフィリップの足がもう残っていないんだと。

先頭の3人と後続のタイム差はどんどん広がっていく。

先頭はアスグリーン、ファンデルプール、ファンアールト。

スグリーンはたしかに絶好調だけど、規格外の2人を相手にできるかは…正直厳しいと、この時点では誰もが思っていたはず。

 

そして迎えた「3回目のオウデクワレモント」で仕掛けたのは、ここまでも積極的に動いてきたファンデルプール!

やはりファンデルプールに搭載されているエンジンは規格外で、2人を一気に突き放す…と言うか、ファンアールトは力なく遅れていってしまう。

逆に、力関係的には厳しいと思われていたアスグリーンがその後の舗装路区間でファンデルプールに追いつく!

残り13km、最後の勝負所となる「パテルベルグ」では、先頭の2人に差は付かない。

ガシガシと踏むファンデルプール、淡々と踏むアスグリーン、どちらも譲らない!

そして登坂の頂上ではアスグリーンが先行して抜けていく。

スグリーン、やはり絶好調というか、純粋に強い。

そして後方のファンアールトは、力なく蛇行しながらの苦しい登坂でタイム差を広げられてしまう…。

勝負は先頭の2人での争いに!

 

残りは平坦な舗装路のみで、大きな差を付けるような区間は残っていない。

こうなると、アスグリーンがいくら絶好調といえども、スプリントではファンデルプールが有利なのは明らか。

先ほどの登りで突き放せなかった以上、かなり苦しい状態になってしまったのは間違いない。

スグリーンがどうするのか多くのファンが固唾をのんで見守る中、先頭の2人はしっかりと先頭交代をして、残り距離はどんどん減っていく。

 

残り1.5km、ここまできれいにローテーションしていたアスグリーンが、先頭交代を拒否してファンデルプールを前に出させる。

後ろとのタイム差は40秒、牽制するには十分すぎるぐらいの余裕がある。

ファンデルプールはフェンス際を走ってアスグリーンの飛び出す方向を絞り、頻繁に後方を振り返ってアスグリーンの様子を窺う。

スグリーンは頑として前には出ない、ファンデルプールも脚を緩めながら勝負所を待つ。

残り300m、アスグリーンは腰を上げていつでも飛び出せる態勢をとる。

そして残り250mを切ると、ほぼ同時にスプリントを開始!

ファンデルプールが一気に突き放すのかと思いきや、差は広がらないどころか、アスグリーンがじわじわとその差を詰める!!

そして真横に並ぶかどうかのその瞬間、残り50mを残して、なんとファンデルプールが首を横に振り踏むのを止めた!?

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スグリーンは両手を広げ、雄たけびを上げながらフィニッシュ!!

圧倒的不利な状況と思われた中、モニュメント初制覇!!

正直、驚いた!

そして痺れた!!

誰もがスプリントではファンデルプール有利と考える中、自分を信じて無暗なアタックを繰り出さず、最後はスプリントで勝利したアスグリーン。

カッコよすぎるでしょ!!

E3優勝、そしてこの日も登りで再三強い姿を見せていたのだから、これはまぐれでも何でもない!

ただひたすら、アスグリーンがタフで強かった!!

チームで狩りをする狼の群れ、「ウルフパック」ことドゥクーニンク・クイックステップは、ワンデーレースに於いて当代最強のチームであるのは間違いない。

そしてその「ウルフパック」の強さは、それぞれの選手が「狼」たりえる強さを備えているからなんだと、改めて思い知らされた。

 

圧倒的に有利な状況と思われたファンデルプールは、最後の最後でガス欠となってしまい、残念ながら連覇とはならなかった。

しかし、トラブルで早々にアシストを失う厳しい状況の中、やはりその別格の個の力は凄まじかった。

ペース配分や終盤の駆け引きも含めて、まだまだロードレースについては勉強中かもしれないけれども、逆に言えばその辺りも身に付けばもっと強くなるのかもしれない。

 

追走集団の先頭、表彰台の残る1枠を掴み取ったのは、石畳巧者のファンアーベルマート

オリバー・ナーセンとのダブルエース体制が機能したとは言い難いものの、しっかりと3位に入るのはやはり流石と言ったところか。

 

衝撃のラストとなった今回のロンド・ファン・フラーンデレン

「あのファンデルプールが衝撃的な負け方をした」と語られる事が多くなるとは思うけれども、ここは声を大にして言いたい。

スグリーンが強いから勝ったんだと。

チーム戦術として積極的に仕掛ける姿。

登坂で見せた力強い走り。

ファンデルプールのアタックに一旦離されても落ち着いて追いついた冷静さ。

そして最後はスプリントを選んだ自信と覚悟。

そのどれもが勝者に値する素晴らしいものだったと、ただひたすらにアスグリーンを褒めたたえたい!

 

おめでとう、アスグリーン!!

本当に素晴らしい走りを見せてくれて、ありがとう!!

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