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【レース感想】ジロ・デ・イタリア2022 第17ステージ

バーレーン・ヴィクトリアスというチーム

終盤に1級山岳が2つ登場する、前日に続いての難関山岳ステージ。

山頂フィニッシュではないけれども、総合争いが起こるには十分な難易度だ。

 

この日の逃げも、様々な意図を持った選手が25人という、大所帯。

クーン・ボウマンの山岳賞をより強固なものとしたいチーム・ユンボ・ヴィスマがボウマンを含む3人を乗せた一方、2位に付けるジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)は単身での戦いに。

前日の逃げ切り勝利で総合9位(7分42秒遅れ)に浮上したヤン・ヒルトに、前待ちアシストの可能性があるアレッサンドロ・コーヴィ(UAEチームエミレーツ)やサンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス)といった、総合順位にも影響してきそうな選手も入っている。

 

序盤の3級山岳はしっかりとボウマンが先頭通過に成功して、前日に続いてそのリードを広げていく。

メイン集団が逃げに6分以上のタイム差を与える中、3級山岳後に続くアップダウン区間でアタックしたのはマチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)。

残り65.8km、スプリントポイントや1級山岳の入り口まではまだ10km以上を残したこのアタックに、J SPORTSの放送席も「どこ、ここ!?謎アタック!」「不可解ですよね」とコメントするしかない…。

そんなファンデルプールの相変わらず自由奔放なアタックに付いていったのは、ギヨーム・マルタンコフィディス)、フェリックス・ガル(AG2Rシトロエン)、コーヴィの3人。

こうして出来上がった4人の新たな先頭集団は、追走集団に1分20秒ほどのタイム差を付けて、この日1つ目の1級山岳へと突入していく。

先頭から7分近く離れているメイン集団は、イネオス・グレナディアーズがコントロール

ベン・スウィフトの牽引という事であまりペースは上がっていなかったけれども、落車の影響でひざを痛めていたサイモン・イェーツ(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)が、ここでリタイアを選択する事に…。

一方、先頭にはボウマン、ハイス・リームライゼ(ユンボ)、ブイトラゴ、ヒルト、ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・イージーポスト)が合流。

ボウマンはここでも目論見通り山頂先頭通過を果たして、山岳ポイントを40pt獲得。

これで2位チッコーネとの差は115ptと、そろそろマリア・アッズーラがかなり近づいてきたか。

 

山頂を越えてのダウンヒルで抜け出したのは、またしてもファンデルプール。

霧の中をかっとんで行くファンデルプールに追随したのはリームライゼ1人だけだ。

ダウンヒル、そしてその後の平坦区間で先頭の2人は追走とのタイム差を広げていき、この日最後の1級山岳入り口では、そのリードは1分30秒にまで拡大。

メイン集団は先頭から5分30秒と、このまま先頭(もしくは追走の選手)が逃げ切る事も十分にあり得るタイム差だ。

残り15km、先頭で仕掛けたのは…またまたファンデルプール。

なんと、クライマーのリームライゼを突き放していく…!?

ただ、流石にファンデルプールのこの動きはオーバーペースだったようで、徐々に失速してしまう。

逆に、淡々と自分のペースで刻み続けたリームライゼが残り11.6kmでファンデルプールに再合流。

明らかな登坂力の違いを見せつけるリームライゼは、そのままファンデルプールを突き放して独走を始める!!

一方その頃、追走集団からはブイトラゴが単独で飛び出して、先頭を猛追。

リームライゼまでは1分弱、ペース次第では十分に追いつける距離も残っている。

そしてメイン集団はリッチー・ポート(イネオス・グレナディアーズ)がペースアップによる攻撃を図る。

生き残っているのは、総合首位のリチャル・カラパス(イネオス)、総合2位ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)、総合4位ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)、そしてランダのアシストであるワウト・プールス(バーレーン)のみ。

この時点で遅れてしまっている総合3位のジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)は、流石に大幅なタイムロスを避けられないか。

 

先頭のリームライゼが黙々と自分のペースで独走を続けていたけれども、後ろから追いかけてくるブイトラゴのペースが、なんだかもの凄くないか…?

残り10km、40秒強のタイム差、

残り9km、25秒差…!?

そして残り8.6km、ブイトラゴが視界にリームライゼを捉えた!!

ブイトラゴは残り8.2kmでリームライゼを捕まえると、そのままアタック!!

リームライゼはなんとか食らいつくけれども、残り8kmからブイトラゴが更に加速を見せて突き放し、そのまま単独で山頂を通過!!

10秒ほどのリードを作って下り基調区間を独走していく!!

 

一方、メイン集団はプールスが遅れそうになるシーンもありつつ山頂まで気合で牽き切り、カラパス、ヒンドレー、ランダというエース3人に動きはないまま、逃げ遅れの選手を飲み込みながらダウンヒルをこなしていく。

あとは、遅れたアルメイダがどのくらいのタイム差になるかが最大の焦点か。

 

先頭のブイトラゴは順調に…というか、リームライゼとの差を広げるぐらい快調にダウンヒルをクリア!!

最後は雄叫びを上げながらのフィニッシュ!!

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22歳のブイトラゴ、ジロの山岳ステージでワールドツアー初勝利!!

第15ステージでは強さを見せながらの2位という結果だったけれども、早くもその悔しさを晴らす事に成功!

黙々とペース走をこなす事も出来るし、この日見せたキレキレのアタックもあるとなると、これはかなり強い選手なのでは…?

コロンビアの新たな有望選手として、今後に大いに期待したい!!

 

ブイトラゴから約3分後、カラパスたちのグループもフィニッシュ地点へ。

最後の緩い登りでカラパスが加速すると、ランダが付いていけない…!?

カラパスとヒンドレーに対して、ランダは6秒のタイムを失ってのフィニッシュに…。

 

そしてアルメイダは…カラパスとヒンドレーから1分10秒遅れてフィニッシュ。

これは…早い段階で遅れた割には、相変わらずよく粘ったと言うべきか…?

とりあえず、この日を終えての総合上位勢のタイム差は以下の通り。

  • 総合首位:カラパス
  • 総合2位:ヒンドレー(+3秒)
  • 総合3位:ランダ(+1分5秒)
  • 総合4位:アルメイダ(+1分54秒)

総合争いをしていると言えるのは、ここまでかな。

好調のカラパスとヒンドレーが僅差すぎて、この先の展開がかなり楽しみだ。

 

そして3位のランダ…というか、この日のバーレーンの戦略について少し思った事を…。

ブイトラゴでステージを獲りつつ(狙いつつ)、その結果としてランダが6秒を失うというのは、(アルメイダを蹴落として総合順位は上がったけれども)結果だけ見ればある種「少し失敗」と捉えられなくもない気はする。

恐らく総合に「全振り」しているイネオスなんかでは絶対にありえない戦略を、この日のバーレーンは選択したと思う(まあ、「ブイトラゴに前待ちさせたらランダが最後まで力を残せたか」というのは結果を知りようがない仮定ではあるけれども…)。

で、このバーレーンの戦略が間違っていたかどうかに関しては、個人的には間違っていたとは言いたくない。

ブイトラゴがステージを獲れたからという結果論ではなく、選択の幅という観点で、この日のバーレーンが選んだ戦い方は尊重されるべきものだったと思うのだ。

 

イネオスなんかの「ひたすら総合に全力を尽くす」スタイルは、優先順位を明確にさせた潔いもので、ある種ものすごく分かりやすいやり方だと思う。

その一方、この日のバーレーンのような「アシスト選手にもチャンスを与えつつ総合を狙う」というスタイルは、自由度がありつつも「二兎を追う者は一兎をも得ず」に陥る可能性もある、難しいやり方だと思う。

ネガティブな部分(この日の場合はランダの6秒喪失)を見て結果論で語るのは簡単な事だけれども、本質的な問題はそこではない。

「総合に優先順位を置くと同時にステージを獲りに行ったチャレンジングな姿勢」というのを、自分は評価と尊重したいのだ。

そして、これはイネオスのような「総合全振り」を評価しないという意味でもない。

この「バーレーンのようなスタイル」と「イネオスのようなスタイル」は、どちらが優れているかなどと比べるものではなく、あくまで同列に存在している選択の幅でしかないと思うのだ。

 

…え~、なんだか長々となってしまったけれども、一言でまとめるなら「この日のバーレーンのやり方は決して間違いなんかではなく、素晴らしいチャレンジだった」といったところかな。

残す総合争いのラインレースは第19ステージと第20ステージ。

各チームがどのような戦い方をしてくるのか、楽しみにしていたい。