超級シエラネバダ
1級山岳アルト・デル・プルシェを越えて、今大会唯一の超級山岳であるシエラネバダにフィニッシュする最難関ステージ。
まずアルト・デル・プルシェが10%前後の勾配が続く難関、直後に始まるシエラネバダは登坂距離19.3㎞・平均勾配7.9%、フィニッシュ地点の標高は2,512mという、とんでもないレイアウト。
シエラネバダ終盤は多少勾配が緩む(7%前後を「緩む」と評していいか分からないけれども)とは言え、逆に言えば登り口に3kmほどの急勾配区間(最大勾配20%)がある訳で…。
もし総合首位のレムコ・エヴェネプール(クイックステップ・アルファヴィニル)が前日の不調を引きずっていて、シエラネバダの早い段階で遅れたりしたら、大幅なタイム喪失も充分にありえてしまう。
3週目の山岳設定が少し易しい事もあって、ライバルは間違いなくここでタイム差を奪いに来るはず。
今大会最大の勝負所、はたしてどんな展開が繰り広げられるか。
展開次第では逃げ切りもあり得るという事で、この日も序盤から激しいアタック合戦の様相に。
ローハン・デニス(チーム・ユンボ・ヴィスマ)、ヴィンチェンツォ・ニバリ(アスタナ・カザクスタン・チーム)、ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・イージーポスト)という実績のある3人が抜け出した後、ポイント賞ジャージを着るマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)、山岳賞ジャージを着るジェイ・ヴァイン(アルペシン・ドゥクーニンク)、ステージ2勝を挙げているリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)、総合11位のティメン・アレンスマン(チームDSM)、総合13位のジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)、総合14位のルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)など、かなり強烈なメンバーも合流した結果、29人と言う大型の逃げが形成される。
「前待ち」の可能性がある選手として、ユンボはデニスとサム・オーメン、クイックステップはファウスト・マスナダとルイス・フェルファーケ、UAEチームエミレーツはマルク・ソレルとブランドン・マクナルティ、アスタナはダビ・デラクルスが逃げに乗る事に(イネオスもカラパスにその可能性があり?)。
メイン集団は一旦5分以上のタイム差を与えるけれども、総合10位のベン・オコーナーを抱えるAG2Rシトロエンがクレモン・シャンプッサンやボブ・ユンゲルスを牽引役に据えて、徐々にタイム差を縮めていく。
平坦区間で先頭集団からローソン・クラドック(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)が抜け出して、後続に1分30秒ほどのタイム差を付けたけれども、1級山岳アルト・デル・プルシェの登坂に入ると一気にペースダウン。
失速したクラドックをヴァインが追い抜き山頂を先頭通過して、ヴァインは山岳賞キープに向けて貴重なポイントゲットに成功。
ヴァインはそこから無理はせずに、絞り込みがかかって人数を減らした追走集団との合流を選択する。
一方のメイン集団は、大きな動きが無いままアルト・デル・プルシェを通過。
そして超級シエラネバダを前にして、逃げ集団からデニス、オーメン、マスナダという3人の前待ち要員が降りて来て合流する事に(ただ、マスナダはその後の下りで落車して脱落してしまう)。
先頭集団は3分30秒ほどのリードを有して超級山岳シエラネバダに突入。
登坂開始直後の急勾配区間でアタックを仕掛けたのは、今大会既にステージ1勝を挙げているソレル。
ソレルを追う脚が残っているのは、ヴァイン、ヒンドレー、リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・イージーポスト)、ティメン・アレンスマン(チームDSM)など、5人強ほど。
フェルファーケは無理をせずにペースを落として、メイン集団との合流のタイミングを計っている。
そしていよいよメイン集団もシエラネバダに突入。
突入直後、4人のアシスト選手を残すユンボがオーメンによる猛牽引を開始…したんだけれども、オーメンのアタックのような加速に肝心のプリモシュ・ログリッチ(だけでなくどの選手も)が付いていけない?
「急勾配区間でペースを上げる」のは確かに手の一つだとは思うし、「激坂が苦手」疑惑のあるエヴェネプールを振るい落としたかったのだろうけれども、ちょっと噛み合っていない感が…。
結局、ユンボはこのアタックでクリス・ハーパー以外のアシストを失うという、作戦失敗とも言える結果に終わってしまう。
この時点でメイン集団に生き残っているのは、エヴェネプール、ログリッチ、ハーパー、エンリク・マス(モビスター・チーム)、ミゲルアンヘル・ロペス(アスタナ・カザクスタン・チーム)、オコーナー、レイン・タラマエ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)、カルロス・ロドリゲス(イネオス)、テイオ・ゲイガンハート(イネオス)、ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)と、10人のみ。
絞り込みを掛けたという意味ではユンボの作戦も意味がゼロでは無いのかもしれないけれども、結果的にあそこでハーパー以外のアシストを失ってまでやる意味がどれだけあったのかは…正直よく分からない。
残り19km、先頭は依然ソレルが独走を継続。
その40秒ほど後方の追走集団からは、カラパスがメイン集団に向かって降りていく事を選択。
ソレルから3分10秒ほど後方のメイン集団では、ハーパーが仕事を終えて離脱。
そうなると、総合逆転を目指すログリッチがエヴェネプールの脚を削るために集団の前を牽くけれども、あまりペースが上がっていない様子が見て取れる。
残り17.5km、逆にエヴェネプールが前に出て牽引を開始。
対するログリッチは…何故か集団の最後方へ回る。
あまりログリッチらしくないこの行動、さきほど登り口でオーメンの牽きについて行けなかった走りと合わせて、もしかしたら調子がイマイチなのか…?
残り15km、先頭のソレルは変わらず40秒ほどのリードをキープ。
その頃メイン集団では、フェルファーケが前方から降りて来て合流し、エヴェネプールのために牽引を開始。
緩斜面区間で、アタックを封じつつエヴェネプールの脚を温存する、素晴らしいタイミングでの前待ちだ。
その少し後には、イネオスも前待ち作戦を発動。
メイン集団から離されたロドリゲスのタイム喪失を少しでも防ぐために、前から降りてきたカラパスが必死の牽引を見せている。
ただ、総合4位ロドリゲスの直接的なライバルである総合5位フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)が後ろに張り付いているのが気になるところ、
更には、ここに後方からなんとジョアン・アルメイダ(UAE)が合流。
アルメイダ、相変わらずペース走による異次元の復帰能力だ。
残り10.6km、遂にメイン集団で動きが。
総合6位のロペスがアタック!!
高地適正のあるロペスのアタックは素晴らしいキレで、総合タイム差に開きがあるログリッチやエヴェネプールは反応せずに見送る事を選択。
そして総合上位の2人が静観の構えなのを見て、総合3位のマスもアタックを繰り出す!
この動きをログリッチは…追わない?
マスとログリッチの総合タイム差は54秒、果たしてこのログリッチの選択は大丈夫なのか…?
真っ先に飛び出したロペスは前待ちの為に残っていたデラクルスと合流、そしてマスもここに追いつく事に成功。
追いかけるエヴェネプール、ログリッチ、オコーナーの集団からはフェルファーケが仕事を終えて離脱、牽引は…エヴェネプールが担っている。
総合10位のオコーナーはともかくとして、総合3位のログリッチが牽引をしないのは…作戦なのか、それとも脚が無いのか。
その頃、先頭のソレルを追う追走集団から、アレンスマンが単身での飛び出しを敢行。
アレンスマンは残り7kmでソレルを捉え、そしてそのまま抜き去っていく!
マスとロペスの集団からは1分20秒、エヴェネプールとログリッチの集団からは1分45秒のリードを持って、このまま逃げ切りとなるか?
残り5km、ロペスのアシストをしていたデラクルスが離脱すると、脚を温存していたロペスとマスはペースアップ。
一旦は10秒ほどまで近づいていたエヴェネプールとログリッチの集団を、再び20秒差以上に突き放し、そして前方に逃げ残っていたヴァイン、ヒンドレー、メインチェス、ウランの集団に合流する。
ただ、先頭のアレンスマンは更にその1分30秒ほど前方を独走中。
アレンスマンはそのままタイム差を保ちながら残り1kmを通過、これは…逃げ切り勝利が見えてきた!
その直後、2分ほど後方のエヴェネプール、ログリッチ、オコーナーの集団で遂に動きが。
仕掛けたのは…ここまでエヴェネプールにひたすら牽かせていたログリッチ!!
自身の脚がイマイチの状況でもひたすらエヴェネプールの脚を削る選択をし続け、虎視眈々とアタックのタイミングを窺っていたのか…!!
オコーナーはログリッチの背中を捉えて同行するけれども、エヴェネプールは付いていけない…!!
残すは1km強、エヴェネプールは付いていけないと言うか、無理して食らいつく事による大失速のリスクを考えて、ペースで登る事を選択しているようにも見える。
果たして、損失をどの程度で抑えられるか。
先頭を独走するアレンスマンは、苦しさに顔を歪めながらもその踏みは衰えず、無事にフィニッシュ地点へ!!
最後は歓喜に手で顔を覆いながらフィニッシュ!!
超級山岳で見事な逃げ切り!!
オランダ期待の大型オールラウンダーであるアレンスマン、その才能の大きさを改めて証明するグランツール初ステージ勝利!!
2018年にツール・ド・ラブニール総合2位、2020年と2021年は2年連続でブエルタのステージ3位と、これまでもポテンシャルは度々見せていた。
そうして迎えた今シーズン、ティレーノ~アドレアティコ総合6位、ツアー・オブ・ジ・アルプスでエースのロマン・バルデを総合優勝に導きながら総合3位、ジロ・デ・イタリアではステージ2位が2回、ツール・ド・ポローニュでは待望のプロ初勝利と、安定して結果を残していた。
そして掴んだ、この日の勝利。
来シーズンはイネオスが獲得予定という噂も納得の、素晴らしい走りだった。
今後の走りにも大いに期待したい。
アレンスマンから1分23秒遅れて、マスがロペスを2秒突き放してフィニッシュ。
直前まで同行していたヴァインがそのまま4位に入り、この超級山岳でも山岳ポイント獲得に成功。
そしてマスから21秒遅れて、ログリッチがフィニッシュ。
注目のエヴェネプールは…ログリッチから15秒遅れてフィニッシュ。
早々にペース走に切り替えたのが功を奏したのか、タイム喪失は最小限で済んだと評していいと思う。
改めて、2週目が終わった時点でのタイム差を確認。
- 総合首位:エヴェネプール
- 総合2位:ログリッチ(1分34秒遅れ)
- 総合3位:マス(2分1秒遅れ)
- 総合4位:アユソ(4分49秒遅れ)
- 総合5位:ロドリゲス(5分16秒遅れ)
- 総合6位:ロペス(5分24秒遅れ)
- 総合7位:アルメイダ(7分0秒遅れ)
- 総合8位:アレンスマン(7分5秒遅れ)
- 総合9位:オコーナー(8分57秒遅れ)
- 総合10位:ヒンドレー(11分36秒遅れ
第14ステージ・第15ステージの山岳2連戦、エヴェネプールが若干の綻びを見せつつ、結局は上手く堪えて総合首位の座をキープに成功。
決して安泰と言えるタイム差では無いけれども、上出来と言っていい結果だと思う。
逆転を狙って攻めたログリッチは、自身も若干の不調でエヴェネプールを捉えきれなかったけれども、遅れを喫した1週目と比べてコンディションが多少上向いてきたのは、3週目に向けてポジティブな材料なのは間違いない。
そして総合3位のマスは、上位2人よりもコンディション面が安定している事もあって、こちらもまだまだ総合優勝の可能性も考えられるタイム差をキープ。
失ったタイムもその多くがタイムトライアルでのもの…というか、第1ステージ(チームタイムトライアル)と第10ステージ(個人タイムトライアル)のタイム差さえなければ、数字の上では最もタイムが良くなる、つまりここまで登坂で最強なのはマスなのか…。
残すはあと6ステージ、3週目は山岳の設定がこの2日間ほど厳しくはないとは言え…、このタイム差、そしてばらつきの見えるコンディションだと、何が起こってもおかしくはない。
大激戦のブエルタ、最後の最後まで盛り上がりそうだ!