情熱の走りで見る者を魅了するフランスのヒーロー
選手名:ジュリアン・アラフィリップ(Julian Alaphilippe)
所属チーム:ドゥクーニンク・クイックステップ
国籍:フランス
生年月日:1992年6月11日
脚質:パンチャー・オールラウンダー
主な戦歴
山岳賞(2018)、総合敢闘賞(2019)、通算ステージ5勝(2018 × 2、2019 × 2、2020)
ステージ1勝(2017)
・世界選手権個人ロードレース
優勝(2020)
・ミラノ~サンレモ
優勝(2019)、2位(2020)
優勝(2018、2019)、2位(2015)
優勝(2018)
・ストラーデ・ビアンケ
優勝(2019)
どんな選手?
分かっていても止められないような強烈なパンチ力を武器に、大舞台で勝利を量産する当代随一のパンチャー。
「一撃必殺の猛烈なアタック」が最大の武器であるパンチャーなのは間違いないが、ダウンヒル能力、タイムトライアル能力、登坂力にも非凡なものがある多才な選手で、特にダウンヒルを攻める上手さとアグレッシブさは現役トップクラスである。
2014年、エティックス・クイックステップ(現ドゥクーニンク・クイックステップ)でプロデビュー。
プロ2年目の2015年に、フレッシュ・ワロンヌとリエージュ~バストーニュ~リエージュという2つのアルデンヌクラシックで2位に入り、そのパンチャーとしての才能を早くも世に知らしめる。
しかし、続く2016年はいい走りを見せつつもワールドツアーでは勝ちきれないレースが続いてしまう。
一旦足踏みしたかにも見えたが、2017年のパリ~ニースの個人タイムトライアルステージでワールドツアー初勝利を上げると、ブエルタ・ア・エスパーニャでもステージ勝利を上げて頭角を現し始める。
そして2018年、その才能が一気に爆発する。
4月のイツリア・バスク・カントリーでステージ2勝を上げると、フレッシュ・ワロンヌを制してクラシック初勝利、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネでステージ1勝、ツール・ド・フランスでステージ2勝と山岳賞獲得、クラシカ・サンセバスティアン優勝など、年間12勝を挙げる活躍を見せて一気に覚醒。
2019年も、モニュメント(5大ワンデーレース)の1つであるミラノ~サンレモ優勝や昨年に続いてのフレッシュ・ワロンヌ優勝など春先から勝利を重ね、絶好調の状態でツール・ド・フランス2019を迎える。
積極的な走りでステージ2勝を上げるだけでなく、総合1位の証であるマイヨ・ジョーヌを14日間着用し続ける大活躍で、地元フランスを熱狂の渦に巻き込んだ。
最終的には総合5位に終わり34年ぶりのフランス人による総合優勝は果たせなかったが、その溢れんばかりの情熱を迸らせながら走る姿は大会中で最も輝いていた。
特に、第13ステージの個人タイムトライアルで、総合争いのライバルでありタイムトライアル巧者のゲラント・トーマスを破ってステージ勝利を飾ったシーンは、大会のハイライトシーンの1つと言えるだろう。
※ツール・ド・フランス2019、第13ステージゴール直後のアラフィリップ
タイムトライアルステージで勝利したり、ある程度は山岳もこなすなどオールラウンダー的な才能も垣間見えるが、ツール・ド・フランス2019も最終盤の山岳ステージで失速したように、本質的にはグランツール(3大ステージレース)の総合優勝争いには向かないパンチャー的な脚質の選手である。
本人もそれは理解しており、2020年シーズンのツール総合は狙わないと明言している。
それでも、観ている者の心を揺さぶるような魂の走りは今年も多くのファンの感動を呼ぶだろう。
アラフィリップが情熱を燃やし続けている限り、その輝きが失われることは無いはずだ。
※2020年12月23日追記
年間を通して活躍した2018年や2019年と違い、2020年のアラフィリップは調子の波が大きかったために、安定して勝ち星を稼ぐ事ができなかった。
新型コロナウィルス感染拡大の影響でレース数が少なかったとはいえ、わずか年間3勝(ワールドツアーでは2勝)に終わってしまう。
ただし、そのワールドツアーの2勝はとてつもなく大きかった。
まずは、通算5勝目となるツールでのステージ勝利。
絶対的武器である短い丘でのアタックで抜け出しを図り、後ろに付いてきたマルク・ヒルシとアダム・イェーツをスプリントでしっかりと抑えて勝利を上げた。
そしてもう一つは、念願のタイトルであった世界最高選手権個人ロードレース。
全長258.2km・獲得標高が5000mという厳しいコース設定でどの選手も限界に近い状態のレース終盤、残り12km地点で必殺のアタックを繰り出すと、アラフィリップの背中を捉えられる選手はいなかった。
そのまま残りのダウンヒルや平坦区間を独走し、見事に世界王者の座に就いた。
しかし不思議なもので、アルカンシェルを身に纏い臨んだ2つのモニュメントで、アラフィリップの歯車は上手く回らない。
リエージュ~バストーニュ~リエージュでは小集団スプリントで勝利を確信してガッツポーズを見せるも、その隙にプリモシュ・ログリッチに抜かれて2着となる大失態を犯してしまう。
更にはスプリントでのコース取りが危険な進路妨害とジャッジされ、降格処分を受けて5位となってしまった。
気を取り直して今度はロンド・ファン・フラーンデレンに初挑戦。
荒れた路面に不利とされる細身の体形ながら石畳の上を巧みに走り、レース終盤に下りでのアタックで抜け出すことに成功すると、このアラフィリップの動きに追いつく事が出来たのはマチュー・ファンデルポールとワウト・ファンアールトのみ。
このまま3人での優勝争いかと思いきや、ここでとんでもないアクシデントが発生してしまう。
なんと、アラフィリップがオフィシャルモトと衝突して激しく落車してしまったのだ。
もの凄い勢いで地面に叩きつけられたアラフィリップは手の骨を骨折してしまいそのままリタイアとなり、初挑戦ながら可能性を感じさせた「クラシックの王様」は不本意な形で幕を閉じる事となった。
調子の波が激しくて勝ち星は伸び悩み、そしてシーズンの最後は落車による骨折という残念なものになってしまったが、それでも2020年シーズンもアラフィリップらしい情熱を振りまくような熱い走りは健在だった。
やはりアラフィリップはアラフィリップであり、彼が心のままに走れば、その情熱はそこに何かしらの物語を生み出すのだ。
2021年シーズンも、王者の証である虹色のジャージを身に纏ってのその走りが本当に楽しみで仕方がない。
何しろ、これほど絵になる男、アルカンシェルが似合う男はそうそういないのだから。