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【選手紹介Vol.14】ロマン・バルデ

不振からの脱却を目指す知性派クライマー

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選手名:ロマン・バルデ(Romain Bardet)

所属チーム:チームDSM-フェルミニッヒ・ポストNL

国籍:フランス

生年月日:1990年11月9日

脚質:クライマー

 

主な戦歴

 ・ツール・ド・フランス

 総合2位(2016)、総合3位(2017)、山岳賞(2019)、総合敢闘賞(2015)、ステージ通算3勝(2015、2016、2017)

ブエルタ・ア・エスパーニャ

 ステージ1勝(2021)

・世界選手権

 2位(2018)

クリテリウム・デュ・ドーフィネ

 総合2位(2016)、総合3位(2018)、ステージ1勝(2015)

リエージュ~バストーニュ~リエージュ

 3位(2018)

・ストラーデ・ビアンケ

 2位(2018)

 

どんな選手?

ツール・ド・フランスの表彰台に2度登る登坂力と、大学で2つの学問を修めるインテリジェンスを兼ね備えた知性派クライマー。

 

プロ2年目の2013年に22歳にして早くもツール・ド・フランスに出場し、チームのエースであるジャン=クリストフ・ペローの落車リタイア後はエースを務め、最終的に総合15位につけて早くも頭角を現す。

翌2014年もペローのアシストを務めながら、同じくフランス人で同い年のティボー・ピノ(グルパマ・FDJ)と新人賞争いを繰り広げる。

個人成績ではピノに敗れるも、エースのペローを総合2位に送り込みつつバルデ自身も総合6位でフィニッシュを果たす。

続く2015年は総合9位ながらも第18ステージではステージ勝利を飾り、総合敢闘賞にも輝く。

 

ここまでの順調な成長にフランス期待の星として注目を浴びたバルデだが、遂に2016年はエースとしてツール・ド・フランスに挑む事に。

前哨戦のクリテリウム・デュ・ドーフィネでは前年のツール覇者クリス・フルーム(チーム・スカイ)に続く総合2位につけ、期待も高まる中ツール・ド・フランス2016に乗り込んだ。

苦手なタイムトライアルステージも無難に乗り切り第18ステージ終了時点で総合5位につけていたバルデは、第19ステージで勝負に出る。

雨で路面状況が悪いために落車が多発する危険な状況の中、なんとダウンヒルでアタックを仕掛けたのだ。

アシストのミカエル・シェレルの働きもありメイン集団からの抜け出しに成功したバルデは、最後の山岳で逃げも追い抜きそのまま見事にステージ勝利を飾り、総合順位も2位にまで浮上。

ダウンヒルでのアグレッシブなアタックと抜群の登坂力によって、見事に表彰台の座を掴み取った。

 

翌2017年のツール・ド・フランスでは、打倒クリス・フルームの本命として挙げられフランス中の期待を一身に背負い出場。

第1ステージのタイムトライアルステージでいきなり出遅れながらも、第12ステージで勝利するなど積極的な走りを見せ、フルームに対しても幾度もアタックを仕掛けるがチーム・スカイのチーム力の前に封殺されてしまう。

それでも総合2位につけた状態で迎えた、総合争いの実質最終ステージである第20ステージは苦手なタイムトライアルステージ。

この日はバルデ自身の不調とも重なったために大きくタイムを失ってしまい、危うく表彰台から滑り落ちそうになるほどだったが、何とか1秒差で3位はキープ。

タイムトライアルという明確な弱点は浮き彫りになってしまったが、その登坂力とダウンヒル能力で見事に2年連続で表彰台に上った。

 

2018年は、ツール・ド・フランスではアシストの相次ぐ落車リタイアの影響もあり総合6位に終わってしまう。

しかし、ストラーデ・ビアンケ2位、リエージュ~バストーニュ~リエージュ3位、そして世界選手権2位と、意外なワンデーレースへの適正も見えた1年となった。

新たなバルデ像にも期待が掛かる2019年だったが、残念ながらバルデ自身が本格的な不振に陥ってしまう。

ツール前哨戦のクリテリウム・デュ・ドーフィネでは終始低調な走りで総合10位。

不安を抱えたまま迎えたツール・ド・フランスでは、総合トップ10にすら1度も入らないまま、総合15位でフィニッシュ。

途中から山岳賞に狙いを変更し、展開に恵まれたこともあり山岳賞を獲得して表彰台に登れた事は救いになったようだが、心身のリフレッシュが必要と判断したバルデは2019年シーズンをここで終了させた。

 

バルデは2020年シーズンに向け、ツール・ド・フランスには出場せずジロ・デ・イタリアに初挑戦し、そして東京オリンピックと世界選手権を狙うと宣言。

残念ながらコロナウィルスの影響でオリンピックの延期とレーススケジュールの変更があったため、この予定通りとはいかなくなってしまったが、現状のやり方では限界を感じたバルデの新たな変化を求める姿勢が表れていた。

バルデは改めて、2020年はツール・ド・フランスへ出場し、総合優勝ではなくステージ勝利にフォーカスする事を発表した。

 

ツール・ド・フランス2019で山岳賞を確定させた後、

「誰にでも失敗する権利はある。でも僕らに諦める権利はないし、全力を尽くさぬ権利もない」

と語ったバルデ。

2020年に向けての新たな方向性も、もちろん上手くいかない可能性だってあるが、それは彼がツール・ド・フランスという目標に向かって、諦めずに全力を尽くすために必要だと求めた変化なのだ。

果たしてどんな新しい姿を見せてくれるか、楽しみで仕方がない。

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※2021年1月14日追記

2020年シーズンに向けて、当初はジロ・デ・イタリア東京オリンピック、そして世界選手権に照準を合わせていたバルデだったが、新型コロナウィルスの影響で東京オリンピックが延期となったため、大幅にレースプランを変更。

ツール・ド・フランスを最大のターゲットとしつつ、これまでのように総合上位を狙うのではなくステージ勝利に狙いを定めると、早い段階でアナウンスをしていた。

 

そんな状況の中、ツール開幕の約3週間前というタイミングで、バルデは翌シーズンからチーム・サンウェブ(当時の名称。2021年シーズンはスポンサー変更によりチームDSMに名称変更)に移籍する事を発表。

春先から噂が出ていた情報ではあったが、これまでAG2R一筋であったバルデの移籍、それもツール出場直前での発表という事で、バルデにとってAG2Rでは最後となるツールでの走りに注目が集まった。

 

いざツールが開幕すると、バルデは事前に「ステージ狙い」を明言していたにも関わらずあまり積極的な動きは見せず、安定した走りを披露。

持ち前の登坂力をしっかり発揮して、山岳ステージでもタイムを失わずに1週目終了時点で総合4位に位置づける。

しかし、2週目の山場の一つである第13ステージの途中で激しく落車してしまう。

何とかステージ完走はするものの、落車の際に脳震盪を起こしていたために、第14ステージには出走せずにリタイアとなってしまった。

 

近年のスポーツ界では頭部(脳)へのダメージがあった場合は復帰に慎重な判断を要するが、バルデもツールの落車リタイアから1ヶ月ほどのインターバルを開けてレースに復帰し、シーズン終了までに3つのワンデーレースに出場。

パリ~トゥールでは、2018からのコース変更により荒れた未舗装路区間を走るようになった厳しいレイアウトの中、積極的な走りを見せて7位でフィニッシュ。

意外と言うかやはりと言うか、改めてワンデーレースへの適正の高さを垣間見せてくれた。

 

ここ数年、なかなか煮え切らないリザルトが続いていたバルデにとって、2021年からのチームDSMへの移籍の意義は大きいだろう。

トム・デュムランにウィルコ・ケルデルマンと、総合エースが立て続けに移籍したこのチームにおいて、総合エースとして再びツールを目指すのか。

それとも、2020年シーズンにツールのステージ勝利狙いで一大旋風を起こしたこのチームで、バルデもワンデーレース狙いやステージ勝利狙いにフォーカスして、新境地を見せてくれるのか。

いずれにしても、新天地でのバルデの走りがとても楽しみだ。

 

※2021年12月23日追記

9年間在籍した古巣から移籍して迎えた2021年、バルデはこれまで拘ってきたツールではなく、自身初となるジロ・デ・イタリア出場に向けて調整を行う。

そして迎えたジロでは、第1ステージの個人タイムトライアルでステージ91位と出だしで躓いてしまうが、じわじわと順位を上げて気が付けば総合トップ10圏内に。

第16ステージと第20ステージでは、登坂力とダウンヒルテクニックを存分に発揮して、更に順位を上げる事に成功。

ただ、最終日には個人タイムトライアルでまたしてもタイムを失ってしまい、順位を2つ落として総合7位でのフィニッシュとなった。

3週間を通して、決してツールで表彰台に登った頃のような万全の走りでは無かったものの、良くも悪くもバルデらしい走りで3年振りのグランツール総合トップ10入りは、まずまずの結果と言ったところだろうか。

 

その後、バルデは予定通りツールをスキップし、ブエルタ・ア・エスパーニャに向けて調整。

前哨戦のブエルタ・ア・ブルゴスではステージ1勝を挙げ、上々の調子でブエルタの開幕を迎える。

第1ステージの個人タイムトライアルを14位と意外な好順位で終え、ここからの調子次第では総合表彰台も狙えるかと思えたが、残念ながら第5ステージで落車に巻き込まれてタイムを失ってしまい、総合争いからは脱落を余儀なくされてしまう。

しかし、バルデの本領発揮はここからだった。

総合争いと関係なくなった事で山岳ステージで積極的に逃げに乗り、まずは山岳ポイントを地道に回収。

そして第14ステージでは、逃げに同行した他の選手に格の違いを見せつけ、1級山岳でのアタックを見事に決めて見事にステージ優勝、更には山岳賞争いでトップに躍り出た。

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その後、山岳賞争いはチームメイトのマイケル・ストーラーに譲るような格好となったが、改めてバルデの実力の高さがよく分かるブエルタとなった。

 

初の移籍を経験したバルデの2021年は、大成功とまでは言えないものの、ひとまずある程度の結果を残す事には成功したと評価してもいいだろう。

そしてそのリザルト以上に、フランスからの期待を一身に背負う事で苦しんでいた以前とは違い、バルデが伸び伸びと走っている様子が伺える辺り、移籍は「成功」だと言いたい。

重圧から解放されたフランスの星がどんな走りを見せてくれるのか、これからが楽しみだ。

 

※2022年12月8日追記

2022年シーズンのバルデは、まずは前年同様にジロに向けての調整として、UAEツアー、ティレーノ~アドレアティコ、ツアー・オブ・ジ・アルプスと、ステージレースを転戦。

ツアー・オブ・ジ・アルプスでは終始安定した走りを見せて総合優勝に輝き、目前に迫ったジロに向けて順調に準備が進んでいる事をアピールしてくれた。

そうして迎えたジロでも、バルデは安定感のある走りを披露。

第12ステージ終了時点で14秒遅れの総合4位につけ、そしてツアー・オブ・ジ・アルプスの総合優勝に大きく貢献してくれたティメン・アレンスマンというアシストの存在もあり、その後の展開次第では総合優勝も十分視野に入るように見えた。

しかし、平坦カテゴリーの第13ステージ途中、前日から極度の体調不良を抱えていたというバルデは、自転車を降りてリタイアを選択。

長丁場のグランツールでは割とあり得る事態ではあったが、調子がかなり良さそうだっただけに少し残念な結末となってしまった。

 

ジロから少しの休養期間を経て、バルデはツールでレースに復帰。

第11ステージの超級山岳グラノン峠ではメイン集団から先行してステージ2位に入るなど、見せ場も作りつつ最終的には総合6位でフィニッシュ。

タイム差的には総合優勝争いに絡めたとは言えないが、2年ぶりのツールではそれなりの内容と結果を残してくれたと言っていいだろう。

 

ここ数年は色々と嚙み合わない事も多かったが、2022年はツアー・オブ・ジ・アルプスでの総合優勝にジロでの好走と、当たり前ではあるがバルデの力が一級品である事を再認識できる1年だった。

2023年も同様の好パフォーマンスを見せてくれる事と、そしてそれが大きな結果に繋がる事を期待したい。

 

※2023年12月3日追記

2023年のバルデはツールをメインターゲットに定め、シーズン序盤は1週間規模のステージレースを転戦。

パリ~ニース総合7位、ツール・ド・ロマンディ総合7位、ツール・ド・スイス総合5位と、抜群とは言えないもののそれなりの成績を残してツール開幕を迎える。

しかし肝心のツールでは、第14ステージのダウンヒルで激しく落車。

残念ながら、そのままリタイアとなってしまった。

 

8月、バルデはツールに続いてブエルタに出場。

第1ステージのチームタイムトライアルでは天候も味方に付けて勝利と、幸先のいいスタートを切る事に。

しかし、第5ステージのフィニッシュ手前、タイム救済区間直前で発生した落車により足止めを食らい、5分以上のタイムを失ってしまう。

早くも総合争いから脱落する格好になった事で、ここからバルデは逃げてのステージ勝利狙いに方針を転換。

第6ステージで3位、第14ステージで2位と、惜しくも勝利には届かなかったが、その積極的な走りと登坂力は、やはりまだまだ勝負に絡めるだけの強さを持っていると見せつけてくれた。

 

2023年のバルデは、大きな結果は残せなかったと同時に、安定してそれなり以上の力を発揮し続けていたようにも見えた。

グランツールで総合争いをするような爆発力は失っているかもしれないが、まだまだ最前線でやっていけそうだ。

チームとしては、その豊富な経験や抜群の知性を活かして、オスカル・オンレーやマックス・プールと言った若手有望株の教育係的な役割も期待しているだろう。

契約最終年となる2024年、どんな走りや振る舞いを見せてくれるのか、楽しみにしていたい。