カタカナの限界
外国人の名前や海外の地名をカタカナで表記しようとすると、媒体によってブレがあったりします。
特に英語圏以外の固有名詞は、母国語読みと英語読みの最低2パターンが発生してしまうケースが多く、私たちをとても悩ませてくれます。
(例:スペインの首都「Madrid」の発音は、スペイン語だと「マドリー」、英語だと「マドリード」)
また、そもそもカタカナで発音する事が難しいというか、日本語に無いような発音をする場合もあり、これもまた悩ましい部分です。
(例:英語圏の人名「Kevin」は、「ケビン」表記と「ケヴィン」表記が混在)
もちろんこの問題はロードレースの選手名にも当てはまり、検索の結果が分散してしまったり、そもそも表記が違いすぎて同一人物だと思えなかったりするケースがありました。
そんな現状を打開すべく、毎年年末に「カタカナ表記ミーティング」と題して各媒体や関係者が集い、ワールドチーム所属選手のカタカナ表記を可能な限り統一、そして適切化しようという動きがあります。
J SPORTSの中継でお馴染みの辻啓さんの発案で開始されたこの会議は、2020年までに5回開かれています。
現在、日本のロードレース関係のメディアは概ねこのミーティングで決定した表記に従う流れ(絶対的な物ではなく、あくまで目安や指針)となっていて、上記の問題はある程度解決されたとは思います。
しかし、それでも「以前の表記の仕方に慣れてしまっている…」という場合や、英語の記事などを読んで「いやいや、この綴りはなんて発音するんだ?」という場合もありますし、そもそも全選手の表記を全て覚えるのは相当困難ですので、まだまだ戸惑うケースも多いです。
この記事は、自分が「分かりにくい…」「どれが正しい表記だったかな…」「なんて読むんだこれ?」などと思ったケースをランキング形式で発表して、観戦をはじめたばかりの方へのケーススタディーになればと思い書いています。
あまり堅苦しく考えずに、緩~く楽しみながら読んでいただけると幸いです。
それでは、早速ランキングに行ってみましょう!
※注意!
自分は決して外国語に堪能な訳ではありません!
可能な限り間違いの無いように調べながら書いていますが、誤った記述をしている可能性もありますので、その点はご了承ください。
第10位:Jakob Fuglsang
ステージレースでもワンデーレースでも活躍を見せるアスタナ・プロチーム所属のデンマーク人、ヤコブ・フルサン。
英語読みだと「ジェイコブ・フグルサング」になりそうですが、どうやらデンマーク語では「g」の音をほぼ発音しないらしく(というか、デンマークに限らず「g」の音を発音しないケースは散見されます)、現在はフルサン表記となっています。
ただ、2019年まで「フグルサング」表記でかなり活躍していたので、実況や解説の方が「フグルサング…失礼、フルサンでしたね」と言い直す事も多い選手の1人となっています。
第9位:Benjamin Thomas
トラックレースでも活躍するグルパマFDJ所属のフランス人、バンジャマン・トマ。
とりあえず英語が義務教育に組み込まれている日本人からすると、基本的にフランス語の読みは違和感が半端ないですよね…。
他のフランス人の名前も相当読みにくいのですが、このトマの厄介なところは、英語でもそのままの綴りで「ベンジャミン・トーマス」として通用してしまう事。
極端な可能性としては、綴りが同じなのに読み方が全く違うイギリス人なんかが登場してもおかしくない訳です…。
第8位:Joao Almeida
先日のジロ・デ・イタリアでの活躍も記憶に新しい、ドゥクーニンク・クイックステップの若手ポルトガル人、ホアン・アルメイダジョアン・アルメイダ。
恥ずかしながら、初見では「Joao」の「o」の部分を「ン」とは読めませんでした。
ポルトガル語は難しいですね…。
そして、「j」も言語によって読み方が変化する難しい音です。
アルメイダの場合も「ホアン」なのか「ジョアン」なのか、書くたびに不安になります。
ヨハネ(Johannes)やヨナタン(Jonathan)由来の人名は各言語に散らばっているので(今回のホアンもヨハネ由来)、目にする頻度が多いのが余計に厄介ですね…。
※2021年2月22日追記
2020年末に行われた第5回カタカナ表記ミーティングで、アルメイダのファーストネーム「Joao」の表記は原音に近い「ジョアン」となった模様です。
第7位:Niklas Eg
トレック・セガフレード所属の期待のデンマーク人クライマー、ニクラス・エイ。
以前は英語読みで「イーグ」などと表記されるケースもありましたが、10位にランクインした同郷のフルサン同様に彼も「g」の音を発音しない流れです。
ただ、そうなると問題になるのがその名前の短さ。
「g」を無視したら「e」しか残らないじゃないですか…。
「イーグ(Eg)」から「g」を除いたと考えて読むと、安直に「イー」かと思いきや、どうやら現地の発音は「エイ」に近い?
名前が短すぎて逆に難しいという、少し珍しいパターンです。
第6位:「Martin」一族
- Tony Martin
- Daniel Martin
- Guillaume Martin
この「Martin」という姓の3人、全員読み方が違います。
世界選手権個人TT4回優勝の実績を持つ、ユンボ・ヴィスマ所属のドイツ人、トニー・マルティン。
アグレッシブなアタックでモニュメント2勝、イスラエル・スタートアップネーション所属のアイルランド人、ダニエル・マーティン。
大学で哲学を修めた「哲学者」、コフィディス所属のフランス人、ギヨーム・マルタン。
いや~、なんでこんなにややこしいんでしょうか。
しかも、3人とも実力者なので名前を呼ばれる機会も相当多いんですよね。
更には、コロンビア人のダニエル・マルティネス(Daniel Martinez)なんかもいます。
今年のクリテリウム・デュ・ドーフィネではダニエル・マーティン、ギヨーム・マルタン、ダニエル・マルティネスの3人で小集団を形成して走るという事態も発生しました。
中継画面に
- Guillaume Martin
- Daniel Martin
- Daniel Martinez
こんな感じで表示されていて、最早笑うしかなかったです。
第5位:Søren Kragh Andersen
今年のツール・ド・フランスでステージ2勝を挙げた、チーム・サンウェブ所属のデンマーク人、セーアン・クラーウアナスン。
以前は「人魚姫」などで有名な童話作家アンデルセンと同様に「ソーレン・クラーフ・アンデルセン」と 表記されるケースが多かったですが、Andersenの正しい現地発音は[ˈɑnɐsn̩](アナスン)らしいです(ちなみに、英語読みならアンダースン)。
「Søren」を「セーアン」、「Kragh」を「クラーウ」と読むのもなかなかの難易度ですが、他の著名人の影響で「アンデルセン」という読みが定着しているが故の読みにくい名前です。
第4位:Greg Van Avermaet
来シーズンからAG2Rへ移籍する、ベルギーが誇るワンデーレースの雄グレッグ・ファンアーヴェルマート。
ファーストネームは「フレッヒ」や「フレフ」、ファミリーネームも「ヴァン・アーヴェルマート」や「ファン・アーフェルマート」など、表記の揺れがかなり多彩な選手です。
「g」も「v」も言語によって発音が異なるため、これだけ複雑な事態になっています。
また、彼の他にも「van」というオランダ語が起源の前置詞を名前に含む選手が、オランダ人やベルギー人を中心に多数います。
カタカナ表記ミーティングで基本的に「ファン」と読むように統一されていますが、英語圏の選手(例:アメリカ人のTejai Van Garderen)は「ヴァン」と読む流れのようです。
番外編
トップ3発表の前に、番外編として数人の日本人選手を挙げたいと思います。
・小林 海
ルーマニアのコンチネンタル・チームであるジオッティ・ヴィクトリア所属の小林選手。
父親がスペイン人の小林選手ですが、海という名前は「マリノ」と読みます。
自分はしばらくの間、知らずに「カイ」と読んでいました…。
・小野寺 玲
地元密着型チームの宇都宮ブリッツェンに所属している小野寺選手。
「玲」はそのまま「レイ」と読む…?
いやいや、彼の正しい名前はそんな単純なものではありません。
「音速戦士オノデライダー」
これが彼の正しい名前です。
Twitterなどを見てもらえば分かりますが、本人がそう名乗っているからそうに違いないのです(「CV:小野寺玲」となっている辺りが最大のツボです)。
・佐野淳哉
レバンテフジ静岡所属の大ベテラン、2014年日本選手権王者の佐野選手。
小野寺選手の後の流れなら、もうみなさん正解はお分かりですね?
ご存知、「インザスカイ佐野」!
https://twitter.com/sanojunya0109?s=20
あれ?
頭になにか増えている…?
エターナル?
という事で「エターナルインザスカイSANO」が正解です。
(2020/12/2追記:「エターナル」の部分が「ファイナルビューティー」に変わってますね…。もしかして、自分が知らなかったたけで頻繁に変えている…?)
佐野選手の「真面目そうな風貌からの遊び心」、最高に面白いですね!
さて、小ネタも終わったところで、トップ3の発表に移りましょう!
第3位:Tao Geoghegan Hart
表彰台圏内の3位は、ジロ・デ・イタリア制覇という大仕事をやってのけたイギリスの新星!
チーム・イネオス所属のテイオ・ゲイガンハート!
昨年までは「タオ・ゲオゲガンハート」と表記される事が多く、J SPORTS解説の栗村修さんはフルネームで呼ぼうとすると姓名が混ざってしまい「タオゲガンハート」となったりするぐらい、長くて日本人には耳なじみのない名前だと思います。
実際に本人の発音を聞いてみると「Geoghegan」の2つ目の「g」は殆ど発音しないというか、3つ目の「g」とほぼ一体化して「ゲイ(ゲ)ガンハート」のような感じが近いでしょうか。
この辺りの微妙なニュアンスをカタカナで正確に表現するのはやはり困難で、正直なところカタカナ表記の限界を感じる部分ではあります。
第2位:Michal Kwiatkowski
惜しくも1位を逃したのは、元世界王者にしてイネオスの最強アシスト!
ポーランドが誇る万能選手であるミハウ・クフィアトコフスキ!
これは姓も名もすんなり読めない、とんでもない難しさですね…。
「Mickal」は「ミカル」や「ミカウ」、「Kwiatkowski」は「クヴィアトコウスキ」や「クウィアトコウスキ」など、様々な表記が入り乱れています。
「Kwiatkowski」に2回出てくる「w」ですが、「g」や「j」と同様に言語によって発音の仕方が変わるので注意が必要です。
その難読っぷりが世に知れ渡ったのは、24歳で世界選手権を制した際の記者会見。
なんと最初の質問が「名前の読み方を教えて下さい」だったという、とんでもないエピソードが…。
しかも、1度目の発音では誰も理解できず、再度自分の名前を読み上げるというオマケつきです。
今や世界最高クラスのアシストとして名高いクフィアトコフスキですが、当時はまだ知名度が低かったんですね…。
第1位:Amanuel Ghebreigzabhier
栄えある(?)第1位に輝いたのは、来シーズンからトレック・セガフレードへの移籍が決定したエリトリア人、アマヌエル・ゲブレイグザブハイヤー!
まず、単純に長い事と耳なじみのない語感である事。
そして「g」や「h」をふんだんに使用したどう読むのが正解か分からない綴り…。
「ゲブレイグザブハイヤー」という文字列のインパクトも含めて、個人的には断トツの1位です。
表記の揺れとしては「ゲブラーザービエ」というパターンもあるようですが、「ゲブレイグザブハイヤー」と「ゲブラーザービエ」が同じ名前だとは、なかなか思えないですよね…。
「Ghebreigzabhier」という文字列を見るたびに何と読んでいいか分からなくなりますし、「ゲブレイグザブハイヤー」というカタカナを見てもしっくりこないというのが正直なところです。
皆さんもこの機会にしっかりと頭に入れましょう。
ゲブレイグザブハイヤー。
リピート・アフター・ミー。
ゲブレイグザブハイヤー。
念の為もう一度。
ゲブレイグザブハイヤー。
皆さんこれでバッチリですかね?
自分は自信がありません。
「伝わりゃいいのさ」の精神
読みにくい名前選手権と題してランキング形式を謳いつつ、実際には「様々な難読ポイントを紹介する事」にスポットを当てた内容ですが、いかがだったでしょうか。
色々なパターンを紹介しましたが、一つ忘れてはいけないのは「現在カタカナ表記ミーティングで推奨される読み方が絶対ではない」という事です。
「カタカナ表記ミーティング」では基本的に母国語の発音に沿うようにしているようですが、それでも対応が難しい場合(公用語が複数ある場合など)もありますし、繰り返しになりますがそもそも「カタカナでの正確な表記が難しい」ケースは本当に多いです。
その辺りの事情もふまえて、今後も「カタカナ表記ミーティング」は定期的に行われる予定のようなので、公式に推奨される表記が変更になる可能性が充分にあります。
ロードレースに限らず、他のスポーツなどでも表記の揺れや公式表記の変更はかなりあります。
そんな中でメディアや業界が可能な限り表記を統一してくれようとしてくれるのは、本当にありがたい事です。
ただ、それでもやはり表記の揺れを完全に無くすというのは不可能でしょう。
その点をしっかり理解して、「分かればとりあえずOK!」「伝わってるから大丈夫」ぐらいの広い心で、今後も楽しんでいきたいなと個人的には思います。
決して、このブログの記事の表記がブレていても厳しく突っ込んだりしてはいけませんよ!(笑)
広い心で、緩~く楽しんでいきましょう!
それでは、また!