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【レース感想】オンループ・ヘットニュースブラッド2021

クラシックの王者、ウルフパック

「北のクラシックシーズン」の幕開けを告げるオンループ・ヘットニュースブラッド。

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石畳、そして激坂と言うコースレイアウトが毎年熱い展開を生むこのレース、注目の選手はこんな感じ。

 

 

そして、注目選手と言うか、多彩な一流選手を揃えた「ウルフパック」ことドゥクーニンク・クイックステップの選手達は、それぞれが強力すぎて誰がエースか分からないようなとんでもない状態。

  • 昨年石畳の適正も披露した世界王者ジュリアン・アラフィリップ
  • 地元ベルギーの石畳巧者イヴ・ランパールト
  • 独走力が魅力のカスパー・アスグリーン
  • 2019年の優勝者ゼネク・スティバル
  • 今シーズン既に2勝と勢いに乗るダヴィデ・バッレリーニ
  • 昨年10位、その他ワンデーレースでも安定感抜群のロリアン・セネシャル
  • 強力な牽引力で仕事をこなす「トラクター」ティム・デクレルク

展開次第ではデクレルク以外の誰もがエースになりうるような、この超強力な布陣。

圧倒的な優勝候補として選手では無く「ドゥクーニンク」と挙げたいところ。

 

「ドゥクーニンク強すぎない?誰を挙げようか…」と迷いつつ、取り敢えず自分の予想がこちら。

ドゥクーニンクからはアラフィリップをチョイス。

対抗にファンアーベルマート、穴にストゥイベンと優勝経験者を手堅く入れつつ、大穴は個人的な趣味全開でニルス・ポリッツ(ボーラ・ハンスグローエ)を選択。

ポリッツは優勝候補かと問われると「う~む…」と何とも言えない感じだけれども、2019年のあのパリ~ルーベでの激闘、そして石畳系レースでのリザルトはやっぱり注目選手だとは思う。

 

そんなこんなでレーススタート…なんだけれども、自分はオンループの翌日が仕事で4時起床予定だったため、リアルタイムでの視聴は断念。

2/28の日中はTwitterなどの情報をシャットダウンして、帰宅後に視聴する事に。

 

改めて、レーススタート。

レース中盤、デクレルク、次いでランパールトがメイン集団を牽引して、ドゥクーニンクがレースをコントロールしている。

エースのアラフィリップをしっかり温存してレースの主導権を握りにいく構えに見える。

しかし、残り50km辺りでランパールトがコーナーでスリップして落車するトラブルが発生(ランパールトは一旦集団から遅れるも、仕事を終えたはずのデクレルクが引っ張り上げて集団に復帰)。

ドゥクーニンクによるコントロールが失われたことで集団は活性化、残り42km地点でマッテオ・トレンティン(UAEチームエミレーツ)がアタックを仕掛けると、十数人が抜け出して逃げと合流する形に。

トレンティン、ファンアーベルマート、ファンマルク、ピドコックなどの有力選手が含まれるこの新たな先頭集団に、ドゥクーニンクはアラフィリップ、スティバル、バッレリーニの3人を乗せる事に成功。

この抜け目のなさ、流石である。

 

選手の質・量ともに優位に立つドゥクーニンクは、残り32km地点で攻撃を開始。

予想されていても防げない一撃、優勝候補アラフィリップによるアタック!

これでドゥクーニンクは「アラフィリップの逃げ切り」と「他チームにアラフィリップを追いかけさせ、脚を温存したバッレリーニのスプリント」という得意の二段構えの態勢を整えた事になる。

「いつものパターン」に持っていくスムーズさ、やっぱり流石すぎる。

 

しかし、残り24km地点でまたもやトラブルが発生。

追走集団のスティバルが変哲の無い平坦路で落車してしまったのだ。

次の一手(アラフィリップ吸収後にアタック、もしくはバッレリーニのサポート)を担う予定だったであろうスティバルを失ったドゥクーニンクは、ここで意外というか思い切った方向転換を図る。

先頭のアラフィリップは明らかに脚を緩めて自ら追走に吸収され、そしてペースの落ちた追走集団は後方のメイン集団にも追いつかれる事に。

そしてこのメイン集団には、ここまで脚を消耗していないであろうアスグリーンとセネシャル、そして一度は落車したランパールトが含まれている。

スティバルが落車した事によって崩れたプランを、再び数の有利を作る事によって可能となる新たなプラン、集団を制圧し続けてからのバッレリーニによるスプリント勝利という形に持っていこうという事か。

なんという鮮やかな作戦変更、本当に流石としか言いようがない。

 

振り返っているから「集団スプリントという形に持っていこうという事か」とか書けるけど、見ていてすぐには意図が分からなかったというか「スティバルを失ってアラフィリップも追いつかれて…ドゥクーニンクやばいんじゃないの?」なんて考えていた。

自分がドゥクーニンクの意図というか新たな作戦を理解できたのは、アラフィリップ、アスグリーン、ランパールトの3人が集団を強烈に牽引する事で先頭を強固にキープし続ける姿を見てから。

「あぁ、このままコントロールし続けてセネシャルのリードアウトからバッレリーニのスプリント狙いなのか…」と、先頭を引っ張る3人のエース級の選手の姿に胸を打たれていた。

アラフィリップもランパールトもバリバリの優勝候補、アスグリーンだって十分優勝の可能性が考えられる有力選手である。

それぞれがひたすらチームの勝利のために、自身の勝利には目もくれずに、全力で献身的なアシストをしている。

これぞ、ワンデーレースの絶対王者であるウルフパックことドゥクーニンク・クイックステップが体現する、ロードレースの醍醐味。

蒼き狼軍団の美しい連携に、ただただ見惚れるしかなかった。

 

世界王者アラフィリップ、元ベルギー王者ランパールト、デンマーク王者アスグリーンという、超強力な3人の集団支配に抵抗できるチームはいる筈もなかった。

残り1kmからは、ここまで温存されてきたセネシャルがバッレリーニをしっかりとエスコート。

全員の思いを託されたチーム最若手のバッレリーニも、完璧なスプリントで偉大な先輩達の働きにしっかりと応えて見せた。

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急成長中の若き狼バッレリーニ、胸のチームロゴを誇らしげに強調しながらのフィニッシュ!!

これで今シーズンは早くも3勝目!

チームからかなり信頼されているようにも見えるので、今後も期待できそう!

 

2位に入ったのはグルパマFDJのネオプロ、21歳のジェイク・スチュアート!

正直、知らない選手だったけれども、2月のエトワール・ド・ベセージュでもステージ4位に入ってたりするので、かなり期待できる選手かも?

 

3位のファンマルクは…うん、また3位か…。

表彰台に安定して登る強さはあるけれども、勝ちきれないのはもどかしいなぁ…。

1988年生まれの32歳とまだまだ老け込むような年齢では無いので、どこかで勝ち癖を付けて欲しい。

 

いや~しかし、北のクラシック開幕戦、見応えがありすぎでしょ。

ドゥクーニンクの走り、本当に素晴らしかった。

ちなみに、これだけドゥクーニンクの事ばかり触れた記事を書きながら、自分は特別ドゥクーニンクのファンという訳ではないというか、「気に入ってるチーム」がいくつかあったりはするけれども、あまり「特定のチームのファン」というスタンスでは観戦をしない人間だったりする。

強いて言うなら今はイネオスを贔屓気味に見ているとも思うけど、それはあくまで最推しの選手であるエガン・ベルナルがいるから。

もちろんベルナルを追いかける事でイネオスに愛着も沸くけれども、ベルナルが例えばユンボに移籍したら、「強いて言うなら今はユンボを贔屓気味に見ている」という状態になる筈。

ロードレースに限らず、どのスポーツもこんなスタンスで観戦していると思う。

 

そんな自分だけれども、今回のドゥクーニンクの走りはこんな内容の感想を書きたくなってしまうぐらい、とにかく素晴らしかった。

ワンデーレースの王者が、その王者たる所以を遺憾なく見せつけてくれた。

蒼き狼の姿は、力強く、そして美しかった。

今シーズンも変わらぬその姿、しっかりと堪能できそうなのは嬉しい限りだ。

それでは、また!!

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