破格のポテンシャルを披露し続ける「神童」
選手名:レムコ・エヴェネプール(Remco Evenepoel)
所属チーム:クイックステップ・アルファヴィニル
国籍:ベルギー
生年月日:2000年1月25日
脚質:オールラウンダー・タイムトライアルスペシャリスト
主な戦歴
優勝(2019)
・ツール・ド・ポローニュ
総合優勝(2020)、ステージ1勝(2020)
総合優勝(2020)、ステージ1勝(2020)
・ボルタ・アン・アルガルベ
総合優勝(2020)、ステージ2勝(2020)
・ブエルタ・ア・ブルゴス
総合優勝(2020)、ステージ1勝(2020)
・バロワーズ・ベルギーツアー
総合優勝(2019、2021)、ステージ通算2勝(2019、2021)
・世界選手権個人タイムトライアル
2位(2019)、3位(2021)
・ヨーロッパ選手権個人タイムトライアル
優勝(2019)、3位(2021)
・ヨーロッパ選手権ロードレース
・2位(2021)
どんな選手?
171cm・60kgという小柄な体格からは想像がつかない破格の独走力を武器に、驚異的なペースで勝ち星を重ねて「100年に一人の逸材」や「神童」と称されるロードレース界の新たな天才。
幼少期はサッカーに励み、U-15ベルギー代表のキャプテンに選ばれるなど、サッカー大国ベルギーでも期待される存在だったエヴェネプール。
しかし、ケガの影響、そしてプロロードレース選手だった父の存在もあり、2017年からロードレース選手としてのキャリアをスタートさせる。
ロードレース転向初年度からいくつかの勝利を挙げるなどその才能の片鱗を見せたエヴェネプールだったが、これはまだ序章にしか過ぎなかった。
2018年、ジュニアカテゴリーで年間22勝と文字通り他を圧倒するずば抜けたリザルトを残し、そしてその内容が凄まじかった。
出場したステージレース全てでステージ勝利を挙げつつの総合優勝、そしてジュニアカテゴリー世界選手権の個人タイムトライアルとロードレース両種目での優勝と、まさに敵なし。
特に世界選手権ロードレースでは、残り72km地点で発生した落車に巻き込まれた事で一度遅れるも、最大で2分あったビハインドを跳ね返し先頭に合流。
そして登りでアタックを仕掛けて独走勝利を飾るという、格の違いを見せつけるもの凄い勝ち方をして見せた。
ここまでの活躍を見せれば、まだジュニアカテゴリーの年齢と言えども、やはりワールドチームが黙っていない。
2019年からは地元ベルギーの強豪チームであり、ワンデーレースに関しては間違いなく世界最強のワールドチームであるドゥクーニンク・クイックステップへの加入が決定する。
ロードレースのキャリアが僅か2年の19歳が、ジュニアとU23という2つのカテゴリーを飛び級してトップカテゴリーの最強チームで走るという、とんでもない事例である。
こうして19歳でプロ選手(ワールドチーム又はプロチーム所属の選手)となったエヴェネプールだったが、その勢いはまだまだ止まらない。
デビュー戦となったブエルタ・ア・サンファンの個人タイムトライアルで3位に入り、ワールドツアーのツアー・オブ・ターキーでも総合トップ10入りを果たし、ハンマーシリーズでも好走を披露。
6月のバロワーズ・ベルギーツアーでは、待望のプロ初勝利を挙げるだけでなく総合優勝も飾り、初年度から完全にワールドチームの戦力として通用していた。
そして、待望のワールドツアー初勝利の瞬間はあっさりと訪れた。
8月、スペインはバスク地方で開催されるワンデーレース、クラシカ・サンセバスティアン。
残り20kmでトムス・スクインシュ(トレック・セガフレード)と共に集団から抜け出すと、直後に登場する勝負所「ムルギル・トントラ」の登坂でスクインシュを突き放し、そのままフィニッシュまで独走。
エヴェネプールはその自慢の独走力で、史上最年少ワールドツアー勝利という大記録を打ち立てたのだ。
ジュニア時代から抜きん出ていたエヴェネプールの独走力は、もちろんそのままタイムトライアルの強さにも繋がる。
クラシカ・サンセバスティアンの5日後に行われたヨーロッパ選手権個人タイムトライアルで、エヴェネプールは並み居る強豪を蹴散らしてなんと優勝。
更には世界選手権個人タイムトライアルで準優勝と、プロ1年目ながらそのタイムトライアル能力が既に世界のトップクラスにある事を証明して見せた。
2020年に入っても、エヴェネプールの快進撃は止まらない。
新型コロナウィルスの影響による中断期間を挟みつつ、出場した4つのステージレース全てでステージ勝利を挙げての総合優勝と、2018年のジュニアカテゴリー時代に匹敵するような無双っぷりをトップカテゴリーでも披露。
山岳ステージではトップクライマーを引きちぎり、そして相変わらず得意の独走も決めるその走りは、もはや止められる選手がいないのではないかと思わせる程だった。
そんな状態で迎えた初めてのモニュメント(5大ワンデーレース)、「クライマーズ・クラシック」ことイル・ロンバルディア。
エヴェネプールは厳しい獲得標高、そして激坂「ソルマーノの壁」もしっかりクリアして、先頭集団でコモ湖へと向かうダウンヒルに突入。
現役屈指のダウンヒル巧者であるヴィンチェンツォ・ニバリ(当時トレック・セガフレード)がペースを上げる中、経験で劣るエヴェネプールは若干離され気味な様子が映し出されていた。
そして、悲劇の瞬間は訪れてしまう。
なんと、エヴェネプールはコーナーをオーバーランしてしまい、そのまま橋から崖下に転落。
最悪の事態も想定される中、約6mの高さから落下したにも関わらず骨盤の骨折と肺の挫傷程度で済んだのは、もちろん重症ではあるものの…僥倖と言っていいだろう。
ただ、当然ながら長期離脱を余儀なくされ、予定していたジロ・デ・イタリアへの出場もキャンセルとなり、そのまま2020年シーズンを終える事となってしまった。
2021年、エヴェネプールが前年8月15日以来の復帰レースに選んだのは、なんと5月8日から開幕するグランツール(3大ステージレース)、ジロ・デ・イタリア。
果たしてどれほど状態が戻っているのか、そして初めてのグランツールをどう走り抜くのか注目が集まる中、エヴェネプールは第1ステージの個人タイムトライアルでステージ7位となるタイムを叩き出す。
もちろん、本来のポテンシャルからすれば満足のいく結果ではなかったかもしれないが、まずは順調に回復している事を証明してくれた。
そのまま1週目は山岳ステージでも目立った遅れはなく快調にこなし、第10ステージ終了時点で総合2位と、不安を一掃するような走りを披露するエヴェネプール。
しかし2週目に入ると、一転して苦戦を強いられる事に。
まずは休息日明けの第11ステージでは未舗装路区間に大いに苦しみ、総合7位までスリップダウン。
更にはその後の重要な山岳ステージである第14ステージと第16ステージでもタイムを失い、2週目終了時点では総合19位に。
そして、総合争いからは脱落しながらも完走を目指した3週目は、第17ステージ途中の落車の影響でリタイアと、最後は不完全燃焼での終了となってしまった。
とは言え、大怪我による長期離脱からの復帰初戦、そして初のグランツール挑戦という事を考えれば、その順調な回復具合と垣間見せたポテンシャルの高さは、ポジティブに捉えるべき内容と言っていいはずだ。
ジロ終了後もエヴェネプールは精力的にレースに出走を続け、ワンデーレースでもステージレースでもその独走力を遺憾なく発揮して、相変わらず勝利を量産する。
また、ヨーロッパ選手権ではロードレースで2位、個人タイムトライアルで3位と結果を残し、更には世界選手権個人タイムトライアルでも3位と、しっかりと表彰台に登る強さを見せてくれた。
そして世界選手権個人ロードレースでも、勝利には繋がらなかったもののアシストとして獅子奮迅の働きを見せたその姿は、そのコンディションがケガする以前の状態にしっかり戻っていると感じさせてくれる、本当に素晴らしいものだった。
2020年の大事故の影響が心配されたエヴェネプールが、2021年にはしっかりと力を取り戻して復帰してくれたのは、ロードレースファンとしては本当に嬉しい限りだ。
そして、その破格の独走力を基本としたポテンシャルの高さ、その証明は既に十分すぎるほど済んでいると言っていいだろう。
まだ21歳の若者が、今後その才能に経験を加えていったら果たして我々にどんな姿を見せてくれるのだろうかと、想像するだけでワクワクしてくる。
きっと、その小さな体には無限の可能性が詰まっているはずだ。
この先も続くであろう神童の快進撃を、楽しみにしていきたい。