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【レース感想】パリ~ルーベ2022

more racing style

石畳系のクラシック最終戦、30もの石畳区間(セクター)が選手を苦しめる「北の地獄」ことパリ~ルーベ。

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当然、このビッグタイトル獲得を狙う猛者たちが集結。

  • ロンド・ファン・フラーンデレンとの同年制覇を狙う「怪物」マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)
  • 世界屈指の独走力と大柄な体格を武器に戦うシュテファン・キュング(グルパマFDJ)
  • 石畳系のレースで抜群の安定感を誇るイヴ・ランパールト(クイックステップ・アルファヴィニル)
  • ミラノ~サンレモ制覇など今シーズン好調、勝利に対する抜群の嗅覚を有するマテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス
  • ロンド・ファン・フラーンデレン2位と好調、更にはチーム全体がワンデーレースで波に乗っているディラン・ファンバーレ(イネオス・グレナディアーズ

そして、新型コロナウィルスに感染した事でロンド・ファン・フラーンデレンをスキップしていたワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィスマ)も出場する事に。

「アシストとして出場」するとは言っているけれども…?

ちなみに、自分の予想はこんな感じ。

大本命のファンデルプールを普通に本命にしつつ、イネオスからはアムステルゴールドレースを制したミハウ・クフィアトコフスキ、ユンボからはファンアールトではなくクリストフ・ラポルトを選択。

 

様々な思いを乗せて、レースはスタート!

「最初の100kmはまあ動きはないでしょ」なんて思いながら見ていたら、まさかの展開が…。

残り211km、吹きさらしの区間でなんとメイン集団が分裂…!?

主導したのはイネオスだ…!!

うわ…、ファンデルプールやファンアールトという有力選手が後方集団に取り残されているぞ!!

イネオスは7人全員を前に乗せてその差を一気に広げに掛かる!

6人を乗せる事に成功したクイックステップなど他のチームも手を貸して、後ろとのタイム差があっという間に1分以上に拡大!

これは凄い展開になってきた…。

果たして石畳区間突入までに、そして最初の5つ星区間「アランベール」突入までにどのくらいの差になっているか。

 

残り160km、いよいよメイン集団は石畳に突入!

後続とのタイム差は1分15秒程と、そこまで大きく広がってはいない状態だ。

昨年と違って好天に恵まれて白い砂塵が舞い上がる中、メイン集団でも追走集団でもメカトラや落車が多発している…。

選手が次々に脱落していくまさに「地獄」のような光景を尻目に、追走集団は徐々にメイン集団との差を縮めていく。

残り112km、モホリッチ、カスパー・ピーダスン(チームDSM)、ダヴィデ・バッレリーニ(クイックステップ)、ローラン・ピション(アルケア・サムシック)、トム・デヴリント(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)の5人が舗装路でメイン集団から抜け出して、新たな先頭集団を形成する。

そしてその直後に、遅れていた集団がメイン集団への合流に成功。

これで一応、逃げとメイン集団という、普通の形にはなったかな。

 

残り95km、先頭の5人はいよいよ「アランベール」に突入。

そこから1分50秒程遅れて、メイン集団もアランベールに到着。

5つ星の荒れた石畳は容赦なく選手に襲い掛かり、まず先頭にいたバッレリーニがパンクによって脱落。

そしてメイン集団はもの凄く長く引き伸ばされ、またもや分断した模様。

クフィアトコフスキやフィリッポ・ガンナといったイネオス勢がまたしても前に出て、レースを積極的に作ろうとしている。

ただ、しばらくすると後続集団はメイン集団に合流、そして先頭はカスパー・ピーダスンが脱落して3人に。

 

残り60kmから始まる3つ星「オルシー」に突入すると、ここまでレースを積極的に動かしてきたイネオスに代わり、遂にユンボがメイン集団の先頭に出てペースアップを図る。

ネイサン・ファンホーイドンクの高速牽引からファンアールトが更に加速…って、ファンアールトは完全にアシストではなくエースの動きだ…。

舗装路でペースを上げるファンアールトに付いていけた選手は…かなり少ないぞ。

ファンデルプール、ギヨーム・ファンケイスブルック(アルペシン)、キュング、ファンバーレ、ベン・ターナー(イネオス)、ランパールト、フロリアン・セネシャル(クイックステップ)、マッテオ・トレンティン(UAEチームエミレーツ)、ジャスパー・ストゥイヴェン(トレック・セガフレード)、アドリアン・プティ(アンテルマルシェ)、タコ・ファンデルホールン(アンテルマルシェ)…ぐらいかな?

残り52km、ユンボが作ったこの流れに対して、イネオスは再び主導権を握り返そうと、ファンバーレが単独で飛び出しを試みる。

ファンバーレはその後捕まるも集団の絞り込みには成功、そして先頭からはまずピションが脱落、更にはモホリッチがメカトラで足止めを食らってこの2人もメイン集団と合流、先頭はデヴリントが単独という状況に。

 

残り30km辺り、デヴリントまで20秒弱にまで迫ったメイン集団から飛び出したのは、逃げていた中盤で明らかに軽快な踏みを見せていたモホリッチ!

即座に追随できたのはランパールト1人、少し遅れてファンバーレも追いかけて、先頭はデヴリント、モホリッチ、ランパールト、ファンバーレの4人に。

残り23km、追走集団からストゥイヴェンがアタックすると、この動きに反応できたのはファンアールトとキュングの2人のみ。

ファンデルプールは脚が無いのか…。

そして勝負圏内に2人残せていたイネオスとしては、ターナーを実質失った事で数の利は無くなった格好に。

残り20.5km、3人で30秒前の先頭を追いかける事になった追走集団から、ストゥイヴェンがパンクで脱落してしまう。

ストゥイヴェン、せっかく自身の動きでこの流れを作ったのに…。

 

残り20km、先頭は4つ星「カンファナン・ペヴェル」に突入。

すぐさま飛び出したのはファンバーレ!

デヴリントがほどなく脱落、そしてモホリッチとランパールトも少しずつ離されていく!!

そのままファンバーレは単独先頭のまま最後の勝負所、5つ星「カルフール・ド・ラルブル」に突入!

10秒近く離されたモホリッチとランパールトはペースが上がらない、その更に30秒後方のファンアールトとキュングも、思うように差を詰められない!

ファンバーレ、強いぞ…!!

 

主要な石畳区間を抜けて残すは12kmほど、ファンバーレがモホリッチとランパールトに対して作り出したリードは約20秒!

そしてファンバーレはそこから徐々にタイム差を広げていく!

これは逃げ切りそうだ!!

残り7km、追走集団ではランパールトが身を乗り出した観客と接触という不運な形で落車に見舞われ、表彰台圏内から脱落してしまう…。

今シーズンのクイックステップ、ことごとくついていない…。

 

フィニッシュ地点のヴェロドロームに、ファンバーレは後続と1分30秒もの差を有して到着。

独り占めの聖地を笑顔で堪能するファンバーレ!!

勝利を嚙みしめるような様子を見せながら、悠々とフィニッシュ!!

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レースを動かし続け、最後は20km独走!!

世界最高峰の総合系アシストとしてチームに多大な貢献を続け、そして与えられた少ないチャンスでしっかりと結果も残してきて、遂に掴んだキャリア最大の勝利!!

これは胸が熱くなる展開だ!!

そしてイネオスは、アムステルゴールドレースブラバンツ・ペイル、パリ~ルーベと、なんと主要ワンデーレースで3連勝!!

この日も序盤からレースを支配し続けてユンボやアルペシンに主導権を渡さず、結局ファンアールトとファンデルプールを一度も先頭に出させないという、完璧なレース運び!!

昨年から標榜する"more racing style"、早くもかなりの結果に繋がっているぞ!!

これからのレースも楽しみだ!

 

そして後続の表彰台争いは、2位ファンアールト、3位キュングという結果に。

ファンアールト、新型コロナ明け一発目のレースで2位とは…恐ろしすぎる。

どうやら翌週のリエージュ~バストーニュ~リエージュに出場するようなので、これもまた楽しみだ。

 

「帝国の逆襲」

2010年代の覇者イネオス・グレナディアーズ(旧チーム・スカイ)。

2020年代に入りその支配力に陰りが見え、グランツールで(特にツール・ド・フランスでは)タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)やプリモシュ・ログリッチ(チーム・ユンボ・ヴィスマ)の後塵を拝している事を揶揄されたりもしている。

イネオスというチームが過渡期に入っている事は、疑いようがない。

更には、その難しいタイミングで絶対的エースであるエガン・ベルナルの長期離脱という、かなりの困難にも直面している。

そんな状況下で見せた、モニュメント制覇。

それも、常に先手を取って、自分たちでレースを作っての堂々たる勝利。

イネオスは、しっかりと新しい時代に突入する。

そう確信させる、素晴らしいレースだったと思う。

まだ残されている春のクラシック、そしてその後始まるグランツールシーズン。

「帝国」の逆襲は、もう始まっているのかもしれない。

 

それでは、また!!

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