今大会を象徴するような結果
総合争いの実質的な「最終戦」となる第20ステージは、40.7kmの個人タイムトライアル。
全体的に平坦基調ながら終盤には少し厄介な起伏もある、なかなか攻略に苦労しそうなレイアウト。
総合表彰台の顔ぶれと順番が入れ替わる可能性は限りなく低い状況だけれども、選手たちはそれぞれの思いを込めて最後の戦いに臨む。
序盤にターゲットタイムを叩き出したのは、この日の優勝候補の筆頭とも言えるフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)。
世界選手権個人タイムトライアル2連覇中と現役最強のタイムトライアルスペシャリストは、同じくタイムトライアルスペシャリストとして評価の高いミッケル・ビヨーグ(UAEチームエミレーツ)のタイムを1分41秒も更新する、流石のタイムをマーク。
ちなみに、ビヨーグのタイムは最終的にステージ13位と、決して悪くない。
ガンナ、やはりタイムトライアルに関しては特別な選手だ。
その後、マッティア・カッタネオ(クイックステップ・アルファヴィニル)、フレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス)、バウケ・モレマ(トレック・セガフレード)といった選手が中間計測でガンナに近いタイムを出したりはしたけれども、その牙城を崩すには至らない。
出走順も終盤に差し掛かり、ガンナ以上にこの日の有力候補と評されるあの男がスタートする。
ポイント賞トップの証である緑色のスキンスーツを身に纏い、世界選手権個人タイムトライアルで2年連続銀メダルを獲得しているワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィスマ)、出走。
今大会、その規格外の出力と驚異の万能性で猛威を振るったファンアールトという事象は、この日もその勢いを緩めない。
なんと、3つある中間計測で、ことごとくガンナの記録を更新。
それでもレース後には「終盤の坂の為に力をセーブしていた」と語ったファンアールトは、確かに2つの坂をこなす区間では明らかにその脚に込める力を増していた…!
最後の最後まで、力の限り踏み続けるファンアールト!!
暫定首位のガンナを42秒も上回る、驚愕のタイムでフィニッシュ!!
間違いなく、今大会の主役の1人!
ファンアールトが驚異の走りでステージ3勝目!!
恐ろしい。
本当に恐ろしすぎる。
ファンアールトという男の才能はここまで別格だったかと、改めて思い知らされた。
ステージ3勝を挙げ、スプリントポイントは歴代最多得点を更新して、そして総合エースを強力にアシストして表彰台の頂点に導く。
本当に、暴れに暴れ回ったファンアールト。
最終日、2年連続のシャンゼリゼでの勝利も、充分にあり得そうだ。
そしていよいよ、総合上位勢の登場。
まずは、総合3位のゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)。
途中まではファンアールトに肉薄するようなペースを刻み、最終的には32秒遅れという好タイムをマークし、ステージ4位に。
山岳ステージでは総合トップ2の争いに割って入る事が叶わなかったけれども、やはりこの2018年のツール覇者は強いのだ。
結果を残せなかったここ2年を乗り越えて、36歳での総合表彰台は本当に素晴らしいと思う。
続いて総合2位、ヤングライダー賞の証である白いスキンスーツを着たタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)がスタート。
まずは第1計測、なんとファンアールトのタイムを上回っている…!
しかし、その後は徐々にペースダウン(いや、ペースダウンと言うほどのペースダウンではないけれども…)。
それでもフィニッシュタイムはトーマスを5秒上回り、ステージ3位と言う結果に。
絶対的な王者と言われながら、総合2位となってしまった今大会。
敗れはしたものの、王者としての矜持を見せつけるような走りを披露してくれたことは、本当に称賛したい。
「負けて得るものがある」とはよく言うけれども、これまでその圧倒的な力である意味「暴力的に」勝ち続けてきたポガチャルにとって、この結果と内容は大きな経験になったと思う。
今年24歳になる若者は、きっとここからまた強くなるのだろう。
そして最終走者、総合首位のヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ)の出走。
…速い!
とんでもなく速いぞ、これは…!!
なんと、3つの中間計測全てでファンアールトを上回っている!!
終盤の下りコーナーで、あわやコースアウトという危ないシーンがあってからは、流石に抑えめに走ったけれども…。
最終的にファンアールトから19秒遅れ、ステージ2位でのフィニッシュ!
総合優勝を実質確定させたヴィンゲゴーを、ファンアールトが出迎える!!
今大会のユンボの強さを改めて象徴する、本当に素晴らしいシーンだ…!
ヴィンゲゴーの勝利を見届けたファンアールトは、涙があふれるのを抑えきれない。
そうだ、ファンアールトはあの2020年の「悲劇の大逆転負け」を、目の前で見ていた。
プリモシュ・ログリッチがまさかの逆転負けを喫する瞬間を、呆然とした表情でただ見ているしかなかった。
そして今大会、チーム一丸となって遂に成し遂げた、ポガチャル越え。
遂に手に入れた、シャンゼリゼでの表彰台の頂点。
思う存分、嬉し涙を流そう。
思う存分、喜びを分かち合おう。
それだけの事を、このチームは成し遂げた。
ヴィンゲゴーを中心としたこのチームは、間違いなく今大会の主役だった。
チームとして全てをつぎ込んで戦うその姿は、本当に美しかった。
そんな素晴らしいレースを目の当たりにできた事を、心の底から感謝したい。
ありがとう、チーム・ユンボ・ヴィスマ!!
そしておめでとう、ヴィンゲゴー!!