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【レース感想】ジロ・デ・イタリア2023 第13ステージ

たったひとつの冴えたやりかた

第13ステージは、標高2,469mの今大会最高峰グラン・サン・ベルナール峠が登場し、獲得標高が5,100mにもなる超難関ステージ…の予定だった。

しかし、悪天候のためにグラン・サン・ベルナール峠は丸々カットされ、クロワ・ド・クールの登坂からスタートして、最後はクラン・モンタナを登ってフィニッシュする、74.6kmのショートステージに変更。

短くなったとは言え、クロワ・ド・クールは登坂距離15.4km・平均勾配8.8%の難所、そしてフィニッシュのクラン・モンタナも登坂距離13.1km・平均勾配7.2%の1級山岳と、破壊力は充分。

やっと、総合上位陣による山岳バトルとなるか。

 

バスでクロワ・ド・クールの入り口まで移動し、文字通りその登坂入り口からスタートという事で、スタートと同時に逃げたい選手によるアタック合戦が勃発。

いきなりのハイペース、そして当然ながら遅れていくスプリンター達。

タイムアウトの選手が出なければいいんだけれども…。

そんな心配をよそに、逃げ切りを狙う選手による積極的なアタックは止まらない。

ジャブとは言えない程のアタックの応酬から抜け出したのは、ジェフェルソン・セペダ(EFエデュケーション・イージーポスト)。

この動きをティボー・ピノを逃がしたいグルパマFDJ、そして数人の選手が追走。

そうして出来上がった逃げは、セペダ、ピノ、ヴァランタン・パレパントル(AG2Rシトロエン)、エイネルアウグスト・ルビオ(モビスター・チーム)、デレク・ジーイスラエル・プレミアテック)の5人。

アシストの見事な働きで目論見通り逃げ集団に加わったピノは、モチベーションの高さを隠さず積極的な牽引を見せて、そのまま先頭でクロワ・ド・クールを通過。

一方のメイン集団は、思った以上にペースが上がらず…、これは逃げ切り容認の構えか?

 

クロワ・ド・クールを下り終えてからの短い平坦区間でも、ピノは積極的な牽引を披露。

その一方でセペダは露骨に牽引を回避して、そんな「狡猾な」セペダに対してピノが怒りを露わにするシーンも…。

普通は「ステージ勝利という共通の目的」のためにもっとスムーズにローテーションをする先頭集団が、ここまで協調できていないのは珍しいと思いつつ、なんだかんだでクラン・モンタナ突入時点で3分のリードを作る出した先頭の5人。

残り12km、真っ先に攻撃を仕掛けたのは…ここまでも気合の入った走りを見せていたピノ

ピノの動きにはセペダがすぐさま反応、残りの3人は追いつく脚が無い…と思いきや、ルビオがマイペース走法でしっかりと合流。

そしてセペダはピノに一瞬で追いつく脚を見せつつ、ここでも頑なに前を牽かない。

ここまで徹底して脚を貯めるのは、これはこれでもの凄い勇気がいる気がするけれども…。

残り11km、ローテーションを回す素振りを全く見せないセペダの動きに痺れを切らして、またしてもピノがアタック…!

ただ、セペダはやはりこの動きに反応する脚を残していて、ルビオと共にピノに合流。

セペダ、ピノを追う際には脚を使うのを全く厭わないのは、そしてやはりピノに追いつくと一切前に出なくなるのは、ちょっと見た事が無いレベルでの露骨さ…。

そうするとやはりペースが上がらず、一旦遅れていたジーが戻ってくるような状態に。

流石にピノが(結構キレ気味に)文句を言っていたけれども、セペダはどこ吹く風。

ピノとセペダ、全く別ベクトルでの勝利への執念による、バチバチのやり合いだ…。

そしてもう一人別ベクトルで、ひたすらマイペースを貫くルビオ。

ルビオはピノの加速には付き合わないけれども、どこか余裕の様子でしれっと遅れて合流してくる。

ある意味見応えのある三つ巴の山岳バトル…と評していいのだろうか。

 

残り9.7km、牽制状態の隙をついて、僅かな希望を乗せてジーがアタック。

ジーのアタックに対して、やはりセペダは追わない…。

結局ここもピノが加速して追いかけ、そしてピノはそのままジーを追い抜いていく。

そうなるとセペダが反応し、難なくピノに合流。

ここでピノは(なんだか怒りの混じった表情で?)再度加速して、セペダを突き放しに掛かる!

ただ、セペダはこの動きに余裕で対応できるだけの脚をしっかり残している。

そしてやはりここでも前には出ないセペダに対して、ピノが何かしら言葉をぶつけて…やり取りを交わす2人。

そうやってペースが緩んでいる隙に、気が付けばルビオが合流してくる…。

残り8km、ピノがまたまた腰を上げて加速。

セペダはここでは慌てて追わず、意外にもルビオと共にペース走での追走を選択。

2人はたっぷり1km以上の距離を掛けて、ピノに合流。

そして…ここも当然ながら(?)セペダは牽かない。

残り6.3kmでまたしてもピノが加速、ただ流石にキレが落ちてきたか、セペダとルビオはすぐさまこの動きを吸収。

そして、ここでも前を牽かないセペダに、あきれ顔(?)でなにか呟くピノ…。

その熱い走りは見ていて応援したくなるものがあるけれども、流石に相手を気にしすぎ、そしてアタックを無駄打ちしすぎている気が…。

と思っていたら、残り5.3kmでセペダがアタック!!

もう少し「溜める」(と言うか、脚質的にもっとフィニッシュ近くで一発で仕掛ける)かと思っていたけれども…?

案の定と言うか、あまり独走が得意なタイプではないセペダはハイペースを維持できず、時間をかけてピノが合流。

そしてピノは残り4kmで意地のカウンターアタック

ただ、やはりもうキレは無くセペダが難なく対応、そしてルビオも追いついて来る。

残り2.1km、再びセペダがアタック。

ただこの動きも勢いを維持できず、3人はひと塊のままフィニッシュに近づいていく。

 

一方メイン集団では、ヒュー・カーシー(EF)が抜け出しを図り、20秒程のタイム差を付ける事に成功。

ただ、その後総合5位のダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)がアタックを仕掛けた事もあり、メイン集団のペースも上がり…フィニッシュまでにタイム差がどう推移するか。

 

先頭の3人は、ピノが先頭固定のまま残り1kmを通過。

残り500mを切って、真っ先にアタックしたのはセペダ!!

…残り500mは早すぎないかと思っていたらやはりセペダは失速、そして残り300mで前に出るのは…ルビオだ!!

ここまで一度もアタックをせずにマイペース走法を貫いていたルビオ、力強く踏み続ける!!

そして、失速するセペダを抜き去ったピノがルビオを追うけれども…流石に脚が残っていない…!

ルビオはピノを完全に振り切り、誇らしげにジャージのチームロゴを指差しながらのフィニッシュ!!

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冷静さと強さを見せつけたルビオ、白熱の山岳バトルを制しての鮮やかなステージ勝利!

そしてルビオは、これがプロ2勝目にしてグランツール初勝利!!

常にペース走を選択した冷静さと自信、そして最後に見せたアタック一刺しのキレ!

そのメンタルも含めて、これはなかなかの大物では?

クライマー大国コロンビアの25歳、今後の走りに注目だ。

 

そして、悔しくも2位でのフィニッシュとなったピノ

まあはっきり言うと、途中で力を使いすぎての自滅に近い要素があったのは、否定できないとは思う。

ただ、心身の不調に苦しんでいた時期を経て、今シーズン限りでの引退を表明した上で見せた、この日の「熱い」走り。

これが、ツール・ド・フランスの総合表彰台を経験し、フランスの期待を背負い続けた者の、戦う姿なのだ。

今大会は「ステージ勝利を狙う」と明言しているピノ

残りのステージでどのように魅せてくれるのか、期待しながら見守りたい。

 

そして、先頭のルビオから1分29秒遅れて、カーシーがフィニッシュ地点へ。

ただ、気が付けばメイン集団はすぐ後方、タイム差は…僅か6秒。

結局、この日も総合争いは実質のノーコンテストに。

色々な状況が重なって致し方がない部分もあるとは言え、そろそろ総合勢の山岳バトルが見たいなぁ…。