待ちに待った総合争い…!
3週目の幕開けは、1級・3級・2級・2級と絶え間なくアップダウンを繰り返してから、1級山岳モンテ・ボンドーネの頂上にフィニッシュする、難関山岳ステージ。
フィニッシュ地点のモンテ・ボンドーネは、登坂距離21.4km・平均勾配6.7%と「長くだらだら登る」系統と見せかけて、ラスト10km以降はほぼ8%越えの険しい勾配、特に残り6km地点という絶妙な仕掛け所に最大勾配である15%区間が登場する、かなり手強いレイアウト。
ここまで個人タイムトライアル以外は実質「ノーコンテスト」だった総合争いが、間違いなく開幕する。
2週目まで雨続きだったのが嘘のような晴天の下、レースはスタート。
序盤の平坦区間を高速で駆け抜けながらまず17人の逃げが形成されると、更にそこに9人の選手が合流して、先頭集団は26人に。
山岳賞を争うダヴィデ・バイス(エオーロ・コメタ)とベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)、総合13位のオレリアン・パレパントル(AG2Rシトロエン)、ポイント賞ジャージを着るジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス)などに混じって、総合争いをするチームのアシストも何人か逃げに乗っている。
イネオス・グレナディアーズはサルバトーレ・プッチョとベン・スウィフトの2人、UAEチームエミレーツがディエゴ・ウリッシ、そしてチーム・ジェイコ・アルウラーがフィリッポ・ザナを送り込んできて…、もしかしたら「前待ち」を狙うかも?
白熱する事が期待された山岳賞争いは、ヒーリーが1級山岳を1位通過、3級山岳を2位通過、2級山岳を4位通過と、抜群の登坂力を見せて大量加点に成功。
山岳ポイントの上積みが出来なかったバイスを抜き去り、一気に暫定首位に躍り出た。
3級山岳と2級山岳の間に設定された中間スプリントポイントは、ミランが格の違いを見せつけてしっかりと1位通過。
最終日までマリア・チクラミーノを守り切るため、準備は万端だ。
メイン集団を序盤からコントロールするのは、総合首位のブルーノ・アルミライルを抱えるグルパマFDJ…だけでなく、ユンボ・ヴィスマも積極的に牽引に参加。
逃げ集団とのタイム差を最大で6分差程度に抑え、そして最後の1級山岳モンテ・ボンドーネ突入時には4分前後にまで縮めて、逃げ集団をしっかりと射程圏に捉えている。
モンテ・ボンドーネの登坂に入ると、ユンボはメイン集団から脱落者が続出するような高速ペーシングを敢行。
ただ、ユンボのアシストも消耗して削れていき…残り15kmのゲート付近でエースのプリモシュ・ログリッチと、最終アシストのセップ・クスしか残っていないような状況に。
ユンボの代わりにメイン集団の先頭に出てきたのは、UAEチームエミレーツ。
ダヴィデ・フォルモロ、ブランドン・マクナルティ、ジェイ・ヴァインの豪華アシスト陣が、エースのジョアン・アルメイダのためにこれまた高速ペースを刻んでいく。
イネオスがゲラント・トーマス、ローレンス・デプルス、ティメン・アレンスマンの3人をUAEの背後に位置させる一方、ユンボのログリッチとクスは集団の中ほどのポジションを選択。
残り10kmを切ると、マリア・ローザを着るアルミライルが脱落。
まあ、アルミライルの登坂力を考えると、ここまでよく頑張ったとも言える。
残り8.5km、逃げ残っていた選手が全て吸収され、メイン集団がレースの先頭に。
ここでUAEの最終アシストのヴァインも仕事を終え、メイン集団の並びはアルメイダ、トーマス、ログリッチ、クス、エディ・ダンバー(ジェイコ)、そして逃げていたザナの、6人のみ。
さあ、ここからが総合争いの本番だ。
残り8kmからは、ザナが最後の力を振り絞って集団を牽引。
この局面で生き残っているエースのダンバーの為に、必死の表情で踏み続ける。
ザナが残り6.8kmで離脱すると、集団の先頭に出たのはアルメイダ。
アルメイダはかなりの高速ペーシングを敢行。
残り6km、アルメイダが一旦牽引を止めて集団の後方に回ると、他の誰も牽きたがらないお見合い状態に。
このペースが緩んだ瞬間を突いて、アルメイダがアタック!!
飛び出したアルメイダを、何故か誰も追いかけない…?
一応クスが集団を牽いているけれども、ペースはそこそこ。
ただ泳がせているだけなのか、それともまさか…ここで行かないという事は、ログリッチの調子が良くないのか?
そして残り4.6km、ここで動いたのはトーマス!
一気にアルメイダに合流して、そのまま2人でペースを上げる!
対するログリッチは…やはりペースを上げられない…!
クスが心配そうに振り返りながら引っ張り上げようとするけれども、先頭の2人との差は徐々に広がっていく!!
トーマスとアルメイダはしっかりローテーションをして、2人でフィニッシュを目指す!
追走集団がどれだけ離されてしまうかは、クスの牽引に懸かっている…!
残り2kmを切って勾配が少し緩むと、タイム差の拡大は一旦収まり…その差は30秒前後。
このぐらいで留められるならログリッチとしてはまだ許容範囲、果たしてどうなる…!?
残り1kmでもタイム差は30秒前後、追走集団はクスが力尽きて、残りの距離はログリッチがなんとか踏んでいく。
先頭の2人もこれ以上ペースを上げる余力はなく、追走との差はほぼ動かないままフィニッシュ地点が近づいてくる!
残り200mを切って、アルメイダがスプリントを開始!
トーマスも腰を上げて加速をするけれども、アルメイダは前を譲らない!!
最後は雄叫びを上げながらのフィニッシュ!!
今大会最初の本格的な総合争いを制したのはアルメイダ!!
積極性と最後まで踏み切る粘り強さで、自身初のグランツールステージ勝利を掴み取った!!
メイン集団で真っ先に仕掛け、トーマスとしっかり協調して、そして最後のスプリントでも強さを見せつける…完璧な内容ではないか!!
「粘り強さは素晴らしいけれども決め切れない登坂力が課題」といった評価をされる選手だったけれども、この日の内容は本当に素晴らしい!!
2020年、グランツールデビューとなったジロ・デ・イタリアで見せた、あの鮮烈な走りが抱かせてくれた期待感に、完璧に応えてくれた!!
そして、アルメイダとトーマスから25秒遅れて、ログリッチとダンバーがフィニッシュ。
その結果、総合上位陣のタイム差は以下の通りに。
総合首位:トーマス
総合2位:アルメイダ(+18秒)
総合3位:ログリッチ(+29秒)
総合4位:ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン、+2分50秒)
総合5位:エディ・ダンバー(+3分3秒)
総合6位:レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ、+3分20秒)
総合争いをしていると言えるのは、この辺りまでか。
ログリッチはレース後のインタビューでは落車の影響を口にしていたようで、やはり調子がイマイチだったけれども、その中でこのタイム差ならまだ十分に希望はある。
第17ステージでの休戦を挟んで、第18~第20ステージは…激戦必至のドロミテ山岳3連戦。
やっと盛り上がってきた総合争い、最後まで目が離せない。