史上3人目の快挙!
シーズン最後のモニュメント、「クライマーズ・クラシック」ことイル・ロンバルディア。
獲得標高4,646mを誇り、一級戦の登坂力を有する選手しか生き残れない厳しいレイアウトの中、優勝候補として挙げられるのは以下の3人。
- 大会2連覇中、その走りは既に伝説と成りつつあるタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)
- 移籍問題も決着、長年過ごしたチームでの有終の美を飾りたいプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)
- 3年前の苦い記憶を払拭したい、独走の申し子レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)
タイプの違いはありながら、登坂力、独走力、スプリント力、そしてチーム力も兼ね備えたこの3人がレースの中心だ。
そこに抗おうと隙を伺うのは、アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)、サイモン・イェーツ(チーム・ジェイコ・アルウラー)、ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)、エンリク・マス(モビスター・チーム)、リチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)、カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ)といった、実力派オールラウンダー・クライマーたち。
秋のイタリアンクラシックの最高峰、激戦の幕が上がる。
アクチュアルスタート直後に16人の逃げ集団が形成され、しばらくは何も起こらないかと思っていたら、メイン集団でトラブルが発生。
なんと、優勝候補の1人エヴェネプールを含む落車が起きてしまう…。
この落車でシュールト・バックス(UAE)は大腿骨を骨折してしまい、リタイアする羽目に。
エヴェネプールは再スタートを切ったけれども、左肘から大きく出血するなど決して軽い落車ではなく、果たしてダメージはどれくらいだろうか…。
厳しい登坂の連続に逃げ集団から脱落者も出ていく中、レースが本格的に動き始めたのは中盤の難所、クロチェッタ→ザンブラの連続登坂区間。
ユンボがペースメイクするメイン集団から零れ落ちる選手の中に、なんと前年2位のマスの姿が。
ズルズルと遅れていったマスは、そのままリタイアを選択することに…。
その一方でメイン集団から飛び出しを仕掛けたのは、ベン・ヒーリー(EF)にオスカー・オンレーという売り出し中の若手コンビ。
この強力な2人は、1分30秒ほど先行している逃げ集団との差を一気に縮めていく。
そのままヒーリーとオンレーは、クロチェッタの頂上を超えた直後に先頭に合流。
そしてザンブラの頂上を越えた先の長いダウンヒル区間に入ると、ヒーリーが抜け出しを図り、そこに追従できたのは逃げに乗っていたマルティン・マルチェリージ(グリーンプロジェクト・バルディアーニCSF・ファイザネ)1人のみ。
2人はそのまま残り40kmから始まる最大の勝負所、登坂距離9.2km・平均勾配7.3%を誇るパッソ・ディ・ガンダに突入していく。
ただ、ユンボが牽引するメイン集団とのタイム差は、気が付けば約40秒しか残っていない。
メイン集団は各チームが登り口に向けて隊列を整え、緊張感が高まっている。
パッソ・ディ・ガンダに入ると、メイン集団を牽引するのはUAEのアシスト陣。
UAEはそのまま、残り38km辺りでアダム・イェーツのアタックという一手を繰り出す!
アダム・イェーツの動きに即座に反応したのはジュリアン・アラフィリップ(スーダル)、そして少し遅れてアッティラ・バルテル(ユンボ)が集団を引っ張り上げる。
この集団の中に、なんとエヴェネプールがいない…!
やはり、序盤の落車のダメージは大きかったか…。
そしてそのまま、メイン集団はアダム・イェーツの牽引でハイペースを維持。
唯一逃げ残っていたヒーリーも吸収して、ここからが本番だ。
残り35km、ウラソフがアタックを仕掛けると、反応したのはマイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック)、アダム・イェーツ、サイモン・イェーツ、クリス・ハーパー(ジェイコ)、アンドレア・バジオーリ(スーダル)。
意外にもポガチャルとログリッチは静観…と言うか、ポガチャルはログリッチを徹底マークで、他の選手の動きにはあまり興味が無い感じか?
ポガチャルとログリッチに同行するのは、ロドリゲス、ファウスト・マスナダ(スーダル)、アントニオ・ティベーリ(バーレーン)の3人。
そのまましばらく静かに走っていたポガチャルだけれども、どうもログリッチの調子がイマイチだと感じ取ったのか、単身ペースを上げて先頭に合流。
ポガチャルが追いついたことで、先頭集団はアダム・イェーツが牽引を開始する。
ここから意外にもログリッチとロドリゲスの2人が後方からじわじわとペースを上げ、さあ何とか追いつく…というその瞬間、ポガチャルがアタック!!
この絶妙なタイミングでのアタックに追従できたのは、ウラソフ1人のみ!
これで、先頭はポガチャルとウラソフ、追走はログリッチ、サイモン・イェーツ、アダム・イェーツ、ロドリゲス、バジオーリ、カラパスに絞られた!
しっかりローテーションを回す先頭の2人に対して、追走集団はログリッチがペース走でほぼ単独牽きの状態。
意外にもこのログリッチのペースが粘り強く、アダム・イェーツとカラパスをふるい落とし、パッソ・ディ・ガンダ山頂直前で先頭に追い付く格好に。
そしてダウンヒル区間に入った直後、ポガチャルがスルスルっと位置を上げると…そのまま独走を敢行!?
15kmの長いダウンヒル、19ものヘアピンカーブが登場するテクニカルなコースをガンガンに攻めて、後続との差を広げていく…!!
そして追走集団は…牽制状態…!
登りで一旦脱落したアダム・イェーツが合流するほどペースを落とした追走集団に対して、ポガチャルは踏みを全く緩めない!
これは…このまま行ってしまうぞ!!
ダウンヒル区間をアグレッシブに、それでいて堅実にこなしたポガチャルが築いたリードは…30秒!
残すは平坦基調に小さな丘が一つのみ、そして追走集団ではアダム・イェーツがローテーション阻害と、これはもうほぼ間違いない!
タイム差はそこから更に広がっていき、独走勝利に向けてもう秒読み…と思ったら、残り12km辺りでポガチャルが太腿を気にする仕草を…?
太腿を叩いている…まさか、脚を攣ったのかポガチャル!?
ただ、これはごく軽度な痙攣だったようで、ポガチャルはその後も順調にペースを刻み続け、タイム差は更に広がっていく。
残り5kmで57秒差という確定的なリードを保ち、石畳が敷かれた「コッレ・アペルト」の登りも問題なくこなし、単身フィニッシュへ向かう!
最終コーナーを曲がり残り500m、勝利を確信し、カメラに向かってガッツポーズを見せるポガチャル!
観客を煽りながら、悠然と、そして力強く、偉大な王者がフィニッシュする!!
強さと上手さを融合させた、圧巻の独走!!
ポガチャルが改めてその強さを見せつける貫禄の走りで、イル・ロンバルディア3連覇達成!!
登坂では常に落ち着いた…ポガチャルにしては静かすぎるような対応からの、まさかのダウンヒルアタックは、ライバルもかなり意表を突かれたのではないだろうか?
2021年にはパッソ・ディ・ガンダの登りでリードを稼ぎながら、ダウンヒル区間でファウスト・マスナダ(スーダル)に追いつかれてしまっていたけれども、まさか今度はそのダウンヒルで仕掛けるとは…!
そして、勝負を決めたダウンヒルアタックよりも注目するべきは、登りでの対応。
そもそもの前提として、レース後に「登りはウラソフが強かった」と語ったように、ポガチャル自身の調子は決して絶好調では無かった。
その上で、まずは最大のライバルであるログリッチを徹底マーク。
そしてログリッチの調子が明らかに良くないことを読み取ると、即座にログリッチを切り捨てて先頭にジョイン。
更にそこから、ログリッチがなんとか合流してくる…というタイミングでのアタックを見せ、そこに「この日最強」のウラソフが反応して付いて来ると、あまり無理をしなかった。
この、一連の冷静極まりない動きで脚を温存したことが、ダウンヒルアタックの成功に繋がったのだと思う。
今までのポガチャルは、他を圧倒する飛び抜けた能力を存分に活かした、積極的で攻撃的なスタイルで勝利を積み重ねてきた。
しかし、この日の走りは、この日の勝利は、一味違った。
冷静で落ち着き払った対応、力の使いどころにメリハリを付けたレース運びは、これまでのポガチャルとは明確に違うものだった。
既に圧倒的な「現役最強」ながら、未だ25歳。
来シーズン以降、王者の更なる進化が見られるのかもしれない。
そして、後続集団による表彰台争いは…、ログリッチ、ウラソフ、サイモン・イェーツ、アダム・イェーツ、バジオーリ、ロドリゲスによる小集団スプリント!
ログリッチ、ウラソフ、バジオーリ、サイモン・イェーツが横並びでハンドルを投げ合う…!
先頭でフィニッシュラインを通過して、2位の座を射止めたのは…バジオーリ!
そして、3位はログリッチ!
来シーズン移籍が決まっている2人が、チームへの置き土産を持ち帰ることに。
バジオーリはリドル・トレック、ログリッチはボーラ、それぞれ新天地でも活躍が楽しみだ!
来シーズンを見据えて…
結果だけ見れば、ポガチャルの3連覇。
相変わらず、ポガチャルは強かった。
ただ、その事実以上に、パッソ・ディ・ガンダでの攻防は、実に多くのものが含まれていたと思う。
エース同士の調子の探り合いの面白さ(落車のダメージが大きかったであろうエヴェネプールは一旦脇に置いておいて…)。
ポガチャルの冷静さと、ログリッチの驚異の粘り。
今大会の3強に次ぐ存在として、明確に登坂で強さを見せたウラソフへの期待感。
エヴェネプールを失いながらも、バジオーリとマスナダで戦い、しっかり結果を持ち帰ったスーダルの結束とチーム力。
ツール・ド・フランスに引き続き、ポガチャルのために身を粉にして働くアダム・イェーツの素晴らしさ。
イネオス復権の担い手として、単騎ながら奮闘を見せたロドリゲス。
パッソ・ディ・ガンダ突入までの動きなど、その他諸々も含めて、本当に面白いレースだったと思う。
ロンバルディアの直前は、ログリッチの移籍問題、そしてユンボとスーダル合併への動きと、ロードレース界はなんだか大変な状況だった。
幸い、ログリッチの移籍先はスムーズに決まり、そしてユンボとスーダルの合併…実質スーダルの消滅に近い形での吸収合併は、回避される見通しが立った。
改めて、ロードレース界の「危うさ」が顕在化した数週間だったけれども、まずは最悪の事態が回避されたことを喜びたい。
そして、「話題の人」「渦中のチーム」が見せた、ロンバルディアでの素晴らしい走りを、称賛したい。
来シーズンも、手に汗握るような素晴らしいレースが、問題なく健全に繰り広げられることを、ひたすらに祈りたい。
それでは、また!