これがスーパースターの輝き…!!
宇都宮を舞台に開催される、日本で唯一のUCIプロシリーズカテゴリーとなるレース、ジャパンカップ。昨年もトップ選手によるガチンコなレースが見られたけれども、今年の出場選手は更に豪華で、驚いてしまう。
- 2020年・2021年の世界王者、情熱的な走りで見る者を魅了するフランスの英雄ジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)!
- ツール・ド・フランス総合優勝4回、2010年代グランツールの絶対王者クリス・フルーム(イスラエル・プレミアテック)!
- 今年のツールで山岳賞を獲得、イタリアが誇るトップクライマージュリオ・チッコーネ(リドル・トレック)!
- イル・ロンバルディアなど登坂力が要求されるレースで実績の多いベテラン、これまでジャパンカップを2度制覇と相性のいいバウケ・モレマ(リドル)!
- グランツールで安定してトップ10入りが狙える実力者、「走る哲学者」ことギヨーム・マルタン(コフィディス)!
- 今シーズン移籍により復調して4勝、2013年の世界選手権王者ルイ・コスタ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)!
…いや本当に、凄すぎやしないか!?
ここでは書ききれない実力者もたくさんいるし、そしてかなり「ガチ」なメンバー選考をしているチームが結構あるのも、本当に凄い!
特にスーダルは、アラフィリップ、ジェイムス・ノックス、ファウスト・マスナダ、ピーテル・セリー、スタン・ファントリヒト、イラン・ファンウィルデルと、完全に「一軍」にメンバー。
他には、リドルとアンテルマルシェもかなり良い。
これは…かなりの好レースになるのでは?
この日の天気は、予報通りの冷たい雨。
初めてジャパンカップを現地観戦する自分は、好天に恵まれなかったことは残念に思いつつ、「観客が減るので観戦スペースには余裕があるかも?」と考えたりしていた。
一緒に観戦する約束をした相互フォロワーさんとスタート&フィニッシュ地点で待ち合わせをし、熱い山岳バトルを観るために2人で古賀志林道の急坂を登っていく。
「この坂を自転車で、しかも高速で登っていくのか…」という素人丸出しの感想を抱きながら、山頂まで200mという絶好の位置を確保して、選手たちを待つことに。
レースオフィシャルカーなどが通過した後、まだ選手の姿は見えないながらも、下から徐々に歓声が近づいてくる。
この「下からの歓声で選手が来るのが分かる」というのは、想像以上の高揚感だ…!
そしてやっと、集団の姿が遠くに見えてくる!
つづら折りをもの凄いスピードで登りながら、自分の目の前に近づいてくる!
いよいよ、目の前を通過する…!
速い!
近い!
いや本当、かなり近い!
手を伸ばせば衝突してしまうような距離を、世界のトップ選手達が大迫力で駆け抜けていく…!!
これまで自分は、昨年のさいたまクリテリウムと、前日のジャパンカップ・クリテリウムでしか、レースを生で観たことが無かった。
どちらもコース全面に柵が設けられているので、選手との距離が近いとは思いつつ、やはりどこか「安心感」はあった。
しかしこの日は、柵の無い山岳区間での観戦。
近い…というか、少し怖くすらあるぐらいの距離感。
何か一つ間違えてしまったら、衝突してしまうことが普通にあり得る、この距離感。
文字通り「目の前」を選手が駆け抜けていく、その迫力と、興奮と、感動。
これが、現地観戦か…。
前日のクリテリウムでは残念ながら日本人の活躍がほぼ見られなかったので、「さすがに今日は逃げに乗ったりして、なんとか山岳賞ぐらいは獲って欲しいよね」なんて会話をしていたのだけれども、そんなことが許される雰囲気は全く無い。
1周目から、ワールドツアーの選手でさえちらほらと脱落していく、とんでもないハイペースでレースが展開されていく。
2周目でもそれは変わらず、アラフィリップが先頭から2番目にいるぐらい、ガチなレース展開だ。
そうすると当然、集団は容赦なく小さくなっていく。
日本人で生き残っているのは、僅か数人か…。
そして3周目、異変が起こる。
下から聞こえてくる歓声が、さっきまでとは明確に違う。
歓声が大きいだけでなく、その中には驚きと、そして歓喜の声色が強く混ざっている。
これは…そうか、誰かがアタックしたのか。
しかし、これだけの歓声に繋がる選手は相当限られるはずであり、一体誰が…。
コーナーを抜け、姿を現したのは…なんとアラフィリップ!!
あのアラフィリップが、古賀志林道の登りでアタックを仕掛けている!!
世界選手権を2度制しただけではなく、幾度となく勝利と栄光を掴み取ってきたアラフィリップのアタックが、この日本で炸裂している!!
本気のアラフィリップが、目の前をもの凄いスピードで駆け抜けていく…!!
この日観戦に来た誰しもが「起こって欲しい」と願いつつ、多くの人は「本気じゃない可能性もあるだろうな…」と、若干の心の保険を掛けていたと思う。
実質ほぼシーズンオフな上に、長距離移動の疲れもあるだろう、と。
しかし我々は…勘違いをしていた。
語弊を恐れずに言えば「見くびっていた」のだろう。
この男は…紛うことなき「本物」だったのだ。
アラフィリップは、ひたすらに本物のスーパースターだったのだ。
エキシビジョンではなくプロシリーズのレースなのだから、当然と言えば当然なのかもしれないけれども、はるばる日本まで来て、本気のアタック。
「本物」のアラフィリップを、「本気」のアラフィリップのアタックを、目の前で観ることが出来た。
自分はこの感動を一生忘れないだろう。
もちろん、本気なのはアラフィリップだけではない。
追走集団も、流石にアラフィリップを放置する訳にはいかないので、それ相応のスピードで追いかけ続ける。
力の無い選手が容赦なく脱落していくのと同時に、役目を終えた各チームのアシスト選手も次々と後退していく。
この「世界基準」で行われた雨中のサバイバルレース、追走集団に生き残っている日本人選手は、岡本隼(愛三工業レーシングチーム)ただ1人。
岡本選手には、本当に大きな声援が送られていた。
レースも折り返しを過ぎると、流石にアラフィリップが集団に捕まり、いよいよ最終局面に突入していく。
登坂区間で観戦しているとレース展開が把握できない(電波もほぼ入らない…)ので、山岳での更なるアタックを観たい気持ちもありつつ、フィニッシュ地点のオーロラヴィジョンを目指して移動を開始。
古賀志林道を下っていく途中、更なる絞り込みが掛けられたメイン集団とすれ違う格好に。
ふと、その最後尾に「仕事」を終えたと思っていたアラフィリップが、粘り強く張り付いているのが気に掛かった。
そこで、このまま下っていくのではなく、もう1周回だけこの位置(山頂まで残り500m以上?)に留まってみる事に。
そうして迎えた次の周回、なんとアラフィリップが単独先頭で登ってくる!?
どうやら前の周回で自分たちとすれ違った後に、またしてもアタックを仕掛けたらしい…!!
流石にこの動きは直後の登坂で捕まったようだけれども…、いやはや、アラフィリップよ!!
本当に凄すぎる!!
1周分「下山」を遅れさせたことで、コスタ、マルタン、そしてフェリックス・エンゲルハート(チーム・ジェイコ・アルウラー)という3人の先頭集団が形成されるシーンには間に合わなかったけれども、フィニッシュまで2~3kmを残したぐらいのタイミングで、フィニッシュ地点に到着。
オーロラヴィジョンには、牽制せずにローテーションをする3人と、必死に追走するマキシム・ファンヒルス(ロット・デスティニー)の姿が交互に映し出されている。
これは…そのまま3人でスプリントだ。
自分だけでなく、フィニッシュ地点に集まった観客みんながそう確信し、固唾を飲んで3人がやってくるのを待つ。
真っ先に仕掛けたマルタン、その直後にコーナーへ良い入り方をしたエンゲルハート。
しかしその2人を全く問題にせず、上手さと脚の残りを両立させたコスタが一気に先頭に躍り出る!!
まさしく割れんばかりの歓声の中、余裕のガッツポーズを見せながらフィニッシュ!!
ルイ・コスタ、フェリックス・エンゲルハルト、ギヨーム・マルタンの3人でフラムルージュ!レース巧者のコスタが第30回大会のジャパンカップを制す🏆
— J SPORTSサイクルロードレース【公式】 (@jspocycle) October 15, 2023
Cycle*2023 ジャパンカップサイクルロードレース
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この期待感と緊張感、そしてフィニッシュスプリントでの全てを爆発させたような歓声と興奮は、登坂区間の高揚感とはまた違う、これまた素晴らしい時間だった…!
夢のような時間
冷たい雨の中での観戦は、確かに辛かった。
ある程度しっかり対策はしていたので、耐えられないほど辛いようなことはなかったけれども、正直言ってなかなか大変ではあった。
それでも、断言したい。
この日のレースは、この日の観戦経験は、間違いなく特別であり、格別に素晴らしいものだった!!
過酷な天候という大きなマイナス面なんか印象に残らないほど、本気で熱中して楽しめた、最高の時間だった!!
アラフィリップを筆頭としたワールドチーム所属のトップ選手たちが、本気で戦ってくれたからこそ、これだけ素晴らしいレースになったのは間違いない。
選手達には、心から感謝と賛辞を贈りたい!!
本当にありがとう!!
もう一つ素晴らしかったと思うのが、レース運営。
前日のクリテリウムも含めて、タイムスケジュール、導線の確保、適宜入るアナウンス、その他諸々のホスピタリティ。
流石は、30回と歴史を重ね、日本で唯一のUCIプロシリーズレースという格式を持つレースだった。
レースの運営に携わった関係者、そして高いモラルを有した「観戦仲間」にも、感謝したい。
いや~、終わってしまった…。
間違いなく特別な時間だったジャパンカップが、当たり前だけれども終わってしまった…。
本当に、楽しかった。
自分はロードレースの戦術面がかなり好きなので、レース展開が把握しにくい現地観戦をどれだけ楽しめるのか若干の不安もあったけれども…、そんなものは軽く吹き飛ばすだけの、最高に素晴らしいものを経験できた。
スケジュールに問題が無い限りは、今後も可能な限り参戦したい。
そう思わせるには十分すぎる、本当に素晴らしいレースだった。
さあ、ジャパンカップが終わってしまった寂しさを噛みしめつつ…、次は11月5日、さいたまクリテリウムが待っている!!
エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)が来る…!
ベルナルがさいたまにやって来る…!!
全力で応援するしかないでしょ…!!
まぁ、まず間違いなくタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)目当ての人が多いのだろうけれども…、だからこそ全力で応援しなくては!
とにかく、さいたまクリテリウムも思いっきり楽しんでいこう~!!
それでは、また!!
おまけ
宇都宮観光もめっちゃ楽んだ。
3日で3回餃子。