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【レース感想】パリ~ニース2024

最後の最後まで分からない…!!

フランスの中心地パリ近郊をスタートし、南部のニースを目指す「太陽に向かうレース」ことパリ~ニース。

ツール・ド・フランスを占う意味でも重要なこのレース、特に注目を集めていたのは「今年のツールにおける4強」と評されるうちの2人、プリモシュ・ログリッチ(ボーラ・ハンスグローエ)とレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)の激突。

もちろん個人的には、最推しの選手であるエガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)の仕上がり具合が気になる訳だけれども…。

まあ、ベルナルにフォーカスするかどうかはともかくとして、総合争いは「2強の攻防に他の選手がどれだけ付いていけるか」という構図なのは間違いなく、そこにベルナルが入っていれば、という感じか。

 

第1ステージ

スプリンター向けと見せかけて、残り18km地点に「小さな起伏の上に設定されたボーナスタイム付きの中間スプリントポイント」、その直後には登坂距離2.6km・平均勾配5%の3級山岳が登場する、少しややこしい事になりそうなレイアウト。

パリ~ニース主催者、こういう「集団スプリントになるのか、総合勢が動きたがるのか」を読みにくいステージ、好きだよね?

 

そんなパリ~ニース主催側の思惑を読み取った…訳ではないだろうけれども、3人の逃げを吸収したメイン集団から、中間スプリントポイント目指して飛び出したのは、総合争いに加わるであろうマッテオ・ヨルゲンソン(チーム・ヴィスマ・リースアバイク)。

この動きに反応したのはエヴェネプールとベルナルの2人、そしてそのままヨルゲンセン、エヴェネプール、ベルナルの順で中間スプリントポイントを通過して、それぞれ6秒・4秒・2秒のボーナスタイムを獲得。

この動きを活かして、エヴェネプールがそのままメイン集団を千切ろうと試みたけれども、さすがにそれは不発に終わる。

そして直後の3級山岳、頂上手前700mの位置でアタックしたのは…ベルナル!

もちろんこれは「様子見」的な意味合いの大きい動き方だったけれども、この積極的な姿勢はなかなか良いぞ…。

ベルナルのアタック対するカウンターで前に出たのはまたしてもエヴェネプール、これにはログリッチジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)といった総合有力勢がしっかりと反応。

エヴェネプールは無理をせずにペースを緩め、その隙をついて飛び出しを試みたのはアントニー・テュルジス(トタルエネルジー)。

テュルジスは最大で20秒弱のリードを稼いだけれども、残り2kmでメイン集団がしっかりとキャッチ。

3級山岳でのペースアップによりピュアスプリンターが数人脱落していて、集団はやや統制の取れていない状態で、スプリントに向かっていく。

 

残り1.5km、集団の先頭に出て主導権を握るのはヴィスマのトレイン。

対抗するリドル・トレックは、エースのマッズ・ピーダスンを守るアシストは1枚のみで、激しい位置取り争いをしながらもここはあえてヴィスマに先頭を譲ったようにも見える。

残り1kmで位置を上げてきたのはデカトロン・AG2R・ラ・モンディアル、エースのサム・ベネットを守るアシストは残り1枚。

ヘアピンコーナーの手前でヴィスマのアシストが仕事を終えて下がると、先頭はリドルのマティアス・スケルモース、その背中にはエースのピーダスンが控えている。

ピーダスンの背後には、オラフ・コーイ、マディス・ミケルス(アンテルマルシェ・ワンティ)、ローレンス・ピシー(グルパマFDJ)、カーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)、マイケル・マシューズ(チーム・ジェイコ・アルウラー)、ブライアン・コカール(コフィディス)、サム・ベネット、ニルス・エーコフ(チームDSMフェルミニッヒ・ポストNL)と、各チームのエースが連なった状態で残り500mを通過。

残り300mを切ると、スケルモースが力尽きて剥がれ、最終コーナーを手前にしてピーダスンが早くも先頭に!

ピーダスンはそのまま直角コーナーを先頭で立ち上がるけれども、残すはまだ150m、脚は残せているか…?

最後の力を振り絞るピーダスンに並んできたのは…コーイ!

緩い登り勾配に両者とも苦悶の表情、完全に横並び状態でのフィニッシュ!!

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ハンドルの投げ合いを制したのは…コーイ!!

コーイはこれが早くもシーズン3勝目!!

嫌な位置の3級山岳、直角コーナーを抜けてのフィニッシュと、タフでテクニカルなコースレイアウトで、ピーダスンに勝ったのは大きいぞ…!

ピーダスンは、アシストのスケルモースがもう50m~100m頑張れていたら…と思わなくもないけれども、スケルモースはそもそもスプリントアシストの選手ではなく総合系の選手、そこを求めるのは酷と言うか、よく頑張ってくれていたと評するべきかな。

 

第2ステージ

前日とは違い起伏はほぼ無し、集団スプリント間違いなしのレイアウト。

 

スタート直後に登場する3級山岳に向けて、山岳ポイント獲得を試みるヨナス・ルッチ(EFエデュケーション・イージーポスト)とマチュー・ビュルゴドー(トタルエネルジー)が飛び出したけれども、この2人に逃げ続ける意思はないようで、山岳ポイントを通過するとメイン集団に戻ることを選択。

残り133km地点の3級山岳でもこの2人による争いが勃発、ここをビュルゴドーが制したことで、ビュルゴドーは山岳賞の暫定首位に。

そしてここから、逃げは発生せず、レースは超スローペースでの進行に。

事前に心配された横風分断も起こらず、大集団でのスプリントに向けて、静かに距離を消化していく。

 

残り4.3kmのクランクを抜けて、幅の広い道路の両側車線を目いっぱいに使った区間に入ると、各チームの隊列が横移動を繰り返しながら主導権を握ろうと試みる、かなり混沌とした展開に。

残り2.2km、外側からスッと位置を上げてきて先頭に出たのは、チューダー・プロサイクリングの隊列。

残り1km、チューダーのアシストが1枚剥がれた隙に、ヴィスマのアシストが一気に先頭を奪って…あれ?

ヴィスマはエースのコーイが付いてきていない…?

ヴィスマのアシストによる牽引は残り400m辺りまで続くけれども、やはりコーイは上がってこれず、これは残念ながら全く意味を成さない牽きに…。

この展開を活かして真っ先にスプリントを開始したのはダニー・ファンポッペル(ボーラ)、しかしその背中にはアーヴィッド・デクライン(チューダー)が張り付き、ダニー・ファンポッペルの動きをリードアウトのように利用する!!

デクラインは失速するダニー・ファンポッペルを軽々とパス、ピシーが追いかけるけれどもこれは届かない…!!

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スイスの新鋭プロチーム、チューダーの連携が炸裂!!

パリ~ニースという大きな舞台で、デクラインが価値ある勝利をもぎ取ってみせた!!

デクラインはワールドチーム所属経験を持たない29歳、これが嬉しいワールドツアー初勝利!!

いや~、これは大金星!!

残り2kmという主導権を奪ったタイミング、ダニー・ファンポッペルの背後までデクラインをしっかり連れて行った最終アシストの動き、そしてデクラインのトップスピードと、全てが嚙み合っていた!!

2月のUAEツアーでステージ2位が3回と、惜しい走りが続いていたデクライン、これが飛躍のきっかけとなるだろうか。

 

第3ステージ

若干のアップダウンがある26.9kmのチームタイムトライアル…なんだけれども、前年と同じように「先頭でフィニッシュした選手のタイムがチームのタイムとしてカウントされる」という、変則ルール。

このルール、フィニッシュ地点での動きが「パンチ力頼り」になっているようにも思えて、個人的にはあまりしっくりこない…。

 

曇天の下で、まず好タイムをマークしたのは、この日の有力候補として名前の挙がっていたUAE

ドイツの個人タイムトライアル王者ニルス・ポリッツという牽引役だけでなく、総合系の選手もアルメイダ、ブランドン・マクナルティ、ジェイ・ヴァイン、フィン・フィッシャーブラックと、タイムトライアル強者が並ぶ布陣は、31分23秒というタイムをマーク。

その後、このタイムに肉薄するチームはなかなか出てこない。

 

出走チームも残り少なってくると、コース終盤辺りでは雨が降ってくる…。

そんな状況下で出走したもう一つの優勝候補スーダルは、中間計測でUAEのタイムを17秒上回る素晴らしい立ち上がりを披露。

しかし、コース終盤は雨脚が強まってかなりスリッピーなコンディションになってしまい、コーナーではどうしても減速を強いられることに…。

結果、フィニッシュタイムはUAEから21秒遅れの全体4位。

途中までは順調だっただけに、エヴェネプールは悔しさを露わにしている…。

 

そして、これまた有力チームのボーラは…ん?

中間計測地点の手前で、既に隊列が3人しかいない…!?

残っている3人、ログリッチ、アレクサンドル・ウラソフ、マッテオ・ソブレロは、全員がタイムトライアルに定評のある選手だけれども、流石にこれは厳しい…。

終盤の雨にも苦しみ、ボーラは54秒遅れの11位と、総合優勝を目指すログリッチにとっては、なかなか嫌なビハインドを抱える結果になってしまった。

 

その後、新型ヘルメットが注目を集めたヴィスマ、総合首位のピシーを擁するグルパマもタイムは伸びず、長い時間ホットシートを温めていたUAEがそのままステージ勝利!!

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総合争いのライバルに圧を掛ける、大きな結果!

タイム差だけだなく、総合1位~4位独占は、マクナルティ、フィッシャーブラック、アルメイダ、ヴァインというメンバーの強力さも含めて、かなりのアドバンテージだ!

タイムトライアルが得意な総合系選手を揃えられたのが、勝利の大きな要因だろうか。

この先の総合争いは、いかにUAEを崩すかという動きになりそうだ。

 

第4ステージ

7つのカテゴリー山岳が登場し、残り13kmの1級山岳とフィニッシュ地点の2級山岳は、十分に総合争いが起こり得る難易度。

 

カテゴリー山岳が多数あるということで、逃げた4人の中で…山岳賞首位のビュルゴドーと、クリスティアンスカローニ(アスタナ・カザクスタン)の間で、激しい山岳賞争いが勃発。

バチバチとやり合う2人、最後はスカローニが単独逃げに持ち込むけれども、1級山岳には届かずにメイン集団に吸収される。

その結果、ビュルゴドーは7ポイント差で山岳賞ジャージのキープに成功。

残り31.1kmに設定された中間スプリントポイントでは、ボーナスタイム獲得を目指してエヴェネプールとログリッチがスプリントで競り合い、エヴェネプールが先着して6秒、2着のログリッチは4秒を獲得する。

3番手通過は、ポイント賞ジャージを着用し、ボーナスタイムではなくスプリントポイント狙いのピシーという結果に。

 

1級山岳に入ると、山頂まで残り3kmという位置でルイス・フェルヴァーケ(スーダル)が、少し意外なアタックを仕掛ける。

この動きに呼応…というか動きを上手く利用しする形で、フェルヴァーケを突き放して単独で大きく抜け出したのはルーク・プラップ(ジェイコ)。

1級山岳の頂上手前、メイン集団から10秒弱のギャップを一気に埋めてプラップに追いついたのは、サンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス)。

プラップとブイトラゴ、協調して逃げる実力派若手2人は、メイン集団とのタイム差を順調に広げていく。

 

残り3km、最後の2級山岳突入の時点で、先頭の2人とメイン集団のタイム差は40秒。

メイン集団にあまり「何がなんでも先頭を捕まえよう」というような意思は見えず、ステージ勝利は先頭の2人での争いに。

動きがあったのは残り1.3km、勾配の厳しい区間でブイトラゴが腰を上げて静かにペースを上げると、プラップが離される!

ブイトラゴは最後まで快調に踏み続けて、そのままフィニッシュラインにたどり着く!!

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1級山岳でプラップに合流する判断、そして2級山岳でのアタック!

登坂力だけではなく、素晴らしい判断が光っての鮮やかな勝利!!

そしてブイトラゴから10秒遅れでフィニッシュしたプラップは、総合首位に浮上!

最後は力負けしてしまったけれども、こちらも良い走りだった!

 

約30秒後方のメイン集団では、エヴェネプールが積極的な仕掛けを見せたけれども、大きなギャップを生むことはできない。

フィニッシュ地点ではスケルモースがエヴェネプールを刺して、この2人が同タイムでのフィニッシュ。

2秒遅れでベルナル、フェリックス・ガル(デカトロン)、ヨルゲンソン、ログリッチ

そしてその他の選手は数秒ずつパラパラと遅れて…という格好に。

 

第5ステージ

3級山岳が4つ登場するけれども、全体の難易度はそこまででも無い…?

恐らく、脱落するスプリンターがいながらも集団スプリント、逃げ切り勝利の可能性も少しあるかな…といった感じか。

いやまあ、リドルがピーダスンのために逃げを追いかけて、十中八九集団スプリントになりそうか。

 

この日の逃げは8人、その内3人はロット・デスティニーの選手というなかなか偏った構成に。

しかし、逃げの主役となったのはトタルエネルジーのピエール・ラトゥール。

ラトゥールは4つの3級山岳を全て先頭で通過して、山岳賞ランキング4位へと急浮上。

そしてそんな逃げ集団を追いかけるメイン集団は、やはりリドルが中心となって、逃げ集団に大きなリードを許さない。

そのペースに、第2ステージで勝利したデクラインや、ファビオ・ヤコブセンDSM)にグローブス(アルペシン)と、メインどころのスプリンターも遅れていき…というか、その3人はリタイアを選択。

「脱落するスプリンター」って、そういう意味では無かったけれども…よく考えればこれが最後のスプリントステージだから、そういう判断にもなるか…。

 

残り9.6km、逃げていた選手が全て吸収されて、いよいよレースは生き残った選手による集団スプリントの展開に。

残り3km、先頭を必死に牽くのはイスラエル・プレミアテックの選手だけれども、アシスト選手は2人しかいない上に、エースのパスカル・アッカーマンは若干後方にはぐれている。

残り2.5kmで位置を上げてきたのはチューダーのトレイン、エースのデクラインはいなくとも意欲は失っていない、経験と実績が豊富なマッテオ・トレンティンで勝負か。

残り1kmを切って、先頭はヴィスマのエドアルド・アッフィニ、ただしエースのコーイとは連結できていない。

しっかり位置を上げてくるリドルのトレイン、スケルモースがスムーズに先頭へ躍り出て、その背中にはピーダスン!

残り250m、ピーダスンがスプリントを開始!

ピーダスンの背後にはアッカーマンが張り付き、そのアッカーマンのスプリント開始に合わせて急加速を見せるのは…コーイ!

ピーダスン、アッカーマン、コーイの3人が競る…!

最後の踏み込みで前へ出て、手を上げたのは…コーイ!!

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最後は完全に力勝ち…!

別レベルのトップスピードを見せたコーイが今大会2勝目!!

コーイは、残り400mでは前から7~8番手、残り300mでも6~7番手辺りと、正直言って結構不利な態勢だった。

それにも関わらず、アッカーマンの背中に上手く乗ると、残り100mからは明らかに段違いなトップスピードで、軽々とアッカーマンとピーダスンをまくってしまうのだから、本当に凄い…!

やはり、単純なトップスピードに関しては、相当なレベルなのは間違いない。

 

第6ステージ

2級・2級・3級・2級・2級とカテゴリー山岳が5つ登場する、厳しい展開になりそうな山岳ステージ。

 

100km以上に渡る長いアタック合戦を経て形成された逃げ集団は、ポイント賞ジャージを着るピーダスンや、山岳賞で首位を争うビュルゴドーとスカローニを含む10人。

最初の山岳はスカローニ、続く3つはビュルゴドーが先頭通過と、バチバチにやり合った結果、ビュルゴドーは10pt差で山岳賞ジャージをキープ。

そして残り58km、総合争いに向けてペースを上げるメイン集団が、早くも逃げを全て吸収。

緊張感を高めながら、最大勾配19%となる2級山岳、そしてその直後の中間スプリントの起伏と、連続する勝負所に突入していく。

 

2級山岳の入り口で仕掛けてきたのはボーラ、マッテオ・ソブレロの高速牽引からログリッチを発射する。

この動きに即座に反応したのは意外にもマクナルティだけで、他のライバルは一旦静観の構え。

しばらくすると、ログリッチは急勾配に苦しんだのかペースが上がりきらず、メイン集団に捕まる。

このタイミングでカウンターアタックを放ったのは、ヨルゲンソン。

「伏兵」ともいえるヨルゲンソンの動きを、誰もチェックしない…?

ヨルゲンソンはそのまま単独で2級山岳を通過、メイン集団とのタイム差は15秒と、思ったよりも開いている。

 

エヴェネプールが中心となってヨルゲンソンを追いかける集団内では、雨に濡れたコーナーでブイトラゴが痛恨の落車…。

その直後、集団からはスケルモースがアタック。

この動きに追随するのはマクナルティのみ、2人で協力してヨルゲンソンを追う格好に。

残り24.7km、先頭のヨルゲンソンにスケルモースとマクナルティが合流、メイン集団とのタイム差は10秒。

メイン集団はウラソフが飛び出しを試みようとするも不発に終わり、そこからはあまり上手く協調が取れず、徐々に先頭とのタイム差が開いていく。

 

先頭の3人はテクニカルな下り基調のコースを順調にこなしていき、残り15kmの時点でメイン集団とのタイム差は30秒以上と、かなり決定的なものに。

メイン集団はやはり協調が取れないままで、残り5kmでタイム差は50秒と、近づくどころか離されている…。

先頭では、スケルモースがあまり先頭交代に加わらないけれども、後続とのタイム差が欲しいヨルゲンソンとマクナルティがしっかりと牽引を見せてペースを落とさないまま、気が付けばフィニッシュまで残り1km。

流石にこの距離に入るとヨルゲンソンとマクナルティも少しペースを落とし、ステージ勝利に向けての牽制状態に。

マクナルティ、ヨルゲンソン、スケルモースの並びで、緩い最終コーナーを通過。

コーナーの立ち上がり、フィニッシュまで約200mの位置から仕掛けたのはヨルゲンソン!

先頭交代に加わらなかった分、やはりフレッシュな脚を残していたスケルモース、2人を寄せ付けずに余裕の勝利!

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狡猾に、最後は力強く!

スケルモース、総合タイム差を活かした動きで勝利を掴み取った!

いやまあ、あの先頭交代に加わらない動き、賛否両論あるかもしれないけれども…。

スタート時点で、マクナルティが27秒遅れの総合3位、ヨルゲンソンが52秒遅れの総合8位、そしてスケルモースは1分27秒差の総合19位という、このタイム差と順位差があったが故の、それぞれの目標の違いが生み出した、最終盤の動きだった…のだと思う。

スケルモースはステージ勝利が欲しくて、対するマクナルティとヨルゲンソンの2人は、総合表彰台…どころか総合首位も視野に入ってくるので、後続とのタイム差が欲しい。

走りながら3人での「話し合い」があったかどうかは分からないけれども、そこに関して共通認識があったから、マクナルティとヨルゲンソンは苛立つ素振りを見せずに、2人でローテーションしていたのだと、自分の目には映ったかな。

いずれにしても、これで総合順位には大きなシャッフルが掛かり…マクナルティが総合首位に!

以下、総合2位ヨルゲンソン(+23秒)、総合3位プラップ(+34秒)、総合4位スケルモース(+54秒)、総合5位エヴェネプール(+1分3秒)と、総合争いは極めて混迷した状況になった…!

 

第7ステージ

厳しい山頂フィニッシュでのクイーンステージ…の予定だったけれども、フィニッシュ地点になる予定だった山岳が積雪のために使用不可能になり、コース短縮の判断が下される。

レース距離は173kmから103.7kmへと変更、そして新たに用意されたフィニッシュ地点は、本来だったら途中に通過する予定だった1級山岳、ラ・マドーヌ・デュテル(登坂距離15.3km・平均勾配5.7%)。

長いけれども、勾配はそこまで厳しくないこの登坂で、総合争いはどんな動きを見せるか…。

 

厳しい天候の中、果敢に逃げにトライした選手は3人。

脱落者を出しながら、最後はヨハン・ヤコブス(モビスター)が単独での逃げになるほどのハイペースを試みたけれども、メイン集団は全く容赦しない。

1級山岳突入時点でのタイム差は僅か20秒強しかなく、あえなくヤコブスは吸収されて、総合争いの火蓋が切られる。

 

ハイペース牽引を仕掛けるのはスーダル、担い手はエヴェネプールの腹心の一人、フェルヴァーケ。

この動きに抗おうと試みたのは、総合6位のベルナルを擁するイネオス。

残り9kmでベルナルとローレンス・デプルスがなにやら言葉を交わすと、直後にデプルスがベルナルを連れて集団の先頭へ。

デプルスはそのままフェルヴァーケと交代するように高速牽引を敢行、そして残り7km地点に設置された中間スプリントポイントに向けて、ベルナルがスプリントを開始!

ベルナルは先頭通過に成功して6秒のボーナスタイムを獲得、2番手通過で4秒獲得はベルナルの動きを潰し損ねたイラン・ファンウィルデル(スーダル)、そして3番手でエヴェネプールが2秒獲得。

加速を見せたファンウィルデルは、そのまま先頭に出て集団の牽引を開始、そのペースは…先ほどまでよりも更に速く、集団は15人ほどに絞り込まれる。

 

残り4.4km、ファンウィルデルの牽引が終了すると同時に、エヴェネプールがアタック!

反応して付いていけたのは、ヨルゲンソン、マクナルティ、スケルモース、ベルナル、ログリッチ、ウラソフ、ブイトラゴ、プラップ、ウィルコ・ケルデルマン(ヴィスマ)ぐらいまでか。

そして残り4km、カウンターアタックを見せたボーラのジャージは…意外にもログリッチ(総合11位、+1分44秒)ではなく、ウラソフ(総合15位、+2分42秒)。

少し総合タイム差のあるウラソフに対して、メイン集団は追う意思をあまり強く見せない。

唯一残っているアシスト選手、ヴィスマのケルデルマンがペースを作るけれども、残り2kmでウラソフとのタイム差は18秒と、もしかしたら決まったか…?

直後、エヴェネプールが再びアタック。

しかしこれも決定的なものにはならず、ブイトラゴ、ヨルゲンソン、ログリッチが反応。

ただ、総合首位のマクナルティは少し離されている。

マクナルティ、なんとか粘れるか…?

 

残り1km、単独先頭のウラソフのリードは…13秒!

しかもそこから拡大傾向、これなら逃げ切れそうだ…!

最終コーナーを抜けて後方を確認、そして勝利を確信!!

最後は両腕を広げてのフィニッシュ!!

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間隙を突いてのカウンターアタック一閃!!

長い登りの山頂フィニッシュ、制したのはウラソフ!!

コース短縮になって難易度が落ちたとはいえ、1級山岳山頂フィニッシュでの勝利はやはり価値が大きい!

マークが薄いという立ち位置も活かしての、上手さが光る走りだった!

 

そして、エヴェネプール、ログリッチ、スケルモース、ヨルゲンソンの4人が8秒遅れ、マクナルティが27秒遅れでフィニッシュしたことで、総合争いはさらに混沌としたものに…。

総合首位はギリギリでマクナルティがキープしたものの、ヨルゲンソンとの総合タイム差は僅か4秒、スケールモースが34秒差、エヴェネプールが35秒差、プラップが44秒差と、総合5位までが1分差以内にひしめく大接戦。

最終第8ステージの動き次第で、どうなるのかまだ全く分からない状況だ。

 

第8ステージ

運命の最終ステージは、2級・2級・2級・1級・1級と、カテゴリー山岳が詰め込まれたニース発着の厳しいレイアウト。

しかも、2つの1級山岳の間には中間スプリントポイント…登坂距離1.6km・平均勾配9.1%のエズ峠頂上に設定された、僅差で総合争いをする選手にとっては喉から手が出るほどほしいボーナスタイムが獲得できる中間スプリントポイントが登場する。

 

この日もまた冷たい雨が降る中、単独での逃げを続けていたのはヴィクトル・カンペナールツ(ロット)。

ただ、ポイント賞ジャージを着るピーダスンが強力な牽引を見せたメイン集団は、残り46.8km、1つ目の1級山岳に突入した直後に、カンペナールツを吸収。

まさにカンペナールツを吸収するというその瞬間、ここで攻撃を仕掛けたのはエヴェネプール!

ここはライバルたちがしっかり反応したけれども、総合逆転を目指すエヴェネプールはやはり早めの仕掛けを成功させる必要があるため、直後にもう一度アタック!

千切れそうになる選手がいたけれども、これも決まりきらない…と思ったら!

山頂まで残り3km、エヴェネプールがこの日三度目のアタックを見せる!!

つづら折りを使ったアタックに付いていけるのは…ヨルゲンソンのみ!?

総合首位のマクナルティが離される…!

少し間を開けて、ウラソフがなんとか先頭の2人に合流して、エヴェネプール、ヨルゲンソン、ウラソフの3人で1級山岳を通過。

後続とのタイム差は、15秒。

まだ決まってはいないけれども…、この先にはまだ中間スプリントポイントのエズ峠、そしてもう一つの1級山岳が残っている。

 

ダウンヒルを快調に飛ばす先頭の3人に対して、マクナルティを含む追走集団は…徐々にタイム差を広げられてしまう。

残り30kmの時点で、その差はなんと56秒。

このペースだと、2分5秒遅れで総合11位のウラソフが総合表彰台に上る可能性も…?

中間スプリントポイントとなっているエズ峠頂上、ボーナスタイムを求めてヨルゲンソンが加速を見せて…え?

エヴェネプールは…反応せずにヨルゲンソンを見送る?

そのままヨルゲンソン、エヴェネプール、ウラソフの順に通過して、それぞれ6秒・4秒・2秒のボーナスタイムを獲得。

これは…エヴェネプールは1級山岳でヨルゲンソンを突き放す自信がある…ということなのか、それとも…?

 

そしていよいよ最後の1級山岳に突入、先頭と追走集団のタイム差は…1分50秒ほど。

総合優勝はヨルゲンソンとエヴェネプールの2人による争い、そしてウラソフが総合3位に入れるかどうかは、追走集団との争いだ。

逆転のためにはヨルゲンソンを突き放すのが必須のエヴェネプールは、山頂まで残り1.7km、勾配が厳しくなる区間で緩やかにペースアップ。

このペースに、ウラソフがたまらず千切れる…。

淡々と、それでいてかなり厳しいペースで踏み続けるエヴェネプール、しかしヨルゲンソンも余裕の様子でしっかり付いていく!

…決まらない、離れない!

そのまま2人で山頂を通過、フィニッシュまで残すは9km。

これは…ヨルゲンソン、このまま何もトラブルがなければ総合優勝だ。

 

雨上がりのダウンヒルを堅実にこなしながら、先頭の2人はフィニッシュに近づいていく。

残り4kmを切ると、ヨルゲンソンは総合優勝を確信して、カメラに向かって笑顔でガッツポーズを見せる。

そのまま無事に最終ストレート、雨上がりの日差しが差し込む「英国人の散歩道」へ。

最後はエヴェネプールがスプリント、ヨルゲンソンは笑顔を見せながら無理はしない…!

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エヴェネプールは電話を掛けるようなパフォーマンス、ヨルゲンソンは後ろで小さくガッツポーズ!!

2人の勝者による、なんとも印象的なフィニッシュシーンに!!

ヨルゲンソン、よくぞエヴェネプールの猛攻を耐えきった!

期待の若手という枠を飛び越えての、見事な総合優勝だ!!

 

 

本当に、最後の最後まで…!

改めて、最終成績を確認。

  • 総合優勝:マッテオ・ヨルゲンソン(チーム・ヴィスマ・リースアバイク)
  • 総合2位:レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ
  • 総合3位:ブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツ
  • ポイント賞:レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ
  • 山岳賞:レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ
  • ヤングライダー賞:マッテオ・ヨルゲンソン(チーム・ヴィスマ・リースアバイク)

 

総合優勝は、「伏兵」ヨルゲンソン!!

もちろん、期待の若手ではあったので、強いのは知っていたけれども、ここまでとは…!

特に最後の1級山岳、ウラソフがあっさりと諦めてしまうほどの厳しいペースアップに、しっかりと付いていくその走りは、本当に凄かった!

 

総合2位に終わり、悔しさを若干滲ませていたエヴェネプールは、ステージ勝利だけでなく、なんと山岳賞とポイント賞を獲得することに…!?

そりゃまあ悔しさはあるのだろうけれども、これまた見事な結果なのは間違いない。

 

そしてこれまた最後まで分からなかった総合3位争いは、ウラソフが1級山岳で失速したことで、マクナルティが辛くも表彰台の座を死守…!

マークを受けての厳しい状況下で、よく粘ったと評価したい。

 

いやしかし、文字通り最後まで手に汗握る、目を離せないレースだった…。

第7ステージの難易度が少し下がったとは言え、やはり第8ステージのあのレイアウトは何が起こっても不思議ではない、本当に素晴らしい設定だった。

そして何より、「レースは選手が作る」という言葉の通り、各選手の様々な意図が絡んだ結果、レースが面白くなったと思う。

ここから本格化するロードレースシーズン、この先のレースもきっとそうやって面白くなると思うと、本当に楽しみだ。

 

それでは、また!

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