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【レース感想】ツール・ド・フランス2024 第15ステージ

決戦の地プラトー・ド・ベイユ

第15ステージは、4つの1級山岳を越えて、最後は超級山岳プラトー・ド・ベイユにフィニッシュする、今大会屈指の難関ステージ。

フィニッシュにそびえるプラトー・ド・ベイユは、登坂距離15.8km・平均勾配7.9%と、超級に相応しい過酷なプロフィールを誇る。

決戦の地の主役は、2人。

総合首位タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)と、1分57秒遅れの総合2位ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム・ヴィスマ・リースアバイク)。

最高の舞台で、最高の実力を有する2人による、至高の争いが繰り広げられた。

 

攻める姿勢を見せたのは、ここまでのステージで攻撃を続けてきたUAEではなく、タイム差を逆転しなければいけない、言わば「追い詰められていた」ヴィスマ。

先頭集団による逃げ切りなど絶対に許さない、アシストを総動員した高速ペーシングでメイン集団に負荷を掛け続け、あっという間にプラトー・ド・ベイユの入り口に到達する。

超級山岳の登坂での牽引を担うのは、今年3月のパリ~ニースを制した新進気鋭の実力者、マッテオ・ヨルゲンソン。

総合10位という立場のヨルゲンソンだが、自らの総合順位キープなど全く考慮しない、もはや捨て身とも言えるほど驚異的なペースでの牽きを続ける。

メイン集団に生き残っているのは、ヨルゲンソン、ポガチャル、ヴィンゲゴーの他には、総合3位のレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)、総合6位のミケル・ランダ(スーダル)、総合7位のアダム・イェーツ(UAE)のみ。

それぐらい、ヨルゲンソンの牽きは…ヴィスマの攻撃は、苛烈だった。

 

残り10.5km、ヨルゲンソンが仕事を終えたその瞬間、満を持してヴィンゲゴーが加速。

残り10km以上を残すとはとても思えない、ヴィンゲゴーのもの凄いペースアップに反応できるのは、ポガチャルだけ。

あのエヴェネプールですら即座に反応を諦め、マイペース走行を選択せざるを得ない。

淡々と、後ろを全く振り返らず、驚異的な速度を維持し続けるヴィンゲゴー。

そのヴィンゲゴーの背中に、こちらもまた静かに貼りつくポガチャル。

あっという間に逃げ集団の生き残りを追い越し、レースの先頭に立つ2人。

まさに、別次元。

現役最強の2人による、静かで、それでいて熱く、驚くほどハイレベルな勝負。

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ここからどんな結末を迎えようとも、2人に最大限の称賛を贈るしかない。

そう思わせてくれる、至高の勝負が繰り広げられている。

 

残り5.5km、ほんの少し、本当に僅かな変化を見せたのは、ここまでもの凄いペースを維持し続けてきたヴィンゲゴー。

少し、ダンシングの時間が増える。

そして、一度だけチラリと後方のポガチャルを振り返る。

ペースは、緩めていない。

隙や綻びとは到底言えない、ほんの僅かな変化。

そしてポガチャルは…この変化を見逃さなかった。

ポガチャルが腰を上げて、この日初めてのアタックを見せる。

限界が近いのか、全く反応できないヴィンゲゴー。

それでも後続とのタイム差が縮まっていかないということは、ヴィンゲゴーのペースは、やはり落ちていない。

つまり、相変わらずもの凄いペースを維持しているはずのヴィンゲゴーを、ポガチャルがそれを更に上回る、あり得ないようなペースで突き放している。

2人の差が、着実に広がっていく。

ポガチャルのステージ勝利が、そして総合優勝が、着実に近づいている。

 

残り1km、ポガチャルとヴィンゲゴーのタイム差は、50秒にまで拡大。

残すは緩斜面のみ、ポガチャルは最後の力を振り絞って踏みを強める。

最後の最後まで全力で踏み切って、ガッツポーズはフィニッシュラインを越えてから。

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超級山岳での至高の勝負は、驚異的な走りを見せたポガチャルに軍配!!

総合優勝をぐっと手繰り寄せる、本当に大きなステージ勝利!!

恐らく、ポガチャルのここまでのキャリアにおける最高のパフォーマンス。

もはや、色々と言及する必要もないだろう。

ただひたすらに、驚くほど、恐ろしいほど強い。

これだけで十分なはずだ。

 

そしてポガチャルから遅れること1分8秒、ヴィンゲゴーがフィニッシュ。

まだ3週目が残っているとは言え、総合逆転のためにはそろそろタイム差を縮めなければいけない、追い詰められた状況で見せた、この日の走り。

残り10.5kmからのアタックは、本当に痺れたよ。

もちろん、その攻撃が実らず、逆にタイムを大きく失う結果となってしまったのは、本人にとっては残念だろう。

それでも、見ていた人なら当然理解しているはずだが、この日のヴィンゲゴーは恐ろしいほど強かった。

王者の矜持を存分に発揮した、素晴らしい走りだった。

ポガチャルとヴィンゲゴー、両者に最大級の賛辞を。

そして、最大級の感謝を。

この日のレースをリアルタイムで観ることが出来て、本当に幸せだ。

 

3分9秒という2人の総合タイム差は、決して小さくない。

「何か」がなければ、総合順位の逆転は相当困難なのは間違いない。

3週目、何かが起こるのか、起こせるのか。

まだ続く至高の勝負、最後までしっかりと見届けよう。