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【レース感想】ジロ・デ・イタリア2024 第15ステージ

この走りをなんと形容すればいいのだろうか…

第15ステージは、3級・2級・1級・1級・1級と、カテゴリー山岳が敷き詰められた難関ステージ。

走行距離222km、獲得標高5,700mという過酷なレイアウトは、間違いなく今大会で最も難易度が高い。

そんな最高の舞台で、「ドラマ」は起こらなかったけれども…、「何か」は起こった。

いや…もしかしたら、何も「特別なこと」は起きていないのかもしれない。

ある意味「予想されていた大事件」が、やはり起こされた。

 

厳しい山岳ステージでの栄誉ある勝利を目指して、勇気ある逃げを試みた選手の数は12人。

このままレースが「落ち着いて」進行するのかと思いきや、メイン集団から新たな追走集団が…なんと40人以上もの選手が飛び出していく。

なかなか珍しい展開になったけれども、メイン集団を牽引するUAEチームエミレーツは全く動じる様子を見せず、先頭とのタイム差を3分~4分程度にコントロール

この日1つ目の1級山岳、名峰パッソ・デル・モルティローロの登坂に入ると、先頭集団の人数は一気に絞られる。

ジョナタン・ナルバエス(イネオス・グレナディアーズ)、ジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)、ナイロ・キンタナ(モビスター・チーム)、フアン・ロペス(リドル・トレック)、アッティラ・ヴァルテル(チーム・ヴィスマ・リースアバイク)、マイケル・ストーラー(チューダー・プロサイクリング)、ゲオルグ・シュタインハウザー(EFエデュケーション・イージーポスト)など、精鋭ぞろいの17人が、逃げ切りを目指してフィニッシュに向けた2連続1級山岳へと向かっていく。

 

1級山岳パッソ・ディ・フォスカーニョ突入時、先頭集団のリードは3分10秒ほど。

逃げ切るにはかなり心許ない、ペースを上げなければいけないという状況で、飛び出しを見せたのはシュタインハウザー。

シュタインハウザーを追いかける足並みがなかなか揃わない中、キンタナが単独での追走を開始。

10年前のジロ王者は、ペース走でじわじわとシュタインハウザーに迫っていく。

 

時を同じくして、ここまでは落ち着いていた…UAEのコントロール下でペースを刻んでいたメイン集団で「事件」が、冒頭でも触れたように「予想されていた大事件」が起こる。

集団の先頭を牽くのはUAEが誇る百戦錬磨の名山岳アシスト、ラファウ・マイカ

そのマイカがペースを上げた…ということは、やはりエースがここから動く。

フィニッシュまで15kmほどの距離を残して、総合首位のタデイ・ポガチャルが、早くもアタック。

総合3位のダニエル・マルティネス(ボーラ・ハンスグローエ)がなんとかその背中に張り付こうと試みるけれども、早々に諦めざるを得ない、ポガチャルのとんでもない加速。

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先頭とのタイム差は3分、残り15kmなら追い抜いてしまうのはまず間違いない。

問題は、総合争いのライバルにどれだけのタイム差を付けるのか。

いや…もうすでに3分以上の総合タイム差があるのだから、ライバルとすら捉えていないのかもしれない。

とにかく、2週目の最終日にして、一体その差をどこまで広げてしまうのか。

もはや勝負とは関係ないようにも思えてくる、ポガチャルの独走が始まった。

 

先頭は、残り13kmでシュタインハウザーを捉えたキンタナが、そのままシュタインハウザーを突き放して独走を開始。

ただ、もうポガチャルが…近い。

なんと、この2kmほどの短い間に、タイム差を1分30秒にまで縮めてきている…。

キンタナのペースは、ポガチャル以外の選手とのタイム差の推移を見る限り、悪くないどころか、はっきり言ってかなり良い。

それでも、ポガチャルはその差をぐんぐん縮めていく。

パッソ・ディ・フォスカーニョ山頂を単独先頭で越えたキンタナは、短いダウンヒルをかなり攻めながら駆け抜け、最後の1級山岳リヴィーニョに突入。

残り距離は4.7km、ポガチャルとのタイム差は…40秒。

キンタナ、どこまで粘れるか。

 

短いながらも19%の最大勾配を誇る1級山岳リヴィーニョでも、ポガチャルの勢いは全く衰えない。

苦しいそぶりも見せず、残り1.9kmでキンタナを捉え、そのまま軽々と抜き去っていく。

頂上付近に詰めかけた観客の声援を受けながら、笑顔を見せるどころか、カメラに向かっておどける余裕まで見せつけながら、力強く突き進む。

最後は高々と腕を突き上げ、堂々たるフィニッシュ。

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最難関ステージを完全制圧。

誰も、ポガチャルを止める事なんてできない。

分かってはいた。

ポガチャルが強いのは散々思い知らされていた。

この日もUAEのアシスト陣の牽引から、アタックを見せるのも予想できていた。

それでも、さすがにこの走りには、驚かざるを得ない。

なにせ、メイン集団にいた選手で次にフィニッシュしたのは、総合8位のロマン・バルデ(チームDSMフェルミニッヒ・ポストNL)で、ポガチャルから2分47秒後にフィニッシュ。

そしてポガチャルに対しての「ライバル」である、総合2位のゲラント・トーマス(イネオス)と総合3位のダニエル・マルティネスが、2分50秒遅れでのフィニッシュ。

トーマスとの総合タイム差は…6分41秒にまで拡大してしまった。

余りにも圧倒的。

余りにも絶対的な力の差。

もうこのジロで、ポガチャルを止めることなんて…少しでも抗うことなんて、誰もできやしない。

そう思わせるには十分すぎる、恐ろしいまでの制圧劇だった。

 

もう一人、この選手にも言及しておこう。

逃げ切りを狙った勇者、コロンビアの英雄キンタナ。

2010年代最強のピュアクライマーは、苦難の時期を乗り越えて復帰した古巣モビスターで、改めてその力が健在であると、見せつけてくれた。

総合タイムは早い段階で失っていたけれども、難関山岳ステージまで力を温存して、その登坂力を存分に発揮してくれた。

この走りなら、3週目もチャンスは十分にある。

誰もが、キンタナの完全復活を待っている。

願わくは、勝利の栄冠に手が届かんことを。