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【選手紹介Vol.18】グレッグ・ファンアーベルマート

石畳を得意としたクラシックの名手

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選手名:グレッグ・ファンアーベルマート(Greg Van Avermaet)

最終所属チーム:AG2Rシトロエン

国籍:ベルギー

生年月日:1985年5月17日

脚質:パンチャー

 

主な戦歴

 ・パリ~ルーベ

 優勝(2017)、3位(2015)

リオデジャネイロオリンピック

 優勝

・オムループ・ヘット・ニウスブラッド

 優勝(2016、2017)、2位(2014)、3位(2022)

・E3・ハレルベーグ

 優勝(2017)

・ヘント~ウェヴェルヘム

 優勝(2018)、3位(2013)

・グランプリ・シクリスト・ド・モンレアル

 優勝(2016、2019)

ロンド・ファン・フラーンデレン

 2位(2014、2017)、3位(2015、2021)

ツール・ド・フランス

 ステージ通算2勝(2015、2016)

ブエルタ・ア・エスパーニャ

 ステージ通算1勝(2008)、ポイント賞(2008)

・ティレーノ・アドリアティコ

 総合優勝(2016)、ステージ通算2勝(2015、2016)

 

どんな選手?

石畳系のクラシックレース(フランドル・クラシック)を中心に、ワンデーレースで幅広く活躍する現役屈指のクラシックスペシャリスト。

 

祖父も父も元プロロード選手という自転車競技一家に生まれ、2006年にはU23(23歳以下)カテゴリーのベルギーチャンピオンに輝き、2007年に地元ベルギーのプレディクトール・ロット(現ロット・スーダル)でプロデビュー。

プロ1年目からツアー・オブ・カタールやツール・ド・ワロニーでステージ優勝を飾るなど、その才能を遺憾なく発揮。

2008年には、グランツール(3大ステージレース)初出場となったブエルタ・ア・エスパーニャで、いきなりのステージ1勝を挙げるだけでなく、ポイント賞も獲得する活躍を見せる。

2009年と2010年は勝ち星に恵まれなかったが、2011年からBMC・レーシングチームへ移籍。

なかなかワールドツアーでの勝利数は伸びなかったが、

2011年:クラシカ・サンセバスティアン2位

2013年:ヘント・ウェベルヘム3位

2014年:オムループ・ヘット・ニウスブラッド2位、ロンド・ファン・フラーンデレン2位

2015年:ストラーデ・ビアンケ2位、ロンド・ファン・フラーンデレン3位、パリ~ルーベ3位、世界選手権個人ロードレース3位

と、主要レースでの表彰台を多数経験する安定感を披露。

年々表彰台入りの回数も増やしていき、後は爆発の瞬間を待つのみとなっていた。

 

そして迎えた2016年、それは正に爆発だった。

まずはシーズン開幕直後の2月、得意の石畳のオムループ・ヘット・ニウスブラッドで優勝。

3月にはティレーノ・アドリアティコでステージ1勝と、まさかの総合優勝。

山岳の設定が軽めだったとはいえ、ワールドツアーのステージレースでの総合優勝は予想外のものだった。

7月には世界最高の舞台であるツール・ド・フランスでステージ優勝。

そして極めつけは4年に1度のオリンピック、舞台はリオデジャネイロ

険しい山岳コースが設定されていたため、クライマーやオールラウンダーに有利と見られていたが、厳しい登りも耐え抜いて、最後は3人でのスプリント勝負に持ち込む事に成功。

スプリント勝負の相手は、オールラウンダーのヤコブ・フルサン(デンマーク:当時アスタナ・プロチーム)と、クライマーのラファウ・マイカポーランド:当時ティンコフ)。

2人とも登坂力は一流だがスプリント勝負ではファンアーベルマートの敵ではなく、見事に金メダルを獲得した。

翌2017年も好調をキープし、まずは前年に続きオムループ・ヘット・ニウスブラッドで優勝。

そして圧巻だったのはフランドル・クラシック4連戦。

まずはE3・ハレルベークとヘント・ウェベルヘムで優勝モニュメント(5大ステージレース)の1つであるロンド・ファン・フラーンデレンは2位に終わるが、もう1つのモニュメントであるパリ~ルーベでは見事に優勝を飾った。

惜しくもトム・ボーネン以来の4戦全勝は逃したが、4戦3勝という圧倒的な成績を残し、現役屈指のワンデーレーサーである事を証明してみせた。

そしてこの4連戦でワールドツアーポイントを大量に稼いだ事により、2017年の最多ポイント獲得者となった。

 

まさに絶頂期を迎えていたファンアーベルマートだが、2018年に予想もしない逆境に見舞われる。

所属チームのBMC・レーシングチームからBMCがスポンサー撤退を発表し、チームが存続の危機に陥ってしまったのだ。

そして新たなスポンサー探しが難航する状況に、リッチー・ポートやローハン・デニスなどのエース級を含む多くの選手がチームを離れる事となった。

スポンサーが見つからなければチームの存続自体怪しい、存続できたとしても弱体化は免れない状況の中、ファンアーベルマートは自分を育ててくれたチームへの恩義を返すべく残留する事を決断。

なんとか7月には無事に新規スポンサーも見つかり、2019年にはCCCチームとして無事に新たな船出を迎えることが出来た。

 

2019年は見立て通りチーム力が大幅に低下してしまい、ファンアーベルマートも勝負所でアシストを受けられずに孤立してしまう場面が目立ち、なかなか勝ち星を稼げなかったが彼は果敢に走り続けた。

ワールドツアーでの勝利は9月のグランプリ・シクリスト・ド・モンレアルのみとなってしまったが、オムループやE3ではしっかり表彰台に上るなど着実にポイントを稼ぎ、年間獲得ポイントランキングでは7位となっていたのは流石である。

そして迎えた2020年シーズン、マッテオ・トレンティンという強力な新戦力がチームに加入し、フランドル・クラシックで十分戦える体制は整った。

そんな最中、コロナウィルス感染拡大の影響で全レースが中止になってしまったのはとても残念だったが、主要なレースは8月以降に日程を動かして開催する事が決定。

2枚看板による新生CCCの走りに期待したいところだったのだが、なんとここでまたチームスポンサー問題が浮上。

コロナウィルスの影響により業績不振に陥ったCCC社(ポーランドの靴メーカー)が来期からのスポンサー撤退を発表したのだ。

2020年8月1日現在、未だ新規スポンサーが見つかっていない苦しい状態になってしまっている。

ファンアーベルマートはこの状況に対し、

「チームとは約10年の付き合いで、簡単に別れを告げるのは残念なこと」

と、まずは残留を基本路線として事態を見守る事を表明した。

 

チームスポンサーを獲得するためには、企業が多額のスポンサー料を支払ってくれる価値や魅力がなければならない。

「勝つ事や活躍する事によってメディアへの露出を増やせる」と、企業にアピールする必要がある。

そう、要するに、勝てばいいのだ。

そして、ファンアーベルマートは現役最強のワンデーレーサーの1人である。

その力が遺憾なく発揮され、そして彼の愛するチームが救われる事を期待したい。

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※2021年1月31日追記

スポンサー問題によりチームの存続が危ぶまれる中、ファンアーベルマートは残留を基本方針とするものの、チームの新スポンサーはなかなか見つからない。

そして遂に、ファンアーベルマートは前身のBMCチーム時代から数えれば約10年所属しているチームを離れる決断を下し、AG2Rシトロエンへの移籍を発表。

(ちなみにその後、CCCチームはプロチームのサーカス・ワンティゴベールがワールドチームライセンスを引き継ぎ、新チーム名アンテルマルシェ・ワンティゴベールがワールドチームとして活動、つまりCCCは実質消滅に近い形となってしまった)

 

翌シーズンからの移籍は決定したものの、CCCチームとして結果を残そうと走るファンアーベルマートだったが、得意のフランドル・クラシックの直前、リエージュ~バストーニュ~リエージュで落車。

骨折と肺気胸という重傷を負ってしまったため、残念ながらそのままシーズン終了となり、期待されていたトレンティンとのダブルエースでの活躍は見せる機会が無いまま終わってしまった。

 

2021年シーズンからファンアーベルマートが所属するAG2Rは、絶対的な総合エースだったロマン・バルデを放出して、急速にワンデーレース向けの補強を進めているチーム。

エースとして招き入れられたファンアーベルマートとしては、オリバー・ナーセンというこれまた強力な新しい相方とのコンビで勝利を量産することが求められているはず。

また、実力がありながら単騎での立ち回りを余儀なくされていたためにイマイチ勝ちきれなかったナーセンとしても、大きなチャンスとなるだろう。

生まれ変わろうとしているチームをベテランらしく導く、そんな走りをファンアーベルマートには期待したい。

 

※2022年1月17日追記

新天地でナーセンと言う頼れる相方を得たファンアーベルマートだったが、フランドル・クラシックで相変わらず上位に絡む安定感は見せるも、2021年シーズンも年間0勝に終わってしまう。

3月のE3・サクソバンク・クラシックでは、せっかくナーセンと共に最終盤の先頭集団に残ったものの、3人の選手を残す事に成功したドゥクーニンク・クイックステップの前に手も足も出ず、6位(ナーセンは4位)と表彰台すら逃す悔しい結果に。

2週後のロンド・ファン・フラーンデレンでも、カスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク)とマチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)の抜け出しには対応できず、勝負権を失ってしまう。

それでも集団の先頭でフィニッシュして、3位で表彰台に登った辺りは流石と言えなくもないが、この結果はきっとファンアーベルマートにとっての成功ではないだろう。

 

これで2年連続未勝利となってしまったファンアーベルマートは、2022年シーズン中に37歳になる。

果たして年齢による衰えなのか、それともただ何かが噛み合っていないだけなのか。

安定して上位に入っている事を考えると、まだ大きな勝利を掴むチャンスはあるようにも思える。

実績十分なベテランの奮起に期待したい。

 

※2022年12月15日追記

2022年のファンアーベルマートは、2月のオムループで3位入賞と、悪くないスタートを切ったように見えた。

しかし、その後は全くと言っていいほど良いところが無く、3年連続の未勝利だけでなく、ワールドツアーでのトップ10フィニッシュも無しと、散々な内容だった。

 

オムループで3位という結果を残す辺り、37歳ながらまだ完全に衰えたとは言い切れないかもしれないが、2017年前後の圧倒的な力は失われているように見えるのも事実だろう。

2021年のAG2Rへの移籍後、期待されていたナーセンとのコンビネーションも効果的に発揮されているとは言い難いのが現実だ。

現在、チームとの契約は残り1年。

契約最終年となる2023年、その走りと動向を注目していきたい。

 

※2023年12月8日追記

2023年のシーズン序盤、ファンアーベルマートは得意のオムループ・ヘット・ニウスブラッドで34位と振るわず、3月に入っても春のクラシックで結果を残せない日が続いていた。

そして5月3日、チームから今シーズン限りでの引退が発表される。

その直後、5月14日にブーク・ド・ロルヌで挙げた勝利が現役最後の勝利となり、その後もレースに出場を続けたが、そのまま静かに引退の時を迎えた。

 

BMCが解散した2019年以降は、ファンアーベルマートにとってなかなか難しい状況が続き、残念ながら現役晩年は力を発揮できたとは言い難いだろう。

それでもそれは、絶頂期の輝きを損なうものではない。

ベルギー人らしい石畳での強さと、意外な場面で発揮する登坂力を両立させていた2010年代後半は、間違いなくトップ選手の一人だった。

リオデジャネイロオリンピック優勝、パリ~ルーベ制覇、フランドル・クラシック年間4戦3勝、年間最多UCIポイント獲得、グランツールでのステージ勝利など、通算42勝はとても輝かしい戦歴だ。

現役生活最後の最後まで、全てを出し尽くすまで走り切ったその黄金の輝きを、ファンは忘れないだろう。

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