今年最後のワールドツアー
「密」だったレース日程も遂に最終盤、ジロ・デ・イタリア最終週と並行開催でブエルタ・ア・エスパーニャが開幕!
当初予定されたいたオランダでの開幕3ステージがキャンセルになり、全18ステージの戦いとなったブエルタ。
それでも、ツールでの敗戦を乗り越えたプリモシュ・ログリッチの走り、クリス・フルームが怪我から復活できるかどうか、結局トリプルエースの地元モビスター・チームなど、見どころは盛りだくさん!
見る側も体力勝負になっている厳しい日程だけれども、今シーズン最後のワールドツアー、最後まで堪能していきますよ~!
第1ステージ
予定されていた平坦の3ステージがキャンセルされたことにより、初日から3級・3級・3級・1級という厳しい山岳ステージとなった第1ステージ。
5人の内4人がワールドチームの選手という少し意外なメンバー構成の逃げが比較的すんなり決まり、タイム差は最大4分ぐらい。
一方メイン集団では、雨の中落車やリタイアがチラホラ…。
アレクサンドル・ジェニエス、マティアス・フランク、イラン・ファンワイルダーは残念ながら初日からリタイアとなってしまった。
それでもメイン集団はユンボ・ヴィスマやモビスターの牽引でペースを刻み続け、残り25km辺りで逃げをすべて吸収する。
3つ目の3級山岳では、フルームが他の選手の落車の影響で集団からちぎれ、そのまま遅れてしまう。
う~ん、不可抗力とはいえ、万全な状態のフルームなら戻れた気がするし、そもそも集団後方を走ってる時点で状態はまだまだ上がっていないという事かなぁ…。
そんなフルームを置き去りにして、最後の1級山岳に突入するとイネオス・グレナディアーズがペースアップを敢行。
序盤に落車したダニエル・マルティネス、胃腸のトラブルでジロをリタイアしてこのブエルタに参戦したアレクサンドル・ウラソフ、背中の痛みでツール・ド・フランスでは振るわなかったティボー・ピノなど、調子が万全ではない総合エースが遅れていく展開に。
そして、20名ほどに絞られた集団をさらにふるいに掛けようと、セップ・クスが積極的に攻撃を仕掛けると、集団はさらに人数を減らしていく。
結果として、先頭はログリッチ、クス、リチャル・カラパス、エンリク・マス、ヒュー・カーシー、ダニエル・マーティン、エステバン・チャベス、フェリックス・グロスチャートナーという8人の精鋭集団に。
残り1.5km、カーシーのアタックのカウンターでログリッチが飛び出して、そのままダウンヒルをかっ飛ばしていく!
もちろん後ろも必死で追いかけるけれども、ダウンヒル巧者のログリッチは僅かながらリードを保ったままフィニッシュ!!
昨年の覇者ログリッチ、王者の力を示す開幕勝利!!
ツールでは逆転負けを喫したけれども、やっぱりログリッチは強い。
そして相変わらず最強な山岳アシストであるクスなど、チーム力も盤石。
総合優勝の大本命が、順調すぎるスタートに成功した。
第2ステージ
2つの3級山岳を超え、最後は1級山岳からの長いダウンヒルでフィニッシュする丘陵ステージ…ん?
丘陵?
山岳ではなくて?
いや~、ブエルタさん、さすがっすわ~。
この日はチーム拠点のある地域を走るという事もあり、モビスターが積極的なレース展開を見せる。
5人の逃げを泳がせながら、2つ目の3級山岳を超えた辺りでモビスターが横風分断を狙った強烈なペースアップを仕掛ける。
チーム総出での攻撃に集団は分裂し、メイン集団の人数は一気に70人ほどにまで減ってしまう。
中間スプリントポイント辺りでカラパスがアシストを引き連れて抜け出すも、1級山岳に入るとまたモビスターがペースアップを図り、逃げに追いついて先頭に立っていたカラパスたちを吸収。
このペースアップは強烈で、トム・デュムラン、グロスチャートナー、ウラソフをメイン集団から脱落させ、ルイスレオン・サンチェスやクスのアタックもしっかりと封じ込める。
かなり人数が減ったメイン集団は1級山岳を超えダウンヒルに突入。
しばらくすると、登りで牽引して一旦遅れていたはずのマルク・ソレルが後ろから猛追してきて、なんとそのまま集団をぶち抜いて独走を開始!
初日に1分17秒のタイムを失っているソレルを誰も積極的に追いたがらず、更にはアレハンドロ・バルベルデとマスの2人が追走のローテーションを阻害し、ソレルとの差は少しづつ開いていく。
ソレルはそのまま14kmを独走し、単独でフィニッシュ!!
チームの地元での見事な勝利、そしてソレルはグランツール初勝利!!
昨年のブエルタでは「アシスト拒否」で批判を浴びたソレル、汚名返上の見事な走りを披露!
というか、あれだけ牽引もしながら独走勝利って、ソレルのエンジンの大きさを改めて示すような走りだったと思う。
今シーズンここまで僅か1勝と過渡期で低迷していたチームにとって、バルベルデに代わるエース候補として期待されるソレルによる勝利の意義は相当大きいはず。
マスと共にチームの明るい兆しとなるか、期待したい。
第3ステージ
ダラダラと登り基調が続き、最後は1級山岳フィニッシュとなる第3ステージ。
これで初日から3日連続での1級山岳登場。
本来はその前に平坦ステージが予定されていたとはいえ、1週目から3連続で1級山岳を入れてくる辺り、さすがブエルタと言ったところか。
前日の落車で骨折したマテイ・モホリッチと、ツールでも傷んでいた背中の状態が回復しきっていないピノの2名が出走前にリタイアを発表。
この日の逃げは5人、最大で4分以上のタイム差を容認されるも、向かい風基調の中、残り58kmという早い段階でメイン集団に捕まってしまう。
この後、再びアタックが掛かり新たな逃げが形成されるも、残り9.5kmで吸収され、レースは最後の1級山岳の登坂へ突入する。
1級山岳ではイネオスが積極的な牽引を見せて、先頭にはここまでの2ステージでは早々に遅れていたフルームの姿も。
レースを消化しながら、少しづつコンディションを戻してきている…?
なるか、華麗なる復活。
残り5km地点では、17秒遅れで総合4位のチャベスに痛恨のメカトラ(パンク?)発生。
チームカーが即座に駆け付けられない、そして勝負所を手前にした最悪のタイミングでのストップにより、集団から脱落。
結果的にチャベスはこのステージだけで1分以上のタイムを失う事になり、総合順位も8位まで後退してしまった…。
その後の集団での単発的なアタックはどれも失敗に終わり、気づけばもうゴールまで1kmを切っている。
残り200m、いち早く飛び出したのはアタックが身上のマーティン!
持ち味のパンチ力を活かして厳しい勾配を駆け上がっていく!!
カラパスとログリッチも離されずについていくけれども、マーティンは最後まで脚を緩めずに先頭でフィニッシュ!!
自慢のアタック力でライバルを制し、ダニエル・マーティンがステージ勝利!!
まだ前に逃げている選手がいると勘違いしていて、フィニッシュ後に自身の勝利を知ったというマーティンは、インタビューでは約2年振りの勝利、そして子供が産まれてから初めての勝利という事で、感極まり涙を見せる場面も。
2着にはログリッチ、3着にはカラパスが入り、マーティンも含めてそれぞれボーナスタイムを獲得。
現状ではこの3人が安定して登れていて、後続と少し差が開いてのトップ3という状況に。
第4ステージ
スプリンターの皆さま、大変長らくお待たせしました。
今大会初の平坦ステージでございます。
ということで、カテゴリー山岳無し、集団スプリント間違いなしの第4ステージ。
追い風基調の中でレースはかなり高速化して、この日の平均速度はなんと49.26km/h!
その風を利用して、またしてもモビスターが横風分断を企てるも今回は不発に終わる。
メイン集団は残り15km地点で全ての逃げを吸収し、レースは順調に集団スプリントへと向かっていく。
残り5km辺りから各チーム位置取りが激しくなってきて、ドゥクーニンク・クイックステップ、ボーラ・ハンスグローエ、チーム・サンウェブ、UAEチームエミレーツ辺りが隊列を整えていく。
その中でも、ドゥクーニンクは他と比べて明らかに多くの人数でトレインを組み、今大会最強と目されるサム・ベネットのスプリントに向けて盤石の態勢。
残り300mの直角コーナー、インコースから上手く抜け出したのはUAEのジャスパー・フィリプセン!
コーナーの出口で1人だけ飛び出している事に気が付くと、そのまま早駆けを敢行!!
フィリプセンは後続とのギャップを作る事に成功し、このままフィニッシュまで駆け抜けるかと思ったけれども、ベネットが猛然と差を詰めてくる!!
ベネットは自身のスリップストリームに入ったライバルを引きちぎる程の強烈な加速を見せ、残り25m辺りでフィリプセンも抜き去り、そのままフィニッシュ!!
ツールでマイヨ・ヴェール獲得をしたベネット、ブエルタでも自身が最強だと誇示する見事な勝利!!
もう、ただただ純粋に強かった…!
正直、ドゥクーニンクの最強トレインをフィリプセンが上手く出し抜いたかと思ったけれども、ベネットの地力の高さが全て持って行ってしまった。
ドゥクーニンクのチーム力と合わせて、今ブエルタのスプリントでは頭一つ抜けた存在な気がする。
フィリプセンは本当に惜しかった。
ルイ・オリヴェイラとの連携も見事だったし、上手くハマれば勝てる力はあると証明できたと思う。
今後に期待。
そしてパスカル・アッカーマンはステージ4位と不発。
今ブエルタでベネットに力で対抗できる唯一の存在だと思うんだけど…。
今後が心配。
残りのスプリントステージが盛り上がるかどうかは、この2人を中心としたライバルの走りにかかっているから、頑張ってくれ~!
第5ステージ
2級・3級・2級と3つの山岳が終盤に登場する、かなり逃げ向きな第5ステージ。
やはり逃げたいチームが多いようで、レースは出入りの激しい展開に。
まずはファーストアタックから14人の逃げが形成。
しかし、この逃げにメンバーを乗せ損ねたEFプロサイクリングやカハルラル・セグロスRGA辺りが、この逃げを吸収しようとメイン集団を牽引。
2時間近く(!)もの長時間執拗に追い続け、なんとか逃げを捕まえる事に成功する。
ここからまた激しいアタック合戦となり、今度は12人の逃げを形成。
そしてEFとカハルラルは、結局この新たな逃げにメンバーを送り込めていないという、なんだか物悲しい結果に…。
ただ、この新しい逃げには総合44秒遅れのクスが乗ったため、あまり大きなリードは許してもらえず、メイン集団とのタイム差は1分30秒ほど。
この状況を嫌ってか、逃げ集団からティム・ウェレンスが抜け出し、ここにギヨーム・マルタンとティメン・アレンスマンも合流して3人で先頭集団を形成する事に成功。
一方、置き去りになってしまった9人はしばらくするとメイン集団に吸収されてしまった。
3人の逃げは3分ほどのリードを容認され、そのタイム差を保ったままフィニッシュ近くまで到達し、今大会初の逃げ切り勝利が確定。
パンチャー気味のクライマーであるマルタン、アルデンヌクラシックと逃げに定評のあるウェレンス、そして7月にサンウェブに加入した20歳のアレンスマン。
正直、アレンスマンの情報は全然頭に入っていなかったので、3人逃げになったタイミングで選手名鑑をチェック。
190cm・68kg、でかいな…。
そして2018年のU23版パリ~ルーベ3位、更にはツール・ド・ラヴニール総合2位!?
サイズとパワーがあって、尚且つ登れる選手って事…?
2019年はケガでイマイチだったみたいだけれども、これはかなり期待の若手ではないか?
3人が協調して逃げ続け、レースは最終盤。
残り1kmでアタックしたのはアレンスマン!!
実績のある2人対して積極的に仕掛けるという、若手らしい勢いのある動き、素晴らしい!
しかしここはウェレンスが冷静にチェックし、マルタンも追いついて再び3人に。
そして残り200mの激坂区間で、今度はウェレンスがアタック!!
アレンスマンはすぐに千切れ、マルタンだけが必死に食らいつくもウェレンスは力強く踏み続け、ついにはマルタンも突き放してそのままフィニッシュ!!
今ブエルタで既に2度逃げていたウェレンス、3度目の正直となるステージ勝利!!
ウェレンスは途中の山岳ポイントを全てトップ通過した事で、山岳賞ジャージも獲得!
練習中の事故でツールをスキップしていただけに、嬉しい復活劇となった。
約2分遅れでフィニッシュ手前にやってきたメイン集団では、落車が発生。
総合2位のダニエル・マーティンも巻き込まれてしまうけれども、フィニッシュから3km以内だったので救済措置が適用されてタイム差は付かず、総合勢は動きの無い1日に。
第6ステージ
元々はフランスに突入して1級・超級・超級というとんでもない過酷さになる予定だった第6ステージ。
ただ、コース変更があったとはいえ、1級山岳フィニッシュなので総合勢に動きがありそうな事に変わりはないはず。
冷たい雨の中、ステージ勝利狙いや前待ち狙いといった様々な思惑の入り混じった24人の巨大な逃げ集団が形成される。
途中の3級と2級の山岳はマルタンが先頭通過し、山岳賞に意欲を見せ始めた。
逃げ集団で大きな動きがあったのは2級山岳のダウンヒル。
ゴルカ・イサギレがアタックを仕掛けて独走、下り切った時点で40秒のリードを作る。
もちろん追走集団はゴルカを捕まえるためにペースを上げ、1級山岳の麓ではその差は10秒強にまで縮まってきた。
ゴルカは残り6.6km地点で吸収され、そこからはステージ勝利に向けたアタック合戦の様相に。
そして残り3kmで決定的なアタックを決めたのは、ゴルカの弟、ヨン・イサギレ!
すぐさまマイケル・ウッズ、ルイ・コスタ、ロブ・パワーという強力な追走集団が追いかけるも、ゴルカが逃げていたために集団内で脚を貯めていたヨンのペダリングが強い!
そのまま独走でフィニッシュ地点へ!
ヨンとゴルカ、イサギレ兄弟の見事な連携で掴み取った美しいステージ勝利!!
ヨンはこれで3つのグランツール全てでの勝利を達成した100人目の選手に!
一方メイン集団では、悪天候でいまいち映像から状況が分かりにくい中、なんとログリッチが遅れているとの情報が!?
どうやら、レインウェアのトラブルで後方に下がったタイミングで集団のペースが上がったために遅れてしまったらしい…。
アシストを総動員してなんとか集団に復帰するも、残るアシストはジョージ・ベネット1人のみという状態に。
この隙をついて抜け出したのはカラパス、カーシー、ソレルの3人!
集団に残されたログリッチ、マーティン、マスなどはアシストを使い切っていたため、追走のペースが上がらずにタイム差が開いていく!!
そのままカラパスがログリッチに43秒差をつけてフィニッシュしたため、マイヨ・ロホはカラパスの手に!!
第1週目の最終日、まさかのマイヨ・ロホ逆転劇だった。
既に登れる選手とそうでない選手の明暗がはっきりし始めた、山、山、山だった1週目。
安定して登れているのはログリッチ、カラパス、マーティン、カーシー、マス辺りで、その中でもログリッチとカラパスが少し抜けているような印象。
最終日に少し波乱はあったものの、ユンボが主導権を握る図式は変わらなそうな雰囲気のまま、第2週目へと突入していく…。