2年前の悪夢を乗り越えて
総合争いの実質的な最終日となる第20ステージは、平坦基調の個人TT。
ただ、総合トップ3はまず動きようのないタイム差、総合トップ10もあまり入れ替えが起こらなそうなタイム差がついているため、総合争いよりもステージ勝利に注目も集まる状況でのスタート!
まず良いタイムを出したのは、U23世界選手権個人TT3連覇の実績を持つミッケル・ビョーグ(UAEチームエミレーツ)。
個人的には結構注目している選手の1人で、ツール初出場となった今回、総合リーダーのタデイ・ポガチャルを抱えるUAEの牽引役として目立つ場面も多く、この日の好走(最終的にステージ7位)も含めて期待以上の走りを見せてくれたのはかなり嬉しい。
ビョーグの6人後に出走したのは、今や世界トップクラスのTTスペシャリストとなったシュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・NIPPO)。
第5ステージでは雨に濡れた路面に苦しめられてタイムが伸びなかったけれども、この日は最後まで順調に走り切って、ビョーグを8秒上回り暫定首位に。
最終的にはステージ5位となるタイムで、グランツール初出場ながらしっかりと存在感を残す事に成功したと思う。
1時間以上暫定首位を守っていたビッセガーのタイムを更新したのは、今大会ここまで5勝を挙げているドゥクーニンク・クイックステップの勝利に大きく貢献してきたカスパー・アスグリーン。
ドゥクーニンクの最強トレインの重要な一員であるアスグリーンは流石の独走力を披露して、ビッセガーのタイムを23秒も更新する。
きっと、最終ステージでもその力を遺憾なく発揮してくれるはず。
続いて出走した有力選手は、ヨーロッパチャンピオンジャージを着用するシュテファン・キュング(グルパマFDJ)。
2つの中間計測ではアスグリーンを上回る記録が出て、「さすがはキュング、このまま暫定首位だな」と思っていたら、何と終盤に失速してしまいアスグリーンを上回れず、最終的にステージ4位となるタイムでフィニッシュ。
レース後には「調子も良くてモチベーションも高かったけど、逆に空回りして序盤から踏みすぎてしまった」と語り、残念ながら第5ステージのリベンジとはならず…。
アスグリーンのタイムを脅かす選手がなかなか出てこないまま、残すは総合トップ20。
その中でもこの日の優勝候補の1人、総合19位のワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィスマ)が出走。
序盤から飛ばしすぎて失速したキュングの中間計測を軽々と超える、驚異のスピードを披露!!
ファンアールトのペースは一向に衰えず、終盤にペースを上げていたアスグリーンと遜色のないペースで終盤区間をそのまま走り切り、2位のアスグリーンに21秒の大差を付けてのステージ優勝!!
異次元の脚質を持つファンアールト、第11ステージでの山岳逃げ切りに続く今大会ステージ2勝目!!
いやいやいや、おかしいおかしい。
2019年と2020年はスプリントで勝利、そして2021年はモン・ヴァントゥを2回登る難関山岳ステージでの逃げ切りと、平坦な個人TTでの勝利。
改めて文字に起こしてみると、異様すぎるリザルト…。
というか、最終ステージのスプリントで勝つ可能性も残っているのか…。
1大会中に山岳・個人TT・平坦スプリントでの勝利とか…可能性があるだけでも恐ろしすぎる…。
マジで脚質ファンアールトとしか表現できない万能性だよ…。
その辺りは一旦置いておくとして、ファンアールトにとってツールの個人TTでの勝利というのは、「2年前の悪夢を払拭する」という大きな意味があるはず。
優勝候補として出走した2019年ツール第13ステージ、コーナーで柵の突起部に太腿を引っ掛けてしまい、選手生命も危ぶまれるような大ケガを負ったショッキングなシーンは、悪い意味で未だに目に焼き付いている。
もちろん、ファンアールトの脳裏にも未だに残っているとは思う。
そこから復帰して、以前と同じような(もしかしたらそれ以上の?)走りを見せてくれていたけれども、この日の勝利はファンアールトにとって大きな意味がありそうだ。
おめでとう、ファンアールト。
あの日のケガはもう君にとって過去の話かもしれないけれども、改めて祝福したい。
無事に帰ってきてくれて、本当に嬉しいよ。
そして、今後もその計り知れないポテンシャルで、きっとまた驚くようなレースを見せてくれる事を期待しているよ。
そして総合トップ10は…意外と言うべきか予想通りと言うべきか、総合順位に変動はないまま終了。
総合5位のウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグローエ)はベン・オコーナー(AG2Rシトロエン)を抜く可能性もそれなりにあると思っていたけれども、ケルデルマンが思ったほど伸びないと同時に、オコーナーがかなり頑張った!
総合3位のリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)はステージ23位と、まあ特別良くも悪くなく、しっかりと表彰台圏内をキープ。
やっぱりTTでこのぐらいの走りはできるポテンシャルがあるから、またグランツールで総合優勝を狙える機会は充分にありそうだ。
総合2位のヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ)は、第5ステージと同じくステージ3位というかなりの好タイムをマーク!
元々はプリモシュ・ログリッチのアシストとしてメンバー入りをしていたにも関わらず、山岳では総合首位のポガチャルに次ぐ(というか山岳で唯一ポガチャルを突き放す瞬間があるぐらいの)強さを見せ、そして個人TTでも安定してステージ上位と、完全に総合系としてトップクラスのポテンシャルを披露!
これはまた恐ろしい若手が出てきたな…。
「新時代」の担い手の1人として、これからが本当に楽しみだ!!
そして総合リーダーの証である黄色のスキンスーツを身に纏ったポガチャルは、コーナーではリスクを取らない「安全走行」をしつつ、最後はガッツポーズをする余裕も見せながらステージ8位でフィニッシュ!!
これで、ポガチャルのツール・ド・フランス2連覇が実質確定!!
昨年のツールで奇跡の大逆転を演じたニューヒーローは、今年は最強の王者としてパリに辿り着く。
シャンゼリゼでどんな姿を見せてくれるのか、そしてどんな言葉を残してくれるのか、しっかりと見届けたい。