進化を続けるドイツのオールラウンダー
選手名:マクシミリアン・シャフマン(Maximilian Schachmann)
所属チーム:ボーラ・ハンスグローエ
国籍:ドイツ
生年月日:1994年1月9日
脚質:オールラウンダー
主な戦歴
ステージ1勝(2018)
・パリ~ニース
総合優勝(2020、2021)、ステージ1勝(2020)
・イツリア・バスクカントリー
ステージ通算3勝(2019 × 3)、ポイント賞(2019)
・ヴォルタ・ア・カタルーニャ
ステージ通算2勝(2018、2019)
・ドイツ国内選手権
優勝(2019、2021)、3位(2023)
・ドイツ国内選手権 個人タイムトライアル
3位(20239
3位(2019)
・ストラーデ・ビアンケ
3位(2020)
・アムステル・ゴールドレース
3位(2021)
どんな選手?
厳しい展開を耐え抜くタフさと、登坂力・タイムトライアル能力・パンチ力を併せ持つ多彩さを武器に、様々な局面で活躍を見せるドイツ人オールラウンダー。
アンダーカテゴリー時代はタイムトライアル能力で光る部分を見せ、世界選手権U23個人タイムトライアルでは2014年に5位、そして2015年と2016年は2年連続の2位と、継続的に結果を残して評価を高める。
2017年、クイックステップ・フロアーズ(現ドゥクーニンク・クイックステップ)と契約してプロデビュー。
ワールドツアー初年度ながら、ツール・ド・ロマンディのプロローグで4位、ツアー・オブ・カリフォルニアの個人タイムトライアルでステージ6位と、やはりそのタイムトライアル能力はトップカテゴリーでも充分に通用する事を証明して見せる。
2018年、3月のヴォルタ・ア・カタルーニャでは、持ち前の独走力を活かして逃げ切りによるワールドツアー初勝利。
そして5月、ジロ・デ・イタリアに出場したシャフマンは、グランツール(3大ステージレース)初挑戦ながら躍動する。
まずは第1ステージ、得意のタイムトライアルでステージ8位の好走を見せてヤングライダー争いの首位に立ち、ヤングライダージャージを第6ステージまでキープ。
そして第18ステージ、山頂フィニッシュの厳しいレイアウトのこの日、逃げに乗ったシャフマンはなんとそのままステージ勝利を挙げる。
山岳の登坂も水準以上にこなした事で、その才能がタイムトライアルや独走に偏ったものではなく、オールラウンダーとしての可能性を感じさせる勝利だった。
2019年、シャフマンは地元ドイツのボーラ・ハンスグローエに移籍。
前年同様にヴォルタ・ア・カタルーニャでステージ1勝を挙げたシャフマンは、4月のイツリア・バスクカントリーではなんとステージ3勝を挙げ、更にはポイント賞も獲得と大爆発。
バスクカントリーでの3勝の内訳は、個人タイムトライアル、登りスプリント、そして抜け出しからの小集団スプリントと、今まで以上にその才能の幅の広さを証明するものだった。
絶好調状態のシャフマンは、バスクカントリーの翌週から始まるアルデンヌ・クラシック3連戦に出走。
勢いそのままに、アムステル・ゴールドレースとフレッシュ・ワロンヌで5位、そしてモニュメント(5大ワンデーレース)の一つであるリエージュ~バストーニュ~リエージュでは3位に入り表彰台に登壇と、安定した強さを披露。
ワンデーレースも狙える才能があると、またしても新たな境地を開いて見せた。
更に6月にはドイツ国内選手権も制したシャフマンは、満を持してツール・ド・フランスに初出場。
しかしこのツールでは、勝利も期待された個人タイムトライアルステージでまさかの落車により骨折。
結果を残せぬまま、無念のリタイアとなってしまった。
2020年、シャフマンは例年のスケジューリングと違い、3月のパリ~ニースに初出場。
第1ステージで小集団スプリントを制してリーダージャージを獲得すると、第4ステージの個人タイムトライアルでもステージ2位の好走を見せ、リードを拡大する。
そして山頂フィニッシュの第7ステージ(新型コロナウィルスの影響で第8ステージがキャンセルとなり、この日が最終日)、並み居る一流クライマーと渡り合ってリードをしっかり守り切り、見事に総合優勝を飾った。
タイムトライアル能力・登坂力・パンチ力が揃ったその多彩さ、そして厳しい展開を耐え抜くタフさは、ステージレースの総合争いでも存分に活かされる、つまりシャフマンには総合系の選手として活躍できる可能性が充分あると、改めて証明して見せた。
新型コロナウィルスの影響による中断期間を経て、シャフマンは再開後最初のワールドツアーとなったストラーデ・ビアンケに出場して3位入賞と、相変わらず好調な走りを披露。
しかし、続いて出場したイル・ロンバルディアの最終盤、予想もしていなかったアクシデントがシャフマンを襲う。
なんと、コースに誤って侵入してきた一般車両と接触してしまい、鎖骨を骨折してしまったのだ。
当初、2週間後に迫っているツール出場は絶望的とも思われていたが、ここさらシャフマンは驚異的な回復を見せ、まさかのツール出場メンバー入りが決定。
しかも、第2ステージでステージ9位と順調すぎる走りを見せるだけでなく、第7ステージでは横風分断作戦で強烈な牽引を見せ、更に第13ステージではステージ勝利を争ってのステージ3位と、とても開幕2週間前に骨折したとは思えないようなパフォーマンスを披露。
その回復力とタフさは、本当に驚愕であった。
2021年、まずは前年と同様にパリ~ニースに出場。
圧倒的な完成度を誇るプリモシュ・ログリッチ(チーム・ユンボ・ヴィスマ)の前に、シャフマンは52秒遅れの総合2位で最終日の第8ステージを迎える事に。
そして最終第8ステージは、誰もが予期せぬ展開になる。
なんと、「総合優勝ほぼ間違いなし」という状況だったログリッチが、2度の落車により大きく遅れてしまったのだ。
突然暫定首位に躍り出たシャフマンは、逆転を狙ってくるアレクサンドル・ウラソフとヨン・イサギレというアスタナ・プレミアテックの強力なタッグを相手取り、持ち前のタフさで奮闘。
波状攻撃を何とか凌ぎ切り、見事にパリ~ニース総合2連覇を成し遂げて見せた。
「圧倒的だったログリッチが落車によって総合争いから脱落する」というショッキングな出来事が起こったせいであまり語られなかったが、相変わらず個人タイムトライアルでも登坂でもいい位置につけていたシャフマンの強さとその安定感、そしてパリ~ニース総合2連覇と言う見事なリザルトは高く評価されるべきだろう。
その後も、アムステル・ゴールドレースで3位、ツール・ド・スイスで総合4位、そしてドイツ国内選手権で2年ぶりの優勝と、相変わらず安定した成績を残していたシャフマンは、唯一出場経験のなかったグランツールであるブエルタ・ア・エスパーニャに出場。
総合優勝争いも期待されての出場だったが、残念ながら落車の影響で途中リタイアとなり、グランツールの総合争いは来シーズン以降へと持ち越しとなった。
キャリアを重ねるごとに新たな才能を見せ、そして結果を残していっているシャフマン。
彼の強さの本質は、成長を続けていくその向上心と、勝利への執着から来る異常なまでのタフさであるようにも思える。
そして、年齢的には2021年シーズン終了時で27歳と、これから選手として最も脂の乗った時期を迎える事になる。
現時点でもタイムトライアル能力と登坂力とパンチ力をバランスよく備えた一流のオールラウンダーなのは間違いないが、きっとここからがシャフマンの全盛期になるのだろう。
モニュメントなどのワンデーレースのビッグタイトルを狙ってもいいし、グランツールの総合争いにだって参戦できるはずだ。
進化を続けるその才能がどのような結果を残していくのか、楽しみにしていたい。
※2023年1月12日追記
シーズンイン前に新型コロナウィルスに感染してしまったシャフマンは、2連覇中のパリ~ニースで2022年シーズンをスタート。
ただ、第3ステージ終了後に感染症のために途中リタイアをすると、そこからコンディションを回復させるのに時間が掛かり、春のクラシックは全休となってしまう。
6月、ツール前哨戦のツール・ド・スイスではトップ10フィニッシュが3度と調整が順調なことを伺わせたシャフマンだったが、ディングチャンピオンとして臨む予定だったドイツ国内選手権は直前のPCR検査で偽陽性判定が出てしまい未出走と言う憂き目に。
直後のツールには予定通り出場できたが、残念ながら調子は上がらず、特に見せ場のないままツールを終える事となった。
ツール後もコンディションが上がらなかったシャフマンは、慢性疲労症候群との診断を受けて、2022年シーズンは早期に切り上げて、2023年に備えると発表。
シーズンインの前から新型コロナウィルスなどに振り回され、そこから無理にレースに間に合わせようとした影響もあったのかもしれない。
そんな状況下でも、ツール・ド・スイスでは上位フィニッシュを連発したように、2023年もコンディションさえ整えばまたしっかりと戦えるだろう。
不可抗力で不完全燃焼だった2022年のもやもやを吹き飛ばすような活躍を期待したい。
※2023年12月15日追記
2023年のシャフマンは、コンディション不良に苦しんだ前年と同様に、シーズン序盤はなかなか調子が上がらない。
それでも6月に入ると、ドイツ国内選手権でロードレースと個人タイムトライアルの両方で3位入賞と言う結果を残し、復調をアピール。
7月にはシビウ・サイクリング・ツアーでステージ1勝と、ここから更に調子を上げていくのかと期待感を抱かせてくれた。
しかし、残念ながらそこからは結果を残せず、年間1勝、そしてグランツールへの出場は無しと、非常に寂しい数字でシーズン終了を迎えてしまった。
一時的にコンディションが上向いた夏場はそれなりの結果を残せただけに、前年に続いて活躍できたシーンがごく限られたレースのみだったのは、非常にもどかしいものだった。
コンディションさえしっかり戻れば、グランツールを筆頭としたステージレースでも、アルデンヌクラシックを中心としたワンデーレースでも、活躍するだけの力は備わっているはずだ。
2024年こそは、万全の状態で活躍するシャフマンの姿が見たい。