サウジ・ツアー、衝撃的なJ SPORTS初登場
J SPORTSで中継される今シーズン最初のレースは、1クラスのステージレースであるサウジ・ツアー。
全5ステージを通して本格的な登りは登場せず、集団スプリントが予想されるステージが3つあるということで、1クラスのレースながら以下の通りかなり有力なスプリンターが集結。
- カレブ・ユアン(ロット・スーダル)
- フェルナンド・ガビリア(UAEチーム・エミレーツ)
- ディラン・フルーネウェーヘン(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
- ダヴィデ・バッレリーニ(クイックステップ・アルファヴィニル)
- ダニー・ファンポッペル(ボーラ・ハンスグローエ)
- アルベルト・ダイネーゼ(チームDSM)
大迫力の集団スプリントに期待しつつ、パンチャー向けのように見えるステージで彼らがどれだけ生き残れるのかも気になるところ。
第1ステージ
終盤に未舗装路区間が登場する以外は、どう考えても集団スプリントになるフラットなステージ。
この日は、現地の中継映像がフィニッシュ手前300mまで届かないという、なかなかのトラブルが発生。
なんと、「中継映像を飛ばすための飛行機の飛行許可を取っていなかったらしい」というとんでもない情報が翌日になって判明…。
結局、翌日の第2ステージ中継開始時に、長めのハイライト映像を流す格好に。
逃げが吸収された後、注目だった未舗装路区間に突入。
あまり荒れた様子ではなく、整った硬い砂地ぐらいの感じに見えたけど、「車道を区画する石(なんじゃそりゃ…)」と接触した事でアンドレア・バジョーリ(クイックステップ)が転倒、4人程を巻き込んでの落車となってしまう。
未舗装路区間が終了すると、いくつかの飛び出しがあったけれども、集団はそれを問題なく吸収して、いよいよスプリントの流れに。
直角コーナーが連続する中、主導権を握るのはボーラとアルペシン・フェニックスの選手。
残り1kmを切ると、両サイドからバイクエクスチェンジとクイックステップ、少し遅れてロットのトレインも上がってくる。
残り300mの最終コーナーを抜けると、先頭を争うのはボーラとロットの2チーム。
千切れてしまったボーラのトレインに対して、ロットはジャスパー・デブイストの見事なリードアウトから、満を持してユアンが発射!
残り100mから最高の形で飛び出した世界最強のスプリンターを止められる選手なんか、いる訳が無い!!
例年以上にチームの連携が光ったロット、今年はより一層ユアンの強さが輝きそうだ!
第2ステージ
平坦基調から、ラスト2kmで約200m登るフィニッシュとなる、恐らくパンチャー向けのステージ。
個人的にはバジョーリ辺りが向いているレイアウトだと思うけれども、前日の落車の状態が心配なところ…。
あとは、ここ数年明確に登坂力が向上しているユアンが生き残ったりしたら面白いけれども、果たしてどうだろうか。
3人の逃げは残り20kmを過ぎると徐々に人数を減らしてからメイン集団に吸収され、更にまた飛び出しの動きをする選手もいたけれども、結局はメイン集団に飲み込まれていく。
ロット、バーレーン・ヴィクトリアス、ウノエックス・サイクリングチーム辺りが激しく位置取り争いをしながら、残り2kmを切っていよいよ勝負所の登坂に突入。
結構厳しい傾斜(見た感じ、最大勾配10%以上なのは確実)でドンドン選手が脱落していく中、残り1.1kmからサンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン)が果敢にアタックを仕掛ける!
この動きに即座に反応したのは、意外にもダニエル・オス(トタルエナジーズ)。
そして、まだまだ人数を減らし続けるメイン集団から勢いよく飛び出したのは、落車の影響で腕に包帯を巻いているバジョーリ!
バジョーリは一気にブイトラゴとオスに追いつき、そのまま更に加速していく!
ブイトラゴはバジョーリの背中に付いていくけれども、オスはここで脱落。
メイン集団はロットがユアンを残らせるギリギリのペーシングをしているので、先頭の2人との差はみるみる広がっていく!
残り500mを切って勾配が緩むんでも状況は変わらず、勝負は先頭の2人に絞られる格好に。
バジョーリはブイトラゴに先頭交代を要求する姿を見せるけれども、ブイトラゴはなかなか前に出ない。
残り300m、バジョーリの背中に潜んでいたブイトラゴがスプリントを開始!
バジョーリは追いついてから牽き続けた疲労か、それとも前日の落車の影響か、定評のある筈のパンチ力を発揮できない…!
残り100m、勢いを失わないブイトラゴに対して、遂にバジョーリは諦めた!
積極性と強さを見せたブイトラゴ、これが嬉しいプロ初勝利!!
急勾配区間で抜け出す登坂力、そしてあのバジョーリを突き放す力強さ!
コロンビア期待の若手は、もしかしたらかなりのポテンシャルを秘めているかも?
果たして、このまま総合首位の座を守れるか。
第3ステージ
レイアウト的にはかなり緩い、集団スプリント間違い無しなステージ。
そんな訳で「平穏」な道中になると思いきや、中継開始前からとんでもない強風が吹いているとの情報が…。
途中で大規模な横風分断もあったらしいけれども、メイン集団はなんとか一つに纏まった模様。
そんな状況下で、果敢に逃げるのはアントニー・テュルジス(コフィディス)。
強烈な向かい風を一身に受けて、20km/h(!?)という平坦とは思えないスピードになったりしながら、孤独な戦いを続けるテュルジス。
レース後には「今後に向けて頑張った」とコメント…つまり、トレーニングの一環として強風の中の逃げを選択したという事か。
テュルジスの逃げも残り14km辺りで吸収され、そこからクイックステップが再度横風分断を仕掛けようと試みるも不発に終わり、レースはフィニッシュのスプリントへ突入。
残り2km、コーナーを上手く利用してクイックステップのトレインが最前列へ。
ただ、バイクエクスチェンジやロットのトレインもそのすぐ後方でかなり良い形をキープ。
残り1.5km、クイックステップは少し連携が上手くいかず、その隙に横から上がってきたボーラ、そしてバイクエクスチェンジとロットが横並びで先頭に。
ラウンドアバウトでの折り返しを経て、バーレーンがスルスルっと先頭の奪取に成功するけれども、ちょっとアシストの枚数が少ない。
バーレーンが失速すると、入れ替わりのような形で上がってきたのはマキシミリアーノ・リケーゼとフェルナンド・ガビリアによるUAEの隊列。
ただ、リケーゼが思ったよりも早く力尽きた事でガビリアは丸裸となってしまい、タイミングを逸する格好に。
失速するガビリアを横目に、バイクエクスチェンジはルカ・メスゲッツがフルーネウェーヘンを引き上げて、最高のタイミングでフルーネウェーヘンがスプリントを開始!
後方からは位置取りが悪かった筈のユアンが猛烈な勢いで突っ込んでくるも、時すでに遅し…!
フルーネウェーヘン、移籍後初勝利はチーム名をアピールしながらの快勝!
バイクエクスチェンジとしても、チーム力が光っての今シーズン初勝利!
フルーネウェーヘンは2020年のあの事故から色々とあったけれども、やはり彼ほどの実力者がレースにしっかりと戻ってきてくれた事は、純粋に嬉しい。
あの出来事を「無かった事」には出来ないけれども、長期の謹慎期間を終えたのだからある意味「終わった事」だと、個人的には思う。
色々と思うところがあるファン(特にクイックステップのファン)の方もいるだろうけれども、自分は純粋にこの素晴らしい勝利を祝福したい。
「ツールで勝利を挙げられる存在」として、必要とされて新天地バイクエクスチェンジへと移籍したフルーネウェーヘン。
これから彼がその実力を遺憾なく発揮して、ロードレース界を盛り上げる一端を担ってくれる事を期待したい。
第4ステージ
フィニッシュ手前8.6km地点に平均勾配12%・最大勾配18.8%というとんでもない激坂が登場する、今大会のクイーンステージ。
登坂距離は2.8kmと短いけれども、流石にスプリンターには厳しすぎるので、パンチャーやクライマーがステージ優勝を、更には総合優勝も狙うか。
残り57km辺りから中継が始まり、画面に流れてくるのは集団が3つに分断している様子。
エシェロンが組まれているし、横風分断だ。
20人程の先頭集団に、クイックステップの選手が5人。
ウルフパック、やりやがったな…。
ステージ優勝争いがかなり絞られただけでなく、総合リーダーのブイトラゴは第2集団に取り残されたので、総合優勝の行方まで分からなくなってきたぞ。
第2集団と第3集団が合流はしたけれども、先頭集団との差は1分以上開いたまま、問題の登りに突入。
クイックステップはアシストをガンガン消費しながらハイペースを刻み、集団はどんどん小さくなっていく。
山頂まで残り1.7km、ここまでレースを作ってきたクイックステップのバジョーリが加速!
バジョーリは第1ステージでの落車でタイムを失っていて総合優勝は不可能だけれども、今大会ここまで0勝のチームとしては是が非でも勝利が欲しいところ。
このバジョーリのアタックをマキシム・ファンヒルス(ロット)とメスゲッツが追いかけ、ファンヒルスのみが追いつく事に成功。
総合5位(17秒遅れ)のファンヒルスは、もしバジョーリに勝てなくても総合優勝の可能性がかなり高まってきた。
山頂まで残り600m、仕掛けたのはファンヒルス!
ダンシングでペースを上げてバジョーリを突き放し、そのまま単独で山頂を通過!
フィニッシュまでは若干の下り基調で8.6km、バジョーリとのタイム差は…約30秒!
バジョーリは疲労困憊なのかペースが上がらずに後続の選手に追いつかれ、更にその集団もイマイチ協調が出来ていない。
対するファンヒルスの踏みは…最後まで勢いを失わない!
見事な独走勝利を挙げたファンヒルス、一気に総合首位に浮上!!
横風分断を生き残り、バジョーリに力勝ち、そして鮮やかな独走と、素晴らしい内容だった!
最終日は平坦ステージなので、トラブルが無ければ総合優勝もほぼ確定だ。
第5ステージ
前日に猛威を振るった風も収まり、集団スプリント間違いなしという状況の最終ステージ。
総合リーダーを抱え、更にはユアンでのステージ勝利も狙うロットがメイン集団をコントロールして、先頭で逃げる4人をコントロール。
逃げも残り2人となっていた残り19km地点、先頭からヤニック・シュタイムレ(クイックステップ)が加速!
シュタイムレは残り10kmのボーナスタイムポイントまで粘り、メイン集団に控えるチームメイトの消耗を抑える役割をしっかりと果たしてから吸収される。
「さあ、ここからクイックステップのコントロールが開始される」と思っていたら、なんとクイックステップはティム・デクレルク(52秒遅れの総合4位)によるアタックという、予想外の奇襲を仕掛ける!
普段は牽引役に徹しているデクレルクのまさかの動きに、TwitterのTLも大盛り上がり!
流石にボーラやバイクエクスチェンジの選手がすぐさま捕まえたけれども、こういった先の読めない展開は見ていて面白い。
ただその後、荒れた展開を嫌ったのか、バーレーンの選手達が比較的落ち着いたペースでの牽引を行い、レースは当初の予想通り集団スプリントへと向かっていく。
残り3kmを切り、各チームがトレインを組んで位置取り争いを繰り広げる中、なんとここでユアンがパンク。
この位置でのパンクはどうしようもない…。
最後のUターンとなるラウンドアバウトを抜けて残り1km、先頭はクイックステップのトレイン。
横から上がってきて先頭を奪うのはボーラ、そしてその動きに合わせてバイクエクスチェンジもいい位置に上がってくる!
人数を揃えたUAEが外から被せてきたけれども、連携が上手くいかずにトレインが崩れてしまう。
残り300m、ボーラが先頭、その後ろにクイックステップとバイクエクスチェンジとUAEが横並び、アシストは残り1枚ずつ!
真っ先に飛び出したのは先頭をキープしていたボーラのファンポッペル、しかしその背中にはフルーネウェーヘンが張り付いている!
バッレリーニはフルーネウェーヘンの後ろ、ガビリアはフェンス際で飛び出すためのスペースが無くなっている!
最終コーナーを抜けてフルーネウェーヘンが先頭へ!!
そのパワフルなスプリントはライバルの追随を許さない!!
フルーネウェーヘン、今大会2勝目となる完勝!!
いや~、やっぱり強い!
ファンポッペルやバッレリーニとはそもそもの出力が違う、これぞピュアスプリンターと言う走り!
第3ステージに続いてチームメイトとの連携も素晴らしく、これは今シーズン期待できそうだ!
色々とあったけど楽しめた
ひとまず、結果の振り返りから。
- 総合優勝:マクシム・ファンヒルス(ロット・スーダル)
- 第1ステージ優勝:カレブ・ユアン(ロット・スーダル)
- 第2ステージ優勝:サンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス)
- 第3ステージ優勝:ディラン・フルーネウェーヘン(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
- 第4ステージ優勝:マクシム・ファンヒルス(ロット・スーダル)
- 第5ステージ優勝:ディラン・フルーネウェーヘン(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
クイーンステージを制したファンヒルスが、そのまま総合優勝!
ロットはユアンでのステージ1勝と合わせて、上々の結果に!
昨シーズンはチームとして低迷してしまい、「今シーズン次第ではプロチームへの降格も…」なんて話が出ていたので、調子が良さそうなのは朗報だ。
バイクエクスチェンジへと移籍したフルーネウェーヘンは、今シーズン最初のレースで早くもチームにフィットして、見事にステージ2勝!
色々とあったけれども、実力者がしっかりと結果を出せる状態に戻ってくれて何よりだ!
1クラスのレースながらJ SPORTSでの中継となったサウジ・ツアー、レースはとても熱かった!
実力者が集まったスプリントに、見どころとなる激坂クイーンステージと、普通に面白かったと思う。
ただ、それだけに序盤の中継トラブルが残念でもあるかな。
自分も含めて、恐らく多くの人があの「中継が来ない時間」をある種楽しんではいたけれども、やはりそれは少し変な話な訳で…。
本来提供される筈だった「サウジアラビアならではの唯一無二の景色を進む選手の姿」が損なわれたのは、間違いなく残念な事だった。
ましてや、サウジアラビアが観光誘致に力を入れていると言うのなら、尚更だ。
アピールの機会を失い、更には「オーガナイズに不安がある」という面を見せてしまったのは、マイナスでしかないよね。
現地の担当者たち、せっかくいいレースだったんだから、次回はもう少し頑張ってよ!(ここに日本語で書いても意味ないのか…?)
それでは、また!