10度のトップ10入りを越えて
2週目の最終日は、一応平坦カテゴリーながら2つの3級山岳が登場するだけでなく、細かいアップダウンが続くレイアウト。
集団スプリントになるかは、確定とは言えなさそうな…。
スタート前、第5ステージで落車をしていたプリモシュ・ログリッチ(チーム・ユンボ・ヴィスマ)がリタイアするという情報が入ってくる。
ケガのダメージがありながらもレースを続け、そして第11ステージでヨナス・ヴィンゲゴーの総合首位浮上に大きく貢献したその走りは、本当に素晴らしかった。
リタイアは残念だけれども、しっかり回復させてまた元気な姿を見せて欲しい。
35℃を越えるというとんでもない暑さの中、逃げようと飛び出したのはニルス・ポリッツ(ボーラ・ハンスグローエ)、ミケルフレーリク・ホノレ(クイックステップ・アルファヴィニル)、そして…ワウト・ファンアールト(ユンボ)!?
「グリーンジャージが何やってるの…」と思っていたら、しばらくするとファンアールトはメイン集団に戻る事を選択。
何だったんだ、一体…。
とにかく、ポリッツとホノレという2人の逃げ、そしてそれを2分強のタイム差で追いかけるメイン集団と言う、とても平坦ステージらしい展開でレースは進んでいく事に。
残り64km、メイン集団で落車が発生。
立ち上がれないで座り込んでいるのは…ユンボの重要な山岳アシストの1人であるステフェン・クライスヴァイクだ…。
クライスヴァイクは鎖骨を骨折してしまったようで、そのまま救急車で搬送されてリタイアとなってしまう。
これは、ユンボにとっては痛手すぎる…。
続いて、残り58km辺りでまたしてもユンボに受難が襲い掛かる。
なんとマイヨジョーヌを着るヴィンゲゴーが落車に巻き込まれている…!?
幸い、ヴィンゲゴーはすぐさまレースに復帰、地面に投げ出されていたティシュ・ベノートも大事には至らなかったようで、そのままレースを続行する事が出来た。
しかし、ユンボとしては、ログリッチに続いてクライスヴァイクを失ったのは、悲願の総合優勝に向けて、大きな不安要素だ…。
残り53km辺りから始まるこの日2つ目の3級山岳で、逃げていた2人は吸収。
トレック・セガフレードがピュアスプリンターを排除しようと集団を牽引してペースを上げると、既に遅れていたファビオ・ヤコブセン(クイックステップ)の他に、カレブ・ユアン(ロット・スーダル)やディラン・フルーネウェーヘン(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)も脱落してしまう。
そんな中、山頂付近で飛び出したのはバンジャマン・トマ(コフィディス)とアレクシー・グジャール(B&Bホテルス KTM)。
2人はこのまま新たな逃げ集団として、メイン集団から先行する事に。
残り5kmを切ると、トマがグジャールを突き放して独走を開始。
地元出身でコースを知り尽くすトマと、追いかけるメイン集団のタイム差は約10秒。
フランス個人タイムトライアル王者に2度輝いたトマの独走力、そしてアシストを減らしているメイン集団だと、まさかの逃げ切りも…?
残り1km、タイム差は僅か3秒、そして緩い登り勾配にトマの顔が歪む…!
残り450mで遂にトマが吸収、メイン集団はもう全力でのスプリント直前の状態だ!
残り300mの緩いコーナーを抜けて、先頭はジャスパー・ストゥイヴェンのリードアウトから発射されたマッズ・ピーダスン!
インからポジションを上げて来たのはジャスパー・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)、そしてアウトから追い込みを見せるのはファンアールト!!
ピーダスンは若干失速、フィリプセンとファンアールトが両サイドから前へと抜けてくる!!
見事な伸びで勝利を掴んだのは…フィリプセン!!
フィリプセン、遂に悲願達成となるツールでのステージ勝利!!
昨年、ステージ2位が3回、3位も3回と、スプリントで常に上位には絡み続けながら勝利を挙げられず、最終第21ステージも2位となった際には、涙も見せていたフィリプセン。
今大会も、ここまでトップ10フィニッシュが4回と、相変わらず安定感は見せながら、あと一歩のところで勝利には届かないでいた。
2年に渡る10度ものトップ10フィニッシュを経て、やっと掴んだツールでの勝利。
これで、ただの強い選手ではなくなった。
フィリプセンはツールで勝ったスプリンターになったのだ。
自転車大国ベルギーの未来を背負う24歳、これからが本当に楽しみで仕方がない。