王者はまた伝説を遺す
イタリアはトスカーナ地方で開催される美しも険しいレース、「白い道」ストラーデ・ビアンケ。
その名の由来となっている11か所登場する「セクター」と呼ばれる未舗装路、その長さは実にコース全長の1/3を占め、そして絶え間なくアップダウンを繰り返すレイアウトの総獲得標高は3000m以上。
否が応にもドラマティックな展開を生み出す事になる魅力的なこのレース、今回の有力選手は大体こんな感じ。
- 2019年の優勝者、世界王者ジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファヴィニル)
- ツール・ド・フランス2連覇、絶対的王者タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)
- 2018年の優勝者、新チームに早くもフィットしているティシュ・ベノート(チーム・ユンボ・ヴィスマ)
- 2017年3位、今シーズン既に2勝と好調のティム・ウェレンス(ロット・スーダル)
- 過去に2位が2回、抜群の経験値を誇るグレッグ・ファンアーベルマート(AG2Rシトロエン)
- 移籍で心機一転、悪路も登りも強いジャンニ・モスコン(アスタナ・カザクスタン・チーム)
良いメンバーなんだけれども、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)、ワウト・ファンアールト(ユンボ)、トム・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)のシクロクロス三銃士が不出場なのは少し寂しいかな…。
そんな中、自分の予想がこちら。
ストラーデ・ビアンケ予想
— kiwa (@kiwa2408) March 5, 2022
本命:アラフィリップ
対抗:ポガチャル
穴:べノート
大穴:コーヴィ
ちょっと無難すぎ?
かと言って、バルベルデやフルサンやGVA辺りが勝つ姿もイメージできないというのが本音#jspocycle #StradeBianche
アラフィリップとポガチャルという今大会の「2強」を無難に選出。
どちらを本命にするかは迷ったけれども、ポガチャルにはアラフィリップとやり合う適切な仕掛け所が無い気がした。
激熱な最終局面だった女子レースが終わり、いよいよ男子の中継もスタート!
中継開始直後、画面に映し出されたのはアラフィリップを含む大人数の選手が落車する、ちょっとショッキングな映像…。
どうやら、強風の影響らしい。
宙に舞って一回転したアラフィリップは上手く受け身が取れたようでレースに戻れたけれども、ベノート、マイケル・マシューズ(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)、マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)という有力選手は残念ながらここでリタイア。
毎回言っているけれども、落車は見たくないね…。
この落車で一旦分裂したメイン集団は、20km以上の追走を経て、なんとかまた一つに戻る。
残り55kmから始まる第8セクター「モンテ・サンテ・マリエ」で、早速レースは動き出す。
まず、逃げていた選手はモンテ・サンテ・マリエ突入直後に全て吸収。
その直後、アラフィリップが先頭に出てペースを上げ、集団の絞り込みに掛かる。
残り51km、そのアラフィリップの動きに呼応するように、ポガチャルが先頭に出て加速!
抜け出すまでには至らないも、メイン集団は早くもバラバラになりかけている。
一旦踏み辞めたポガチャルだったけれども、この積極的な王者は攻撃の手を緩めるつもりは無かった。
残り50.3km、ポガチャルは下り区間で再度アタック!
そのままテクニカルな下りを攻めて、単独での抜け出しに成功!!
ポガチャルはその後のアップダウンで、集団との差を徐々に広げていく!
カルロス・ロドリゲス(イネオス)が単独で追走を試みるけれども、ポガチャルのペースが速く、あまり追いつける雰囲気ではない。
…と言うか、え?
ポガチャルはこのまま「行く」つもりなのか…!
まさかの50km独走という作戦!?
冒頭の予想で「適切な仕掛け所が無い気が」とか言っちゃったけど、こんなの予想出来る訳無いでしょ…。
ポガチャルはアタックから10kmも走らない内に、メイン集団とのタイム差を1分以上にまで拡大!
これは…そのまま行きかねないぞ…。
その頃集団では、アラフィリップが自ら牽く場面も。
やはり落車の影響があって、勝負ができないという事でエース交代か。
ポガチャルはその後も1分以上のリードをキープしながら、着実に残り距離を減らしていく。
後方では、残り23kmから始まるセクター9「モンテアペルティ」の直前で、単独追走を続けていたロドリゲスがメイン集団に吸収される。
モンテアペルティでカスパー・アスグリーン(クイックステップ)やクイン・シモンズ(トレック・セガフレード)がペースを上げると、アラフィリップはやはり脱落。
この動きで集団から抜け出したのは、アスグリーン、シモンズ、アレハンドロ・バルベルデ(モビスター・チーム)、ウェレンス、ヨナタン・ナルバエス(イネオス)の5人。
先頭のポガチャルまでのタイム差は1分弱、残り距離は約20km。
協調してペースを上げられれば追いつく可能性もありそうだけれども…?
残り19kmからの第10セクター「ピンズート」で、ウェレンスのアタックに対するカウンターからアスグリーンが抜け出しに成功。
タイムトライアル巧者のアスグリーンだけれども、ポガチャルとのタイム差は未だに1分あるので、アタック合戦や抜け出しではなく、協調して行かないと…。
残り13kmからの第11セクター「レ・トルフェ」ではバルベルデが抜け出して、アスグリーンと合流。
2人でポガチャルを追うけれども…タイム差はほぼ動かない。
そして…先頭をひた走るポガチャル、その踏みは衰えているようには見えない。
これは流石に、トラブルが無い限り逃げ切りで確定だ。
50km地点からの一人旅という「挑戦」を選んだ王者ポガチャルは、美しい旧シエナ市街地へ、無事に単独で辿り着く。
昨年名勝負が繰り広げられ、数時間前には女子レースでも激戦となっていた「サンタカテリーナ通り」の激坂を、挑戦に成功した者の特権を活かして優雅に登っていく。
王者は約5時間の戦いを終え、シエナが誇る「世界一美しい」カンポ広場で凱歌をあげる。
圧巻の独走劇!!
ポガチャルがその力で全てを捻じ伏せた!!
その伝説に、また新たな1ページが刻まれた。
この王者が紡ぐ物語は、今後一体どこまでたどり着くのだろうか。
私たちは、間違いなく伝説を目の当たりにしている。
伝説の選手ポガチャルの勇姿を目に焼き付け、語り継ぐ事が出来る喜びを、しっかりと享受したい。
2位争いとなっていた後続の2人は、バルベルデがサンタカテリーナの通りの激坂でアスグリーンを突き放し、バルベルデが2位、アスグリーンが3位に。
今シーズン限りで引退するバルベルデ、御年41歳。
彼もまた、ポガチャルとは別ベクトルで伝説だ。
この展開を予想出来る訳ないでしょ
ポガチャルの勝ち筋は、第10セクターや第11セクター、そしてサンタカテリーナ通りで「パンチ力のある相手(まあ、アラフィリップだよね)に仕掛けさせない」事、つまり早めに仕掛ける事だとは思っていた。
ただ、そのための「距離と難易度が適切な仕掛け所」が無いかなと思って、本命には出来なかったんだけれども…。
そんな自分の凡庸な予想なんか、この王者には通用しなかった。
ポガチャル、凄すぎ。
いやもう、毎回「凄い」と言ってる気がするけれども、なんかもうそれ以外の語彙を失ってしまう程の凄さだよね…。
分かってはいたけれども、今年も疑いようのないロードレース界の主役。
今後の走りも、しっかりと目に焼き付けたい。
それでは、また!!