超激坂でも揺るがないその走り
1週目の最終日は、2級・1級・3級・3級と4つのカテゴリー山岳を越えてから、超激坂とでも呼ぶべき1級山岳レス・プラエレスへとフィニッシュするレイアウト。
登坂距離3.9kmと短いながら、平均勾配12.9%、最大勾配24%というとんでもない難易度を誇るレス・プラエレスで、果たしてどのような戦いが繰り広げられるだろうか。
アクチュアルスタート後、逃げ職人トーマス・デヘント(ロット・スーダル)や、既に総合タイムを6分以上失ったリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)といった実力者が積極的に逃げに乗ろうと動いた事もあり、かなり激しいアタック合戦が繰り広げられる。
結局カラパスのような「危険な」選手は逃げを許されず、2級山岳の手前で形成された逃げ集団はルイス・メインチェス(アンテルマルシェ)やサミュエーレ・バティステッラ(アスタナ・カザクスタン・チーム)といった選手を含んだ9人。
この逃げにロバート・スタナードとジミー・ヤンセンスという2人の選手を送り込んだアルペシン・ドゥクーニンクは、ジェイ・ヴァインの山岳賞首位を維持する為にスタナードに道中全ての山岳を先頭通過させる事に成功。
クイックステップ・アルファヴィニルが牽引するメイン集団は、逃げにあまり危険な選手が乗らなかった事で、最大で5分ほどのタイム差を許容している。
最後の1級山岳レス・プラエレスの手前で動いてきたのは、やはり数の利があるアルペシン。
ヤンセンスに先行させ、より登坂力のあるスタナードを追走集団で温存させる構えだ。
ヤンセンスと共に抜け出したのはバティステッラ。
それなりの登坂力がある選手だけれども、決してピュアクライマーではないので、この先行を活かしてなんとか逃げ切れるか。
そしてそのまま、レス・プラエレス突入時点でも先頭とメイン集団のタイム差は4分以上と、逃げ切りが間違いない状況でレースは佳境を迎える事に。
レス・プラエレスに入ると、先頭はヤンセンスがバティステッラを突き放して独走を開始する、やや意外な流れに。
後方の追走集団からは、メインチェスが飛び出して前の2人を追いかける。
残り2.6km、メインチェスはバティステッラとヤンセンスを抜き去り、単独での先頭に。
ここまで先頭を走っていたヤンセンスは、力尽きたのかバティステッラにも追い抜かれていく。
一方のメイン集団は、ジュリアン・アラフィリップの牽引でレス・プラエレスに突入。
その厳しい勾配にみるみる選手が脱落していき、気が付けば20人もいないぐらいになっている。
残り3kmの手前辺り、マイヨ・ロホを着るレムコ・エヴェネプール(クイックステップ)が集団の先頭へ!
もちろん、この日もここから必殺の「ペース走アタック」を繰り出す…!!
相変わらず破壊力抜群なエヴェネプールのこのアタックは、プリモシュ・ログリッチ(チーム・ユンボ・ヴィスマ)やフアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)をすぐさま脱落させ、更にはここまでのステージで唯一食らいついていたエンリク・マス(モビスター・チーム)も突き放してしまう!!
厳しい勾配にエヴェネプールもダンシングを交えつつの登坂になりながら、その脚は全く勢いを失わない!!
そんなエヴェネプールの勢いも、流石にかなり前方(残り3km時点で約3分差)を走っていたメインチェスに届くほどではなかった。
後続に1分以上の差を付け、メインチェスが余裕のフィニッシュ!!
3度のツール・ド・フランス総合8位は伊達ではない!!
前日はタイムを失って総合順位を下げていたけれども、やはりその登坂力は一級品!
この日16位まで上げた総合順位を更に上げにいくのか、それともまたステージを狙うのかは分からないけれども、この登坂が出来るならば残りのステージも楽しみだ。
メインチェスから遅れる事1分34秒、全てのライバルを突き放したエヴェネプールがフィニッシュ!
ここまで唯一食らいついていたマスに44秒、最大の優勝候補と目されていたログリッチに52秒と、大きなアドバンテージを獲得!!
以前までは「長い登坂と激坂が苦手ではないか」などと評されていたけれども、昨年のジロ・デ・イタリアの頃とはもう完全に別人と言っていいレベルだ!
残す不安は、3週間のペース配分と安定感のみ。
ただ、正直なところそんな不安なんか些細なものに思えるほど、現状のエヴェネプールの走りは本当に素晴らしい上に、なんだかまだ余裕すら感じる。
このまま最後まで突っ走っても、何ら不思議ではない。
1週目を終えて、改めて総合のタイム差を確認しておきたい。
総合トップ10は以下の通り。
- 総合首位:エヴェネプール
- 総合2位:マス(+1分12秒)
- 総合3位:プリモシュ・ログリッチ(+1分53秒)
- 総合4位:カルロス・ロドリゲス(イネオス、+2分33秒)
- 総合5位:フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ、+2分36秒)
- 総合6位:サイモン・イェーツ(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ、+3分8秒)
- 総合7位:ジョアン・アルメイダ(UAE、+4分32秒)
- 総合8位:ミゲルアンヘル・ロペス(アスタナ・カザクスタン・チーム、+5分3秒)
- 総合9位:ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ、+5分36秒)
- 総合10位:パヴェル・シヴァコフ(イネオス、+5分39秒)
エヴェネプールが早くも1分以上のリードを築き、更には第10ステージに得意の個人タイムトライアルを残している、圧倒的有利な状況に。
唯一食らいついていたマスもこの日タイム差を取られ、そして個人タイムトライアルで差を広げられるのは明白。
前人未到の総合4連覇を狙っていたログリッチは、やはりツールでの負傷の影響が大きいのか、明らかに調子が上がっていない(その状態でこの順位というのはある意味もの凄いけれども…)。
総合4位のロドリゲスを擁するイネオスは、「総合上位に3人の選手を残せている」事が強みだっただけに、この日テイオ・ゲイガンハートが落車でタイムを大幅に失ったのは結構な痛手に感じる。
総合5位のアユソは、初のグランツール出場だけれども、エースのアルメイダがタイムを失う中でかなり奮闘している印象だ。
ここまでが総合3分差以内で、総合6位のサイモン・イェーツ以下の選手は早くもかなり厳しい展開と言っていいと思う。
ただ、ブエルタはその長い道程をまだ半分も消化していない。
大きなタイム差が付き得るようなステージもいくつかある。
果たしてこのままエヴェネプールが快進撃を続けるのか、それともディフェンディングチャンピオンの反撃があるのか、はたまた第3勢力が襲い掛かるのか。
2週目以降も楽しみで仕方がない。