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【レース感想】ツアー・ダウンアンダー2023

真夏のワールドツアー開幕戦!

いよいよ幕を開けたロードレースシーズン、ワールドツアーの初戦は真夏のオーストラリアで行われるツアー・ダウンアンダー

新型コロナウィルスの影響で3年振りの開催となるこの大会には、地元オーストラリア出身の選手を多く含んだ有力選手が出場!

※注目選手紹介記事はこちら

www.kiwaroadrace.com

プロローグが組み込まれるなど、今までとは少し違った傾向のコースレイアウトで一体どんなレースが繰り広げられるのか。

 

プロローグ

初日のプロローグは、5.5kmと短距離の個人タイムトライアル。

コーナーの多いテクニカルなコース、普段と違う機材(タイムトライアルバイクは使用禁止で、ノーマルバイクでのタイムトライアル)、そして雨と、少し結果が読みにくい条件でのレースは…なかなか予想外の展開に。

 

まだ雨の影響がなかった最序盤、第4出走のアルベルト・ベッティオール(EFエデュケーション・イージーポスト)が好タイムをマークして暫定首位に!

そしてその後、有力選手が登場する前に雨脚が強まり、コーナーで落車する選手が続出する展開に。

そうなると、どの選手もコーナー付近ではスピードを落とさざるを得ず、なかなかベッティオールに肉薄する選手すら現れないまま、気が付けば残す選手はあと僅か。

雨が上がって路面状態もある程度戻った最終盤、イネオス・グレナディアーズ期待の新鋭マグナス・シェフィールドが好走を見せたけれども、ベッティオールには8秒届かず…。

つまり、2時間以上もホットシートを温めたベッティオールが、そのままステージ優勝!!

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昨シーズンは未勝利だったベッティオール、2023年は最高のスタートを切る事に成功!

2019年にロンド・ファン・フラーンデレン優勝、2021年にはジロ・デ・イタリアでステージ勝利と、大きな勝利は掴んでいる実力者だけれども、実はこれでプロ通算4勝目と驚くほど勝利が少ないベッティオール。

今シーズンこそは、コンスタントに勝利を積み重ねて欲しいところだ。

 

第1ステージ

今大会で最もスプリンター向けと言えそうな平坦ステージ。

 

単独での逃げを敢行したのは、逃げ巧者のナンス・ペテルス(AG2Rシトロエン)。

ただ、流石にどう考えてもフラットすぎて逃げ切り勝利を狙えるコースレイアウトではなく、集団スプリントに向けて平穏な雰囲気になるかなと思いきや…、この日は落車が頻発してしまう。

落車の影響で、パトリック・ベヴィン(チームDSM)とロベルト・ヘーシンク(ユンボ・ヴィスマ)がリタイア(ヘーシンクは骨盤を骨折…)。

そしてジェイムス・ノックス(スーダル・クイックステップ)は、落車から集団復帰の際、チームカーを風除けに使ったとして失格処分に。

レース後、ノックスはSNSで「これで失格だと、『落車後に医師による骨折や脳震盪の診断を受けずにレースに復帰しなさい』と言っているようなもの」という旨(かなり意訳)の主張で、審判団の判断を批判。

このノックスの主張に多くの選手が同意していて、自分も基本的には同意だなぁ(「遅れたら何でもかんでもチームカーを好きなように使っていい」という意味ではないけど)。

 

レースに話を戻すと、残り56kmと早い段階でメイン集団が先頭のペテルスを吸収。

その後は大きな動きが無く、フィニッシュの集団スプリントが近づいてくる。

残り5km、先頭で隊列を組むのはチーム・ジェイコ・アルウラーの選手たち。

隊列の最後尾には当然エースのマイケル・マシューズ、そしてそのマシューズの背中に潜んでいるのはカレブ・ユアン(Unisaオーストラリア)。

残り2.5km、スーダル・クイックステップなど他のチームが横から被せて先頭を奪い、その影響でマシューズは少しはじき出されるような格好に。

これでマシューズとユアンは少し位置を下げてしまい、一気に不利な状況に。

残り1km、気が付けばしっかり位置を上げてきたマシューズ、ユアンはその真後ろではなく数人の選手が間に入ってしまっている。

このタイミングで、前方10番~15番辺りにいたヨルディ・メーウス(ボーラ・ハンスグローエ)が落車、ただ最前線の選手に影響はなく、そのまま最高速域でのスプリントへ!

残り300mを切って、リードアウトを受けるマシューズの横から、フィル・バウハウスバーレーン・ヴィクトリアス)が猛然と加速を開始!

バウハウスは一気に先頭を奪うと、そのまま力強く踏み込み続ける!!

負けじとその背中から最後の加速を見せるマシューズ、そして後方からはユアンもとんでもない勢いで飛んでくる!!

最後はハンドルの投げ合い…!!

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接戦を制したのは…バウハウス!!

早めの仕掛けから、最後の最後まで粘り切った!!

そして2位は猛追を見せたユアン、直前まで良い流れを作っていたマシューズは3位に。

前日の勝者ベッティオールと同じように「地味ながら間違いなく実力者」のバウハウスバーレーンのエーススプリンターとしてこれが爆発の狼煙となるか。

 

第2ステージ

フィニッシュ手前21kmの位置に1級山岳ネトル・ヒル(登坂距離2.5km・平均勾配6.8%)が設定された、少し展開の読みにくいレイアウト。

パンチャーやクライマーによるアタックからの抜け出しか、もしくは生き残ったスプリンターによるスプリントか。

 

レース序盤、横風でメイン集団が分裂したけれども、結局はひと塊の集団になって、ネトル・ヒルに突入。

残り22km、この日の優勝候補であるマシューズが、チェーントラブルで無念の脱落。

その直後、アタックを仕掛けたのはジェイ・ヴァイン(UAEチームエミレーツ)。

この動きに反応できたのは、サイモン・イェーツ(ジェイコ)、ローハン・デニス(ユンボ・ヴィスマ)、ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)、マウロ・シュミット(スーダル)の4人。

かなり強力な選手が揃ったこの先頭集団は、「マシューズを待ちたい」という大義名分が成り立つサイモン・イェーツ以外の4人がしっかりとローテーションを回して、一気に勝負を決めに掛かる。

残り11.4km、緩い登りに差し掛かった追走集団から、なんと総合リーダーのベッティオールが脱落。

「え、ベッティオールがこの程度の登坂で…?」と思ったけれども、どうやら両脚を攣ってしまった模様。

この辺りはシーズン開幕直後の難しさか…。

これで、総合リーダージャージを守りたいEFが追走の意欲を失う事になり、結果的に追走集団は勢いを削がれてしまう。

一方の先頭集団は、総合争いをする選手が集まった事で、その後も順調に距離を消化していく。

 

残り5kmで先頭集団と追走集団のタイム差は30秒と、逃げ切りが濃厚に。

残り4kmを切ると、ここまでローテーションに加わらなかったサイモン・イェーツもしっかりと回り始めて、改めて協調の意志を見せてきたけれども、果たして「勝負」するのか…?

残り1kmを過ぎた辺り、ヒンドレーがコーナーを利用して少し抜け出す格好に。

直角コーナーを抜けてからデニスが加速して、ヒンドレーを難なくキャッチすると、デニスはそのままヒンドレーをパスして後方とのギャップを作り出す!

後方の4人も遅れて踏み込むけれども、デニスとの差は結構開いてしまっている!!

デニスは力強く踏み続け、最後は余裕のガッツポーズを見せてのフィニッシュ!!

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地元アデレード出身のデニス、嬉しい凱旋勝利!!

総合首位に躍り出たデニス、2015年以来の総合優勝となるか。

そしてステージ2位に入ったヴァインが総合2位(+3秒)、総合3位は追走集団でのフィニッシュだったシェフィールド(+12秒)。

まだまだ総合上位勢のタイム差は少ないので、ここからどのような展開になっていくか楽しみだ。

 

第3ステージ

最大勾配24.4%の激坂、1級山岳コークスクリュー(登坂距離2.3km・平均勾配9.2%)が登場する、総合争いに向けてかなり重要なステージ。

 

この日の逃げは、ミッケル・フレーリック・ホノレ(EF)とファビオ・フェリーネ(アスタナ・カザクスタンチーム)の2人。

ホノレが山岳ポイント、フェリーネが中間スプリントポイントを先着し、ホノレは山岳賞暫定首位に立つ事に。

 

メイン集団はしっかりと逃げを吸収して、いよいよコークスクリューに突入。

残り7kmを切ると、総合リーダーのデニスが遅れていく姿が…。

そして残り6.4km、マルク・ヒルシやジョージ・ベネットのアシストを受けたヴァインが、この日もアタックを繰り出す!

即座に反応したのがサイモン・イェーツ、少し遅れてペッリョ・ビルバオバーレーン)も合流して、完全に3人で抜け出す格好に!!

そのままヴァインが先頭で山頂を通過して、ヴァインは再び山岳賞のトップに躍り出た!

 

先頭の3人はスムーズな協調を見せて、そのままフィニッシュ目前までやってくる。

最終コーナーを抜けて、先頭のヴァインは後続とのタイム差を開くために牽制をせずに踏み続ける。

残り200m、その背中からビルバオがスプリントを開始!

ヴァインは無理をしない一方、サイモン・イェーツはビルバオスリップストリームを利用して抜け出そうと試みる!

粘るビルバオ、じりじりと迫るサイモン・イェーツ!!

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接戦を制したのは…ビルバオ!!

しっかりと自分のタイミングで仕掛けて、最後まで踏み切っての見事な勝利!

バーレーンは第1ステージのバウハウスに続いて2勝目だ!

そして、ヴァインが総合首位に立ち、ビルバオが総合2位(+15秒)、サイモン・イェーツが総合3位(+16秒)に、それぞれジャンプアップ。

総合4位のシェフィールドは45秒遅れなので、総合優勝争いは上位3人に絞られたか。

 

第4ステージ

ダウンアンダー名物とも言える峠ウィランガ・ヒル…ではなく、その麓の傾斜が緩い部分までを登る「ローワー・ウィランガ」が登場する周回コース。

緩めの登り勾配フィニッシュなので、登り耐性のあるスプリンターによる勝負か。

 

この日の逃げは、ヨナス・ルッチ(EF)と、今シーズン限りでの引退を表明しているダリル・インピー(イスラエル・プレミアテック)の2人。

3分以上先行する2人を追うメイン集団は、残り77km辺りで横風により大規模な分断が発生。

前方の集団が先頭の2人を早々に飲み込む一方、バウハウスやカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)など、この日のステージ勝利候補者が何人か後方に取り残される展開に。

周回コースなので風向きが変わる中、後方の集団が距離を詰める時間帯もあったけれども、結局追いつく事の出来ないまま最終局面に突入していく。

 

メイン集団に人数を多く残せていたジェイコが良い形を作るのかと思いきや、道中で力を使いすぎたのか集団前方でトレインは組めず、エースのマシューズもいい位置取りが出来ていない。

残り2kmを切って、前方に人数を集めるのはEFとアンテルマルシェ・サーカス・ワンティ辺り、そしてコフィディスのアレクシー・ルナールがエースのブライアン・コカールを連れてスルスルっと位置を上げていく。

最終コーナーを抜けて、気が付けばマシューズとユアンも結構位置を上げてきている。

残り250m、真っ先にスプリントを仕掛けたのはコカール!

向かい風、そして登りスプリントでこの位置からは早すぎる気がしたけれども、もの凄い勢いで飛び出したコカールは一気に後続を突き放す!!

マシューズが追いかけるけれども伸びない、ベッティオールも粘るけれども全く届かない…!

コカールは最後の最後まで勢いを失わない!!

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圧巻の登りスプリント!!

プロ11年目のコカール、プロ通算49勝目にしてこれが嬉しいワールドツアー初勝利!!

いや~、やっと掴んだ待望の勝利に喜びを爆発させている姿は、なんとも素晴らしい!

 

第5ステージ

最終日は、112.5kmの短い距離に3,131mもの獲得標高が詰め込まれた、なかなかの難易度を誇るレイアウト。

フィニッシュ地点に設定された1級山岳マウント・ロフティ(登坂距離1.5km・平均勾配7.5%)を計5回登る周回コース、果たしてどんな展開になるか。

 

序盤は結構出入りの激しいアタックの打ち合いになり、スタートから15.5kmの位置の中間スプリントポイントをマシューズが先頭で通過して、マシューズはポイント賞獲得が実質確定。

マシューズを含めた最初の先行集団は一旦メイン集団に吸収され、その後13人の逃げ集団が形成される。

逃げ集団には総合へ影響を与える選手がいない中、メイン集団を牽引するのは総合リーダーのヴァインを抱えるUAEではなく、15秒遅れのビルバオを擁するバーレーン

バーレーンは結構な高速牽引を続けて、メイン集団を徐々に小さくしつつ、2回目のマウント・ロフティ突入手前で逃げを全て吸収してしまう。

その後、マクシミリアン・シャフマン(ボーラ)やマッティア・カッタネオ(スーダル)などの危険な選手が先行する場面はありつつも、それらは全て吸収されて、メイン集団はひと塊で最後のマウント・ロフティに向かっていく。

 

残り1.8km、軽快なダンシングで加速したのはサイモン・イェーツ!

ベン・オコーナー(AG2Rシトロエン)がその背中に張り付き、そしてヴァインもすぐさま反応する一方、ビルバオは動けない…!

ヴァインを突き放すためにガシガシと踏み続けるサイモン・イェーツ、ヴァインとオコーナーは離されずにしっかり付いていく。

残り600mで再度加速するサイモン・イェーツ、しかしここでもヴァインとオコーナーは離れない。

フィニッシュに向けて牽制モードに入る3人、並びは前からオコーナー、ヴァイン、サイモン・イェーツの順。

残り300mを切って、仕掛けたのは意外にもヴァイン!

オコーナーが早々に諦める一方で、サイモン・イェーツはヴァインの背中をしっかりと捉え、最後の最後に差しに行く!!

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熱い仕掛けから、最後は冷静に!!

サイモン・イェーツが貫禄を見せつけてのステージ勝利!!

仕掛けのアタックや突き放すための動きで力を使いつつ、フィニッシュではしっかり差し切るその力配分と落ち着きは流石の一言!

地元オーストラリア籍チームのエースとして、しっかりと勝利を飾る大きな仕事をやってのけた!

 

そして総合首位の座を守り抜いたヴァインは、自身初となるステージレースでの総合優勝!!

地元オーストラリア出身選手としてその堂々たる走りっぷりは、プロ3年目、そしてワールドチーム所属初年度とは思えない素晴らしいものだった!

改めてその登坂力がトップクラスだと証明できただけでなく、全体を通した安定感やその戦いぶりは、今後さらなる活躍を予感させるには充分だったと思う。

UAEという強豪チームの中で、どのような役割を果たすのか楽しみにしていたい。

 

開幕戦から素晴らしい盛り上がりだった!

改めて最終成績を確認。

  • 総合優勝:ジェイ・ヴァイン(UAEチーム・エミレーツ
  • 総合2位:サイモン・イェーツ(チーム・ジェイコ・アルウラー)
  • 総合3位:ペッリョ・ビルバオバーレーン・ヴィクトリアス
  • ポイント賞:マイケル・マシューズ(チーム・ジェイコ・アルウラー)
  • 山岳賞:ミッケル・フレーリック・ホノレ(EFエデュケーション・イージーポスト)
  • ヤングライダー賞:マグナス・シェフィールド(イネオス・グレナディアーズ

 

総合優勝はヴァイン!

登坂力は昨年までに証明済み、タイムトライアル能力も国内選手権で見せつけたばかり、そしてこの1週間の安定感。

今後も本当に期待が出来る素晴らしい走りだった!

 

総合2位はサイモン・イェーツ!

期待された総合優勝には届かなかったけれども、地元チームのエースとして、ステージ1勝と総合2位はしっかりと仕事をこなしたと言っていいはず。

 

総合3位はビルバオ

まだ調整段階な様子も伺わせつつ、ステージ1勝を掴み取ってのこの順位は、この先のシーズンに期待できるポジティブなものだと思う。

 

ポイント賞はマシューズ!

残念ながらステージ勝利には届かなかったけれども、しっかりポイント賞を手中に収める辺りは流石の一言。

最終ステージでサイモン・イェーツのアシストをしている姿も印象的だった。

 

山岳賞はホノレ!

第4ステージの混乱した展開の中、山岳ポイントをもぎ取って山岳賞首位に躍り出るそのしたたかさは、見過ごされがちだと思うけれども素晴らしかったと言いたい。

 

ヤングライダー賞はシェフィールド!

クライマーではなくルーラー的な選手だけれども、山岳ステージでも大きく崩れず、総合4位に入ってのヤングライダー賞獲得。

プロ2年目の20歳、改めてとんでもないポテンシャルの選手だと証明してくれた。

 

いや~しかし、ワールドツアー開幕戦から熱いレースだった!

いい意味で予想の付かない展開が多くて、とても盛り上がる内容だったと思う。

この先のレースにも熱い盛り上がりを期待すると同時に、またやってくるレース漬けの日々を思う存分堪能していきたい!

 

それでは、また!

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