いつだって独走勝利
アルデンヌクラシック最終戦、「ラ・ドワイエンヌ(最古参)」とも称されるリエージュ~バストーニュ~リエージュ。
春のクラシックシーズンを締めくくる重要な一戦、注目を集めていたのは新旧王者の直接対決。
- 2021年の王者、アルデンヌクラシック完全制覇に王手を掛けているタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)
- 2022年の王者、ジロ・デ・イタリアに向けた高地トレーニングを終え、コンディションが高まっているレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)
この2人、実はこれまで直接対決が殆ど無くて(あったとしてもどちらかが万全では無かったり…)、明確な優勝候補同士としてやり合うのは実質初めて。
一体どんなレースを繰り広げてくれるのか、期待は最高潮に高まっていた。
しかし、J SPORTSでの中継が始まる少し前、残り170km辺りで、残念過ぎるニュースが流れてくる。
なんと、ポガチャルが落車に巻き込まれ、即時リタイアを選択したと…。
落車によるリタイアが極端に少ない(と言うか、自分の記憶には無い…)ポガチャルが、まさかこんな形でレースを去るとは…。
そのまま病院へと直行したポガチャルに下った診断は、手首の骨折。
もちろん骨折を「軽傷」とは言わないだろうけれども、その程度で済んで…具体的に言えばツール・ド・フランスには十分間に合いそうなケガで済んだのは、不幸中の幸いと言ったところか。
何にせよ、レースは主役の1人を失った状態で進んでいく事に。
ポガチャルがいなくなったレースをコントロールするのは、やはりスーダルの選手達。
残り100kmを切ってからはそのチーム力を生かした高速牽引でメイン集団のペースをかなり上げ、早くも強烈な絞り込みを掛けていく。
そんな展開を嫌ってか、残り85km辺りでメイン集団からヤン・トラトニック(ユンボ・ヴィスマ)がアタック。
追随しようとした数人の選手を振り切ったトラトニックは、単身で先頭への合流に成功。
1分ほど後方のメイン集団は相変わらずスーダルのコントロール下、ピーター・セリーが牽引を終えると、なんとケガ明けのジュリアン・アラフィリップが集団を牽いている。
スーダルのエースであるエヴェネプールを支えるのは、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャ制覇にも大きく貢献した3人、アラフィリップ、イラン・ファンウィルデル、ルイス・フェルヴァーケという心強すぎるメンバー。
アラフィリップとフェルヴァーケは、牽引を終えて後方へ下がったと思いきや、若干のインターバルを経てからまた前方に復帰して再び牽引と、なんともド根性なアシストを披露。
そうこうしているうちにフィニッシュまでの距離は40kmを切り…そろそろエヴェネプールの「射程圏内」か。
残り35km辺りから始まる登坂「コート・ド・ラ・ルドゥット」手前で位置取り争いが激しくなり、人数を多く残していたイネオス・グレナディアーズが前を奪う時間帯もあったけれども、コート・ド・ラ・ルドゥット突入時の集団先頭はスーダル最後のアシストであるファンウィルデル。
ファンウィルデルの容赦ないペースアップに、逃げはすぐさま吸収され、更にはメイン集団もドンドン人数を減らしていく。
そして残り33.5km、満を持してエヴェネプールがアタック!!
トム・ピドコック(イネオス)やジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)がなんとか食らいつこうと試みるけれども、無情にもエヴェネプールの背中は徐々に遠ざかっていく…!
なんとかピドコックだけは数秒差遅れの位置で粘り、そしてダウンヒルで差を詰めて合流に成功。
その後ろでは、チッコーネとマティアス・スケルモースというトレックのコンビが追走する格好だ。
唯一エヴェネプールに食らいついたピドコックは、エヴェネプールとの先頭交代を拒否。
これは…戦術か、それとも…。
そして残り30km、小さな起伏でピドコックが少し離されると、それを確認したエヴェネプールが加速!!
ピドコック、やはり限界だったか…。
そんなピドコックを尻目にエヴェネプールは相変わらず快調な独走を披露し、あっと言う間にタイム差は30秒以上に拡大。
こうなってしまったら、エヴェネプールを止められる選手は…いる訳がない。
世界王者の証である「アルカンシェル」に身を包むエヴェネプールは、この虹をあしらったジャージを獲得した昨年の世界選手権と同じように、この日も独走でフィニッシュ地点にやってくる。
この若者が勝つときは、いつだってそうだ。
その残酷なまでに圧倒的な力を存分に振るい、早い段階でライバルを突き放し、長い長いウィニングランを堪能しながらフィニッシュに向かっていくのだ。
残り2kmを切ると、チームカーとなにかやり取りを交わし、そして無線でチームメイトに感謝と勝利の報告をしてから、早くもカメラにガッツポーズを見せつける。
そして残り300mを過ぎ、地元ベルギー出身の王者は、貫禄の表情で観客を煽る!!
もっと声援を、もっと称賛を、そしてもっと盛り上がりを!!
アルカンシェルに相応しい、力強く誇らしげな所作でのフィニッシュ!!
今年もまた鮮やかな独走劇!!
エヴェネプール、リエージュ~バストーニュ~リエージュ2連覇達成!!
いや~、強い!!
あの形に持ち込まれたら、もうどうしようもない強さ!
そして、そんなエヴェネプールの強さを存分に発揮させた、チーム力もお見事!
他のチームがどうこうできるようなチャンスは、ほぼ無かったと言っていいと思う。
2年続けて春のクラシックシーズンで苦戦したスーダル、そしてそんな苦境の盟主をまたしても最後の最後で救ったエヴェネプール。
エースとして、世界王者として、改めてその真価を発揮したレースだった。
そして表彰台争いは、一旦合流して大きくなった追走集団から抜け出した、ピドコック、サンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス)、ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)の3人での勝負に。
最終コーナーの手前、ヒーリーが意表を突くアタックを繰り出したけれどもこれは決まらず、逆にヒーリーは脚を消耗させつつ前を牽かされるような格好になってしまう。
その流れでヒーリー、ピドコック、ブイトラゴと言う並びでのまま、緊張感を漂わせながらフィニッシュまでの距離が縮まっていく。
残り250m、真っ先にスプリントを仕掛けたのは最後方に潜んでいたブイトラゴ!
ピドコックはしっかり反応、その一方でヒーリーは明らかに厳しそうだ。
残り100m、しっかりとブイトラゴを風除けに使ってから、ピドコックが加速!
ピドコックは難なくブイトラゴを差して2着、そしてそのままブイトラゴが3着に。
スプリント力では明確に抜きん出ていたピドコックに対して、ブイトラゴとヒーリーは早めの仕掛けという選択肢しかなかった時点で、やはりかなり厳しい勝負だったか。
「たられば」は…言うまい
独走、独走、また独走。
今年もまさにエヴェネプールらしい走りが炸裂した今回のリエージュ~バストーニュ~リエージュ。
もちろん、同じく圧倒的な力を持っていたポガチャルとの直接対決が、落車というアクシデントで見られなかったのは、一人のロードレースファンとしてはとても残念ではあった。
ただ、落車などの不確定要素もこのスポーツの一部であり、それらを乗り越えて勝った選手が「強い」という事なんだと思う。
まあ、エヴェネプールとポガチャルの直接対決は、今後の楽しみにとっておこう。
2人ともまだ若いから、これから機会はいくらでもある。
ワンデーレースでも、そしてグランツールでも、きっと激熱なレースを繰り広げてくれるはずだ。
それでは、また!
おまけ
今日の1枚
なんとも胸が熱くなる、新旧アルカンシェルの並び…!