「元・世界最速の男」
第18ステージは、5つの3級山岳が登場する、今大会随一の逃げ切り向けステージ。
そして、翌日以降は総合争いの舞台になりそうなので、この日が最後の逃げ切りのチャンスか。
アタック合戦の末に出来上がった逃げ集団は、やはり36人とかなりの大所帯に。
ワウト・ファンアールト(チーム・ヴィスマ・リースアバイク)、リチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)、ミハウ・クフィアトコフスキ(イネオス・グレナディアーズ)、ジャイ・ヒンドレー(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)、オイエル・ラスカノ(モビスター・チーム)、ギヨーム・マルタン(コフィディス)、マイケル・マシューズ(チーム・ジェイコ・アルウラー)、ヴィクトル・カンペナールツ(ロット・デスティニー)など、この日のレイアウトに向いている強力な選手が数多く入っている。
メイン集団は、総合争いに影響のある選手が逃げに入らなかったので、逃げ切りを完全に容認。
談笑しながらスローペースを刻むメイン集団を尻目に、先頭ではバチバチのステージ勝利争いが始まる。
4つ目の3級山岳でレースを動かしてきたのは、カラパス、ベン・ヒーリー、ショーン・クインと、先頭集団に3人の選手を送り込んだEF。
まずは独走力に長けたヒーリーによるアタック、この動きが捕まるとカウンターでクインがアタックと、数の利を生かした攻撃を仕掛けてくる。
クインの動きも捕まえられると、またしてもヒーリーが加速。
これは…EFは完全にカラパスをエースとして温存か。
そこから各チームがアタックを見せるけれども、この3級山岳では決定的な動きにはならない。
残り40km地点が頂上になる最後の3級山岳、ここでも散発的なアタックが繰り返されるけれども、なかなか決まり切らない。
「もしかしたらこのまま結構な人数を残してのスプリント勝負か…?」なんて思った矢先、頂上まで400mの位置から仕掛けたのはクフィアトコフスキ!
キレのあるアタックで抜け出しに成功したクフィアトコフスキに、少し遅れて合流したのはカンペナールツとマッテオ・ヴェルシェ(トタルエネルジー)の2人。
先頭の3人を追走する集団では、その先頭を走っていたトビアス・ヨハンネセン(ウノエックス・モビリティ)がコーナーで落車するアクシデントもあり、一旦ペースを落とす格好に。
先頭の3人は、そのまま協力して逃げ切りを図る。
少し間をおいて追走集団から飛び出したのは、ヒンドレー、ラスカノ、トムス・スクウィンシュ(リドル・トレック)、クリス・ニーランズ(イスラエル・プレミアテック)、バルト・レメン(ヴィスマ)の5人。
10秒ほどの差で先頭の3人を追いかけるけれども、先頭と比べると協調体制が万全ではないのか、なかなかその差を詰められない。
更にその後ろに取り残された集団は、ファンアールトやマシューズというスプリント力のある選手が含まれていることもあって、牽制状態になってしまいペースが上がらない。
そして、ヒンドレーなどがいる第2集団も、残り20kmで25秒差、残り10kmで45秒差と、徐々に先頭との差が広がっていく…!
これは…先頭の3人での逃げ切りだ!
元世界王者クフィアトコフスキ、元アワーレコード世界記録保持者カンペナールツ、そして未だに大きな実績はなく、ツール初出場の若手ヴェルシェ。
タイプも実績も大きく異なる3人、スプリント力に長けているのはこれまでもこの日のようなシチュエーションで勝利を重ねてきたクフィアトコフスキ。
カンペナールツは短いスプリントでは分が悪そうだけれども、隙をついてのロングスプリントを決め切るような力はある。
プロ2年目のヴェルシェは…アマチュア時代にスプリントを得意としていたとの情報もあるけれども、プロでは、ましてやグランツールでは未知数。
牽制をせずに踏み続けた3人は、残り1kmのアーチをクフィアトコフスキ、ヴェルシェ、カンペナールツという並びで通過。
残り850m、クフィアトコフスキが先頭交代で下がろうとした瞬間に、ヴェルシェが意表を突くアタックを敢行!
ただ、この動きはクフィアトコフスキが慌てずにキャッチ、そしてカンペナールツもクフィアトコフスキの背中で力を温存している。
残り600mでヴェルシェが一旦踏みやめると、3人はペースを落としてお見合い状態に。
並び順はまたしてもクフィアトコフスキ、ヴェルシェ、カンペナールツという形、クフィアトコフスキは2番手のヴェルシェよりもカンペナールツの様子を気にしているか…?
残り200mを切ると、最後尾のカンペナールツが力強くスプリントを開始!!
クフィアトコフスキは当然その動きに合わせようとするけれども、踏み込む力が残っていない…!?
完全に抜け出す格好になったカンペナールツ、そのままフィニッシュまで突き抜ける!!
逃げからのスプリントは、まさかの結末に!!
カンペナールツ、自身初となるツールでのステージ勝利!!
「まさか」とか「意外」とか言ったら失礼かもしれないけれども…、カンペナールツがスプリントで勝つのは完全に予想外…!
勝負を分けたのはスプリント力ではなく、最後まで力を残しておけたスタミナとクレバーさか。
元アワーレコード世界記録保持者としてタイムトライアルで活躍していた時期を経て、近年は「逃げ屋」としての走りが目立つカンペナールツ。
なんと、昨年12月にコースプロフィールが発表された時点で、このステージでの勝利を狙っていたとのこと。
周到さと、そもそもの実力。
本当に、見事な逃げ切りだった。