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【選手紹介Vol.8】プリモシュ・ログリッチ

進化を続ける元スキージャンパー

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選手名:プリモシュ・ログリッチ(Primož Roglič)

所属チーム:チーム・ユンボ・ヴィスマ

国籍:スロベニア

生年月日:1989年10月29日

脚質:タイムトライアルスペシャリスト・オールラウンダー

 

主な戦歴

ブエルタ・ア・エスパーニャ

 総合優勝(2019、2020)、ステージ通算5勝(2019、2020 × 4)

ツール・ド・フランス

 総合2位(2020)、総合4位(2018)、ステージ通算3勝(2017、2018、2020)

ジロ・デ・イタリア

 総合3位(2019)、ステージ通算3勝(2016 × 1、2019 × 2)

リエージュ~バストーニュ~リエージュ

 優勝(2020)

・世界選手権 個人タイムトライアル

 準優勝(2017)

ツール・ド・ロマンディ

 総合優勝(2018、2019)

・ティレーノ・アドリアティコ

 総合優勝(2019)

UAEツアー

 総合優勝(2019)

 

どんな選手?

元スキージャンプ選手という異色の経歴ながら、抜群のタイムトライアル能力を誇るオールラウンダー。

 

元々はスキージャンプ選手として活動をしていて、2007年にはジュニア世界選手権で団体優勝を果たしているが2012年にロードレースに転向、わずか4年後の2016年にはワールドチームのチーム・ロット・NLユンボ(現チーム・ユンボ・ヴィスマ)と契約する。

 

グランツール(3大ステージレース)初出場となったジロ・デ・イタリア2016の2つの個人タイムトライアルステージで2位(第1ステージ)、1位(第9ステージ)と立て続けに好成績を残し、その異色の経歴も含めてタイムトライアルスペシャリストとして脚光を浴びる。

2017年には得意のタイムトライアルで世界選手権準優勝の結果を残すだけでなく、ブエルタ・アン・アルガルヴェ総合優勝にツール・ド・ロマンディ総合3位、更にはツール・ド・フランスでステージ優勝と、タイムトライアル以外でも活躍を見せ始める。

2018年もイツリア・バスク・カントリーとツール・ド・ロマンディという2つのワールドツアーのステージレースで総合優勝し、更にはツール・ド・フランスで総合4位の好成績を残した事でステージレーサーとしてもトップクラスの実力を有すると証明。

 

そして、満を持してグランツール制覇に挑んだ2019年、まず狙ったのはジロ・デ・イタリア

ジロの前に出場した3つのステージレース全てで総合優勝(しかも3つともワールドツアー)という圧巻の成績を残していたため優勝候補の筆頭として挙げられ、中盤までは2つのタイムトライアルステージで勝利するなど期待通りの走りを見せたが、終盤には自身の体調不良と若手中心のアシスト陣の不調が重なってしまい総合3位に終わる。

 

ジロ終了後は第1子が産まれたこともありスロバキア選手権を除くレースを回避し、十分な休養と調整を経てブエルタ・ア・エスパーニャで再度グランツールに挑戦。

そこで見せたのは、得意のタイムトライアルステージで優勝するだけではなく、山岳ステージでも他の強力なライバルたちを蹴散らし総合優勝を果たすという、王者の風格漂う圧倒的な走り。

ナイロ・キンタナ(当時モビスター)やミゲル・アンヘル・ロペス(アスタナ)といった当代きってのピュアクライマーと山岳で正面から渡り合うどころか打ち負かす程の登坂力を身につけながら、得意のタイムトライアルでさらに突き放すそのスタイルは、彼がタイムトライアルスペシャリストからオールラウンダーへと進化したことを示すものだった。

 

グリッチの所属するチーム・ユンボ・ヴィスマはツール・ド・フランス2020に向けて、2019年12月という異例のタイミングでツール出場メンバーを発表。

昨年3勝を稼いだスプリントは全く狙わないメンバー構成となっていて、ログリッチが総合ダブルエースの一角として名を連ねている(もう1人のエースはトム・デュムラン)。

低迷期を乗り越え近年大躍進を遂げているユンボが、2020年は本気でツールの総合優勝を狙いに行く

その中心には、チームの躍進と共に進化を続けてきた、最早「元スキージャンパー」という肩書のいらない世界トップレベルの総合系ライダーへと進化したログリッチがいる。

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※2021年1月1日追記

ツールでイネオスを倒すため、ユンボは考え得る最強のメンバーを揃えたと言ってよかった。

そしてログリッチは絶対的エースとして、マイヨ・ジョーヌ獲得を目指して快調に走っていた。

脇を固める護衛役は、現役屈指のオールラウンダーであるトム・デュムラン、最強の山岳アシストへと成長したセップ・クス、異次元の走りを披露した怪物ワウト・ファンアールト、最強の牽引役トニー・マルティンなど、錚々たるメンバー。

あのイネオスも羨むような「最強の布陣」を引っ提げて、ログリッチ自身も安定した走りを披露していた。

王者イネオスを蹴散らし、他のチームのエースにもアタックする隙すら与えず、完全にツールを支配しながら走り続けた。

総合争いの最後の舞台、第20ステージのタイムトライアルまでに稼いだログリッチのリードは、2位のタデイ・ポガチャルに対して57秒。

世界屈指のタイムトライアルスペシャリストであるログリッチの総合優勝を、世界中の殆どの人が疑わなかっただろう。

しかし、ここでまさかの展開が待ち受けていた。

決してタイムトライアルスペシャリストではない(と思われていた)ポガチャルが、とてつもなく速いタイムを刻んでいる。

それに対してログリッチは、決して大崩れはしていないものの、いま一つペースが上がらない。

そして、後世に語り継がれるであろう奇跡の逆転劇が成し遂げられてしまった。

グリッチもステージ5位と決して悪いタイムではなかったはずだが、この日のポガチャルの走りは、まさに異次元としか形容しようがない走りだった。

フィニッシュ直後、呆然と座り込むログリッチ

チームメートのトム・デュムラン(彼もまた、グランツールに史に残る逆転の敗北を経験している)から声を掛けられ、なんとか立ち上がったログリッチ

彼が向かった先は、逆転優勝を決め歓喜の輪の中にいるポガチャルの元。

グリッチはあれだけショッキングな敗北を喫したにも関わらず、自身に勝利した同郷の後輩を讃え、その勝利を祝ったのだ。

これぞスポーツマンシップ、これぞロードレース。

グリッチは敗れはしたものの、その振る舞いは勝利とはまた違った価値がある、とても尊いものだった。

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※ツール第21ステージスタート直後、改めてポガチャルを祝福するログリッチ

 

ツールを総合2位で終え、そして敗れてなお素晴らしい姿を見せてくれたログリッチだったが、彼の真価はこんなものではなかった。

ツールから僅か1週間後の世界選手権、敗戦のショックも癒えていないであろう早いタイミングでレースに戻り、ポガチャルと共闘して6位でフィニッシュ。

そしてその1週間後、初挑戦となったリエージュ~バストーニュ~リエージュでは、フィニッシュラインギリギリでジュリアン・アラフィリップを差して、なんとモニュメント初勝利を飾る。

更にはその翌週からは、ブエルタディフェンディング・チャンピオンとして参戦。

ステージ4勝を上げてボーナスタイムを稼ぎつつ、山岳ステージで少し苦しみながらも最後まで粘り抜き、見事に連覇を達成した。

 

ツールでのショッキングな敗戦など、まるで無かったかのように堂々と振る舞い、勝利を重ねたログリッチ

この恐ろしいまでにタフなメンタルこそが、ログリッチの最大の強さなのだろう。

思えば2019年も、ジロで逆転負けを喫し、そしてブエルタでは圧倒的な姿を見せていた。

2020年のツールでの敗戦は彼の価値を損なうものではないし、そして彼が更に強くなる糧となったかもしれない。

進化を続けてきたログリッチ、2021年は一体どんな走りを披露してくれるのだろうか。