栄光と挫折を経験して古巣へ復帰するイタリアの超特急
選手名:エリア・ヴィヴィアーニ(Elia Viviani)
所属チーム:イネオス・グレナディアーズ
国籍:イタリア
生年月日:1989年2月7日
脚質:スプリンター
主な戦歴
ステージ1勝(2019)
ポイント賞(2018)、ステージ通算5勝(2015、2018 × 4)
ステージ通算3勝(2018 × 3)
優勝(2019)
・イタリア国内選手権
優勝(2018)
・ユーロアイズ・サイクラシックス
優勝(2017、2018、2019)
・ブルターニュ・クラシック・ウェスト=フランス
優勝(2017)
・リオデジャネイロ・オリンピック トラックレース オムニアム
優勝
3位
・トラックレース世界選手権 オムニアム
優勝(2021)
どんな選手?
ロードレースだけでなくトラックレースでも活躍を見せる、現役屈指のイタリア人スプリンター。
2010年にリクイガス・ドイモでプロデビューし、途中チーム名の変更もあったが同チームには2014年まで所属 。
5年間で31勝を挙げるが、ワールドツアーでの勝利は3つのみと(最大の勝利はクリテリウム・デュ・ドーフィネでのステージ勝利)、ビッグタイトルとはあまり縁のない日々を過ごす。
2015年にチーム・スカイ(現チーム・イネオス)に移籍し、同年のジロ・デ・イタリアで念願のグランツール(3大ステージレース)初勝利を挙げるなど、大舞台でも活躍できる実力があると証明することができた。
しかし、スプリントではなく総合に力を入れているチーム・スカイでは十分な活躍の機会が与えられたとは言えず、2017年には母国最大のレースであるジロ・デ・イタリアのメンバーからも外されてしまう。
2017年後半にはユーロアイズ・サイクラシックスとブルターニュ・クラシック・ウェスト=フランスというワールドツアーのワンデーレースで勝利するなど、実力がある事は示し続けたヴィヴィアーニに転機が訪れたのは、2018年のクイックステップ・フロアーズ(現スーダル・クイックステップ)への移籍。
スプリントステージとワンデーレースに於いて最強のこのチームで、ヴィヴィアーニはエース・スプリンターとして躍動する。
2018年はジロ・デ・イタリアでステージ4勝とポイント賞、ユーロアイズ・サイクラシックスでは連覇を果たし、イタリア選手権も制するなど、年間最多勝となる18勝を荒稼ぎ。
2019年は年間11勝と勝利数は減少するも、遂にツール・ド・フランスでもステージ勝利を飾り、全グランツールでのステージ勝利を達成。
更にはヨーロッパ選手権優勝やユーロアイズ・サイクラシックス3連覇など、ピュアスプリンターでありながらワンデーレースでも勝利を重ねる姿は、彼が総合力で世界屈指のスプリンターである事を証明するものだった。
そのスプリント力はロードレースだけでなくトラックレースでも遺憾なく発揮され、2016年のリオデジャネイロオリンピックでは、オムニアムで金メダルを獲得している。
ロードレースでの実績と併せて、ヴィヴィアーニの強さを改めて示すものと言えるだろう。
絶頂期とも言える2年間を過ごしたヴィヴィアーニだったが、2020年には移籍を決断。
移籍先は、11年ぶりのワールドチーム登録復帰となったフランス籍のチーム、コフィディス・ソルシオンクレディ。
前所属のクイックステップのようなチーム力は期待できないが、相棒のファビオ・サバティーニを伴って移籍できただけでなく、トラックでコンビを組むシモーネ・コンソンニも同チームに加入させ、スプリントで勝負できる体制を整えることが出来た。
もちろんフランス籍のチームとして最大の目標は、ツール・ド・フランスでのステージ勝利である。
「ヴィヴィアーニのここ2年の勝利はクイックステップのチーム力のおかげ」などという外野の声も聞こえる中、それを黙らせるような走りを見せつけてチームの期待に応える事ができるのか。
ヴィヴィアーニの新たな挑戦が始まろうとしている。
※2021年1月10日追記
ドゥクーニンクでの栄光の2年間に別れを告げて、コフィディスへ移籍したヴィヴィアーニ。
久々のワールドチーム登録復帰となったコフィディスとしては、チームのエースとして勝利を稼ぐ事、そしてツール・ド・フランスで勝利を挙げる事を期待しての獲得だっただろう。
しかし、春先からヴィヴィアーニの調子が上がらない。
1月のツアー・ダウンアンダーでは4位が1回、2月のヴォルタ・アン・アルガルヴェでは2位が1回、3月のパリ~ニースでは8位が1回と、新型コロナウィルスの影響による中断期間前は勝利を挙げられない。
中断期間が明けてもヴィヴィアーニの状態は上がらず、シーズン未勝利のままツールへ突入。
しかしと言うかやはりと言うべきか、ツールでもヴィヴィアーニの調子は全くよくならず、最高順位は第10ステージの4位に終わってしまう。
続くジロ・デ・イタリアでも調子は相変わらずで、第4ステージで5位に入ったのが唯一のトップ10入りという散々な結果に終わってしまった。
結局、2020年シーズンは1勝もできずにシーズン終了という、まさかの結果となってしまったヴィヴィアーニ。
最強スプリントトレインを有するドゥクーニンクからの移籍だったため、勝利数が減少する事はある程度予想されていたが、年間0勝に終わるとは一体誰が予想できただろうか。
チームとの契約は残り1年。
絶対的なエース待遇で迎えてくれたチームに報いるような、そしてプライドと自信を取り戻すような、そんな力強い走りを再び見せてくれると期待したい。
※2021年12月21日追記
2021年のヴィヴィアーニは、さすがに前年の「年間0勝」というどん底からは抜け出す事に成功する。
スプリントステージとスプリンター向けのワンデーレースで、合計6勝。
ただし、ワールドツアーでは未勝利だったので、決して「復調」と評価できるものではなかったかもしれない。
唯一のグランツール出場となったジロでも、ステージ3位を2回マークするのがやっとだった事を考えると、やはりまだまだ深刻な不振の真っただ中にいると言っていいだろう。
ヴィヴィアーニによるツールでの勝利を期待していたであろうコフィディスとしては、2年間でワールドツアー未勝利の「エース」と契約を延長する理由は、もちろん無い。
ただ、ここ2年間は不振だったとはいえ、2018年~2019年の2年間で29勝を挙げた実力を評価するチームは(ワールドチームだけではなくプロチームも含めれば)当然あるだろうと思っていた矢先、あまりにも意外なニュースが飛び込んできた。
ヴィヴィアーニ、まさかの古巣イネオス・グレナディアーズ(旧チーム・スカイ)への復帰。
しかも、契約年数は3年。
かつて在籍した2015年~2017年は、ツールへの出場が叶わないどころか、2017年にはグランツールへの出場も出来ないほど、グランツールの総合優勝を目指すチームの中にヴィヴィアーニの居場所はなかった。
ただ、2021年のイネオスは「more racing style」という標語を掲げ、グランツールの総合優勝以外も積極的に狙う姿勢を見せ始めている。
そして現在のイネオスには、イーサン・ヘイターやトム・ピドコックと言う、スプリントの才能を有する期待の若手も在籍している。
恐らくヴィヴィアーニに期待されているのは、そういった若手の良き見本、良き指導者としての働きだろう。
もちろん、2022年で33歳とまだ老け込むには少し早いのだから、ヴィヴィアーニに自身が勝ったっていい。
イネオスの強力な「総合争いのための牽引役」は、その気になれば「スプリント争いのための牽引役」を担う事だって可能だろうから、是非どこかのステージレースで「スプリント勝利狙い」の編成で挑んでみて欲しい。
もし実現すれば、きっと相当面白い事になる。
栄光からの挫折を経験してきたヴィヴィアーニの2022年は、きっと面白い事になる。
※2022年12月5日追記
ヴィヴィアーニは2022年のシーズンインとなったボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナで、スプリントトレインがベン・スウィフトのみという厳しい状況ながら、3つあった平坦ステージのリザルトが3位・4位・2位と、期待を抱かせるスタートを切る事に成功する。
続くツール・ド・ラ・プロヴァンスでは、横風分断で絞り込みが掛かった小集団でのスプリントを制し、プロシリーズのレースではあるものの復帰後初勝利を掴み取った。
しかし、その後は勝利に恵まれず、結局シーズンを通してこのプロヴァンスでの1勝のみに終わってしまう。
年間で63レースに出走してトップ10位内でのフィニッシュが21回というのは、スプリントで勝負する体制が整っていないイネオスにおいては、もしかしたら奮闘したと評価できるのかもしれない。
ただやはり、裏を返せば勝負所で勝ち切れなかったとも言えるだろうし、何よりヴィヴィアーニというビッグネームが年間1勝はあまりにも寂しすぎる。
幸い、チームとの契約はパリオリンピックのトラック競技での活躍を見込まれて、2024年まで残っている。
焦らずに機を伺い、ロードレースでも再び一線級の活躍を見せてくれる事を期待したい。
※2023年11月26日追記
2023年のヴィヴィアーニも、イネオスという総合争いに力を注ぐチームに於いて、あまり多くのチャンスを得られたとは言えなかった。
スプリントステージのあるステージレースでも、まともなスプリントトレインを組めないような陣容で臨まなければいけない事がしばしばあった。
グランツールへの出場も2年続けて無しと、厳しい状況が続いている。
やっと挙げたシーズン初勝利は、9月のクロ・レース第1ステージ。
ライバルがそこまで強力ではなかったのもあるが、やはり勝利と言うのは選手に力を与えるのだろうか。
続くツアー・オブ・グアンシーの第1ステージでは、実に4年ぶりとなるワールドツアーでの勝利を掴み取る事に成功。
ジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス)、サム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ)、アルノー・デリー(ロット・デスティニー)、オラフ・コーイ(ユンボ・ヴィスマ)という実力者とやり合っての勝利は、大きな価値があるだろう。
イネオスに復帰しての2年間で3勝と、ヴィヴィアーニの成績はあまり褒められたものではないのは事実だろう。
そして2024年は、3年契約の最終年だ。
もちろんロードレースでの結果も欲しいところではあるが、おそらく最も期待されているのは、パリオリンピックにおけるトラックレースでの活躍だろう。
2021年には東京オリンピックのオムニアムで銅メダルを獲得し、同年の世界選手権ではエリミネーションで優勝しているように、トラックレースに於いては未だにその力を発揮できている。
オリンピックで結果を残すことが出来れば、そこからまたロードレースでの活躍の機会に繋げる事も出来るはずだ。
ある意味、進退をかけて臨むような流れになる2024年、ここ数年の不振を払拭するような走りを期待したい。