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ロンド・ファン・フラーンデレン2025を見て、ポガチャルと石畳について考える

ポガチャルという圧倒的な王

フランドル・クラシックの二大巨頭にしてモニュメントの一角、「クラシックの王」ことロンド・ファン・フラーンデレン

激坂と石畳の組み合わせが選手を厳しく選別するこのレース、2025年の展開は、事前に想定されたものを完全になぞるような流れになった。

要するに、2023年の勝者タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)による、「オウデ・クワレモントで登坂力にものを言わせたアタック」という攻撃、これに誰が対応できるのか、と言う話。

そして結果も、ある程度想定された通りのものに。

2023年と同様に、ポガチャルの登坂力に対抗できる選手など、存在し得なかった。

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歴代最多タイとなる3度の優勝を誇るマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)をして、「ポガチャルに付いていくには110%のコンディションでなければ難しい」と言わしめる、その圧倒ぶり。

実際にはそうではない事を理解しながら、「登坂力だけで」ロンドを制圧したと言いたくなる、圧巻の登坂。

最早ロンドは、「ポガチャルを中心としたレース」へと変化したと言っても、過言では無いだろう。

 

石畳適性とは何なのか?

主にベルギーのフランドル地方で行われるレースにおいて、コースの難易度を構成するメイン要素となる、石畳の路面。

凹凸が激しいと同時に、その滑りやすい路面状況を走破するには、パワーと、体重と、バイクコントロール技術が必要になると言われてきた。

石畳に慣れ親しんだ地元ベルギーの選手だったり、ファンデルプールのようにシクロクロス選手という経歴による悪路適性だったり、そもそも純粋に体格に恵まれていたりと、そういった要素を有した選手が優勝を争うレースのはずだった。

特に、体重・体格という部分は、必須に近いと語られてきた節がある。

 

ここで、ポガチャルの体格を確認してみよう。

身長は176cm、体重は66kg。

小柄と言うほど小さくはないが、決して大柄ではなく、そして身軽である。

そもそもポガチャルは、厳しい山岳を乗り越えてツール・ド・フランスを3度制している選手なのだから、体重が軽いのはそれこそ必須要件だ。

要するに、石畳のレースを走るのには「向いていないとされてきたタイプ」…のはずだった。

それなのに、2023年と2025年、2度のロンド優勝。

それも、2回とも圧倒的な勝ち方で。

なぜ、こんな事が起こったのだろうか?

 

要因を探ってみる

考えられる要因はいくつかあるので、1つずつ確認してみよう。

 

①ロンドの登坂設定

まず、今更言及する必要もないぐらい当たり前の話にはなるが、ロンドに登場する登坂の難易度が純粋に高い事が、最大の要因なのは間違いない。

特に、「オウデクワレモント(登坂距離2200m・平均勾配4.0%・最大勾配11.6%)」と「パテルベルグ(登坂距離360m・平均勾配12.9%・最大勾配20.3%)」という2つの難所は、最強の登坂力を有するポガチャルの仕掛け所として、登場する位置も含めて絶好の箇所と言っていいだろう。

 

②バイクコントロール技術

ファンデルプールやワウト・ファンアールト(チーム・ヴィスマ・リースアバイク)ほど「どっぷり」ではないものの、実はポガチャルもシクロクロス経験者だ。

落車回避能力も含めて、ロードレース選手全体で見たときにポガチャルのバイクコントロール技術が高いのは、よく言及されている点である。

流石にファンデルプールやファンアールトと比べてアドバンテージになったりはしないはずだが、「大きな不利」にはならなかったのは、重要な部分になりそうだ。

 

③異常なまでの、そもそものスペックの高さ

こんな事を言ってしまったら身も蓋もないかもしれないが…、登坂力も含めて「純粋にポガチャルの基礎能力が高すぎる」という話な気もしてくる。

体重だとか、パワーだとか、テクニックだとか…とにかく様々なプラスマイナスの要素を帳消しというか…超越してしまうぐらい、単純に「速く走る能力」が高すぎるようにも見える。

極端な例えをするなら、10歳の子供と20歳の大人が戦っているような…、そこまでではないにしても、そういった方向性の「基礎能力の違い」のように、他のレースも含めて思えてきてしまう。

 

④実は体格はそんなに関係ない…?

これは完全に仮説と言うか、全く根拠のない話。

「石畳を速く走るには体格が必須」という前提が、実は崩れている可能性は無いだろうか?

…それはさすがに言い過ぎかもしれないが、機材の進化などによって「ハードル」が低くなっている可能性は、ゼロではない…かもしれない。

 

パリ~ルーベはどうよ?

改めて分かり切ったような事を書き連ねてみたが、まあとにかく、ロンドを2度勝ったのは、正直言ってかなり理解できる。

「石畳をどう乗り切るのか」という従来の勝負ではなく、「登坂力勝負」という自分の土俵で圧倒的なパフォーマンスを見せた結果だと考えれば、かなり納得しやすい。

 

そしてここで問題になってくるのが、4/13に開催され、今回ついにポガチャルが初出場するパリ~ルーベだ。

ロンドと並ぶもう一つのフランドル・クラシックの頂点、通称「北の地獄」。

登坂はほぼ無い代わりに、石畳の荒れ具合、そして石畳区間の長さは、まさに地獄のような過酷さ。

「登坂力」という最大の強みを発揮できる箇所はなく、そしてロンド以上にパワーや体重が重要視されるこのレースで、ポガチャルは勝てるのか。

 

はっきり言うと、自分はかなり厳しいと思っている。

一応、落車やメカトラでいつ誰が戦線離脱するか分からないレースではあるから、可能性はゼロではないと、言っておこう。

それでも、ロンドのように自らアタックを仕掛けて、力の差を見せつけて勝つ…なんて事は、流石に起こり得ないと、自分は考えている。

2連覇中のファンデルプールの体調が万全ではないという情報も入ってきているが、それでも相当厳しい勝負を強いられるのは間違いない。

ファンデルプールだけでなく、ファンアールト、マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)、フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)、ヤスペル・フィリプセン(アルペシン)、シュテファン・キュング(グルパマFDJ)など、ポガチャルよりもパリ~ルーベに向いているであろう強力な選手が、多数出場する。

と言うか、チームメイトのニルス・ポリッツの方が、ポガチャルよりも勝つ可能性が高いと思っている。

とにかく、仕掛け所が無い。

平坦な石畳区間で仕掛けるのが、どう考えても「強み」になり得ないと、自分は考えている。

 

誤解を恐れず、物凄く語弊がある事を言うと、なんなら「ポガチャルに勝ってほしくない」とすら思っている。

念のため言っておくが、自分はポガチャルが好きだ。

ブログを立ち上げて、各チームから1人ずつ選手紹介記事を書く際、UAEからはポガチャルにしようと迷わず即決したぐらい、普通に好きな選手の1人だ。

それでも、今回のパリ~ルーベは勝ってほしくないという気持ちが、少しある。

何というか…ロードレースの大きな魅力の1つである、「多様性」が崩壊してしまう気がする。

小柄なピュアクライマー、大柄な石畳巧者、トップスピード自慢のスプリンター、総合力で勝負するオールラウンダー…、どんな選手にも活躍の可能性がある事が、ここで言いたいロードレースにおける「多様性」だ。

そして、その多様性を引き出す上で重要な要素が、コース設定だろう。

山頂へと続く長い登り、短いがとんでもない勾配の激坂、スプリント勝負になる平坦フィニッシュ、そしてフランドル・クラシックの石畳など、様々なレイアウトのレースがあるから、多様性が必要とされ、多くの選手にスポットライトが当たるのだ。

パリ~ルーベは、石畳の難易度に「全振り」した、ある種究極のレース。

言ってみれば、石畳巧者たちの「聖域」だ。

大柄さが求められる石畳と相反する、身軽さが必須の総合争いをしているポガチャルは、その聖域の住人ではない。

大柄さと身軽さ、どう考えても同居させられない2つの要素、その象徴と言えるレースを両方とも制してしまうのは…あり得ないと、言ってしまいたい。

雑な例えをするなら、100m走世界記録保持者のウサイン・ボルトが、フルマラソンで優勝するようなものだ。

そんな事は、あり得ない。

いや、あってはならないと、言ってもいいかもしれない。

 

それでも、ポガチャルはパリ~ルーベに出場する。

恐らく…いや、まず間違いなく、純粋に優勝を目指して。

万が一、ポガチャルが勝ったら…もうお手上げだ。

史上最強のロードレース選手に対して、その伝説の走りの目撃者となれた事に感謝しながら、あらん限りの賛辞を贈るしかないだろう。

果たして、どんな展開、そしてどんな結末が待っているのか。

パリ~ルーベ2025、楽しみにしていようではないか。

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