息つく間もない激戦の連続!
とにかく、凄い1日だったとしか言いようがない。
- ヨーロッパツアー2.1のステージレース、ツール・ド・ラン 第2ステージ
- ワンデーレースの最高峰、モニュメントの1つ、ミラノ~サンレモ
- ワールドツアーのステージレース、ツール・ド・ポローニュ 第4ステージ
新型コロナウィルス感染拡大による中断期間の影響で、この3つのレースが同日開催となった8月8日。
どのレースも期待以上・想像以上の、もの凄いレースが繰り広げられました!
当初はミラノ~サンレモのみ感想記事を書く予定でしたが、これはどれも書かざるを得ないでしょう。
全てGCNのアプリで配信されたこれらのレース、駆け足にはなりますが時系列順で振り返ってみます。
「ツール前哨戦」 ツール・ド・ラン 第2ステージ
ヨーロッパツアー2.1という決してカテゴリーは高くないながらも、今年は注目の一戦となったのがこのツール・ド・ラン。
何故かと言えば、チーム・イネオスとチーム・ユンボ・ヴィスマというツール・ド・フランスの優勝候補チームが、どちらもトリプルエースと有力アシストを引き連れて参戦したから。
他にもリッチー・ポートとバウケ・モレマ(トレック・セガフレード)、ファビオ・アル(UAEチーム・エミレーツ)、ナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック)といった、一流の総合系選手が出場する事に。
結果的に「ツール・ド・フランス前哨戦第1ラウンド」のような扱いになったこのレース。
初日の第1ステージも、ゴール前登り基調のスプリントでトム・デュムランのリードアウト(!?)からプリモシュ・ログリッチが発射、しかし勝ったのはネオプロの21歳・アンドレア・バジョーリ(ドゥクーニンク・クイックステップ)というなかなかカオスな展開。
そして迎えたこの日の第2ステージは、3級山岳1つと2級山岳4つの中程度の山岳ステージ。
各エースの調整具合と、2強チームのイネオスとユンボの戦術が気になるところ。
なんて思いながら中継を見ていると、集団をコントロールしているのはユンボ。
というか…途中から集団を牽いてるの、デュムランじゃないか…!
第1ステージに続き、なんと贅沢なデュムランの使い方するんだ、ユンボ!
タイムトライアルの元世界王者にして世界最高クラスのオールラウンダーであるデュムランに牽引なんかさせたら、当然集団はバラバラに。
2級山岳に突入したら、今度はジョージ・ベネットが猛牽引と、ユンボの波状攻撃は続く!
かなり人数を減らした集団、イネオスは気づけばベルナルとカストロビエホのみに。
フルームとトーマスは見せ場のないまま(特にフルームは下がっていく瞬間も映されなかったよね?)脱落か…。
ていうか、カストロビエホも残り25km付近の2級山岳では遅れてしまうぐらいには限界ギリギリなんだけど、下りで頑張って追いついてきたのは凄いの一言。
そして最後の山岳に突入。
この時点で先頭はユンボ3人(ログリッチ、クライスヴァイク、ジョージ・ベネット)、イネオス2人(ベルナル、カストロビエホ)、他は単騎でキンタナ、モレマ、バレリオ・コンティ(UAEチーム・エミレーツ)という状況。
3人を万全の状況で残したユンボに対して、ベルナルの他にはギリギリの状態のカストロビエホしか残せなかったイネオスと、明暗がくっきりと分かれる状態に。
こうなればユンボは手数を活かして攻める事が出来る訳で…、クライスヴァイクがアタックして、ベルナルを崩しにかかる。
ここでカストロビエホが最後のお仕事、もう大分ギリギリのはずなのに、ベルナルを全力でアシスト!
まあ、そのために必死に戻ってきた訳だけど、その有能っぷりは健在。
しばらく牽いたら流石にカストロビエホは脱落するも、ベルナルは崩れず、クライスヴァイクもここは無理せず集団に降りてきて様子見モード。
こうなると、ユンボのコントロールにゆるい傾斜も相まって集団は膠着状態のままゴール前へ。
残り200mぐらいからモレマがスプリントを仕掛けようとするも、なんとメカトラ発生という不運に見舞われてしまい、こうなるとスプリントが強いのはログリッチ。
それまでのチームメイトの働きにしっかりと応え、見事に勝利!
🇸🇮@rogla of 🇳🇱@JumboVismaRoad
— Cycling_360 (@cycling_360) August 8, 2020
wins stage 2 of 🇨🇵@tourdelain #TDA (Photo GettyImages) pic.twitter.com/pwEeFNXIF1
いや~、ユンボの強さが際立ったステージだった。
ログリッチ、デュムラン、クライスヴァイク、ベネットという戦力の高さ、そしてそれを惜しみなく的確に使うチームとしての戦術が見事にかみ合っていて、ちょっと手が付けられないような状態。
逆にイネオスは、ベルナルは相変わらずの登坂力だけれども、フルームとトーマスの状態がかなり心配。
最後の山岳、本当はここにフルームかトーマスのどちらかがいれば、展開は全然違ったんだろうなぁ…。
というか、フルームの状態はかなり深刻ではないか?
今日の結果が全てではないけど…
— kiwa (@kiwa2408) August 8, 2020
以前から薄々思っていたけど、ユンボ3人衆(+ベネット)の総合力と安定感って、「現時点での」イネオス3エースより上じゃないの?
ただ、ベルナルの登坂力が限界突破しているから、実際に走ったらどうなるか全然分からないけど…#GCNJapan #ロードレースjp
果たしてイネオスの2人は調子を取り戻すのか、この後のクリテリウム・デュ・ドーフィネを経てしっかり調子を上げてくるのか。
というかフルームはそもそもツールのメンバーに選ばれるのか、そしてイネオスのツールのロースターはどうなるのか。
残された期間は約3週間。
まずはツール・ド・ランの第3ステージ、そしてクリテリウム・デュ・ドーフィネ。
フルームの走りとイネオスの判断から目が離せない。
「激戦のマッチスプリント!」 ミラノ~サンレモ 2020
例年なら春のクラシックシーズンの開幕を告げる「ラ・プリマヴェーラ」ことミラノ~サンレモ。
春ではなくなったものの、変わらずクラシックシーズンの先駆けとしての開催!
8月開催という事でバカンスシーズンと重なり、いつもの海岸沿いのルートが使えずに、内陸部を通過するコースレイアウトに変更。
その結果として、距離が315km(!)に伸び、さらには平坦基調だった中盤のコースレイアウトに2つの丘が含まれ、過酷さが増す事に。
そこに8月の暑さも相まって、ピュアスプリンターが残るのは厳しそうな雰囲気の漂う今年のレースでは、主だった優勝候補として、
- ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
- ペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)
- ワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィスマ)
- マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)
- ミハウ・クフィアトコフスキー(チーム・イネオス)
- マッテオ・トレンティン(CCCチーム)
- マイケル・マシューズ(チーム・サンウェブ)
こんな感じの登り耐久もありつつ爆発力のある選手が挙げられます。
勿論、有力なピュアスプリンターも
など、多数出場。
そして更に注目だったのは、フィリップ・ジルベールによるモニュメント完全制覇が達成されるかどうか。
様々な思惑をのせながら、「夏のクラシックシーズン」が今ここに開幕!
例年通り、残り27km地点の要所である「チプレッサ」の登りまではレース全体として大きな動きは無かったものの、残り87km地点では優勝候補の1人であるトレンティンが落車によりリタイア。
グレッグ・ファンアーベルマートとのコンビネーションに期待していただけにちょっと残念…。
そして残り35km辺りでは、アラフィリップがバイクトラブルにより、自転車を交換。
「牽引職人」のティム・デクレルクが集団まで引っ張り上げるも、少し無駄足を使ってしまう。
そして「チプレッサ」に突入すると、ボーラ・ハンスグローエが中心となって集団を牽引しペースアップ。
すると案の定、ピュアスプリンターは付いていくのが厳しく、ユアンやガビリアなどが脱落していく。
そして、集団を牽引して逃げも吸収したダニエル・オス(ボーラ・ハンスグローエ)が、そのままダウンヒルでアタック!
これでエースのサガンをしっかり温存する態勢を作り上げ、メイン集団はドゥクーニンク・クイックステップのボブ・ユンゲルスが牽引。
最後の勝負所である「ポッジオ」突入直後にオスは捉えられるも、さすが「サガンの相棒」のオス、一流の仕事人らしい見事な働き。
ポッジオでは数人の選手による散発的なアタックは見られるも、なかなか決定的な動きが無い中、頂上まで残り1kmの地点で大本命の1人であるアラフィリップが強烈なアタック!
即座に追走してきたファンアールも振り切り、更なる加速を見せてそのまま単独で頂上を通過し、得意のダウンヒルへ突入!
正直言って、「このまま独走態勢か!」とも思ったけれども、ダウンヒルでファンアールトがアラフィリップに追いつくという意外な展開に。
これに関してはサイクル・フォトグラファーで解説者の辻啓さんがレース後にTwtterで、
まあでも平均すればディスクブレーキのほうが速いし、アラフィリップはパンク後に受け取ったホイールの空気圧が合ってなかったんだろね。 https://t.co/OfTNNXaoue
— Kei Tsuji / 辻啓 (@keitsuji) August 8, 2020
と指摘。
アラフィリップとしては「あのメカトラブルさえなければ…」というちょっと悔しい展開。
いずれにせよ、2人での逃げという状況になり、協力してメイン集団から逃げるアラフィリップとファンアールト。
アラフィリップは昨年ツールの個人TT勝者、そしてファンアールトもベルギーのTT王者と、共に独走力は抜群で、集団から5~10秒ほどのタイム差をキープしてゴール手前まで突入。
昨年の覇者アラフィリップと、先週のストラーデ・ビアンケの勝者ファンアールトの激突となったマッチスプリント、その結果は…
勝ったのはファンアールト!!
アラフィリップに上手く後ろを取られてしまいながらも、そのシクロクロス仕込みのパワフルなスプリント力で最後まで失速しなかったファンアールトの見事な勝利!
ストラーデ・ビアンケに続いての、というかそれ以上のビッグタイトル獲得!
あの高出力継続能力とスプリント力の共存は、ライバルであるファンデルプール同様にやはり怪物級であり、今後は2人でロードレース界の常識を破壊して暴れまわるのだろうか。
今後の活躍が更に楽しみになってきたじゃないか!
敗れてしまったアラフィリップも、トラブルを乗り越えてのポッジオでの抜群のアタックは、痺れるようなカッコよさ!
今シーズンなかなか結果が出ずに「モチベーション不足」などとも囁かれていたが、その輝きは一切色褪せていない事を証明してくれて嬉しいぞ!
そして、やはりと言うべきか、ミラノ~サンレモは面白い!
いやまぁ、モニュメントはどれも面白いんだけれども、ミラノ~サンレモの「チプレッサ以降の凝縮具合」といったら、たまらないよね。
ここ数年は「ポッジオでの抜け出し」が定番だけれども、集団スプリントになっても熱いだろうから、それも見てみたいとも思う。
あと、余談というか…
レース前の自分の予想がこちら
ミラノ〜サンレモ優勝予想!
— kiwa (@kiwa2408) August 8, 2020
本命:サガン
対抗:アラフィリップ
穴:ファンアールト
大穴:マシューズ
希望枠:勿論ジルベールでしょ
例年と違う起伏、そして真夏の天候がレースをより過酷にして、ピュアスプリンターには厳しい展開と予想#GCNJapan #ロードレースjp
リザルトは、1位ファンアールト、2位アラフィリップ、3位マシューズ、4位サガン…。
お、惜しかった…。
「魂の独走」 ツール・ド・ポローニュ 第4ステージ
第1ステージで、ファビオ・ヤコブセン(ドゥクーニンク・クイックステップ)がディラン・フルーネウェーヘン(チーム・ユンボ・ヴィスマ)との接触が原因の激しい落車により重傷を負うという、痛ましい事故が起きてしまったツール・ド・ポローニュ。
レース前の段階では「各ステージ軽めの感想」ぐらいの記事を書く予定でしたが、余りにも大きな事故に対して、さすがにそんな気持ちに持っていけずに、ポローニュについては今回はスルーするつもりでいました。
しかし、この第4ステージでのレムコ・エヴェネプール(ドゥクーニンク・クイックステップ)の走りを見せつけられたら、書かない訳にはいきません。
第2ステージは世界王者マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)が驚きのスプリント勝利、第3ステージは昨年のジロ・デ・イタリア覇者リチャル・カラパス(チーム・イネオス)がこれまた驚きの早駆けによる登りスプリント勝利と、予想外の展開が続いたこのレース。
迎えた第4ステージで、長い登りはないものの1級山岳が6回も登場する周回コースで待っていた予想外の展開は、レムコ・エヴェネプールの走りが我々に与えた驚きは、そんなレベルではなかった。
まさかの、51km単独逃げ切り。
プロ2年目、20歳の若者が。
プロ2年目ながら、総合優勝候補として厳しくマークされている選手が。
ヤコブ・フルサン(アスタナ・プロチーム)やサイモン・イェーツ(ミッチェルトン・スコット)やラファウ・マイカ(ボーラ・ハンスグローエ)といった超一流選手を相手取って。
2位となったフルサンに1分48秒もの大差をつけて。
まさかの、51km単独逃げ切り。
確かに、昨年の欧州選手権の個人TT優勝、世界選手権の個人TT準優勝という、世界トップクラスの独走力を持った選手ではある。
今シーズン出場した3つのステージレース、その全てでステージ勝利を挙げ、そして総合優勝している超一流の総合系選手でもある。
だからと言って、誰がこんな結果を予想できたであろうか。
メイン集団はともかく、フルサン、サイモン・イェーツ、マイカの本気の追走に2分近いタイム差を付けるなどと。
衝撃としか形容の出来ないこの走り。
そして、たどり着いたフィニッシュ地点。
落車で重体のヤコブセンのゼッケンを掲げながらのフィニッシュ。
普段は喜びのあまりジャージのジッパーも閉めずに、歓喜を爆発させながらゴールインする青年が、祈るように掲げる仲間のゼッケン。
仲間に向けた、魂の走りと祈りのフィニッシュ。
本当に素晴らしい瞬間を見させてもらいました。
どうか、この祈りがヤコブセンに届き、彼がまたプロトンに戻って来れられる事を願います。
激動の1日を終えて
ロードレースの面白さ、激しさ、熱さ、そして美しさと尊さ。
色々な要素が押し寄せてくる激動の3レース、本当に素晴らしい1日でした。
これからも選手たちが届けてくれる素晴らしいレースを応援していきたいと思います。
頑張れフルーム!
「5勝」するんだろう?
踏ん張れイネオス!
王者の貫禄はこんなものではないだろう?
そして、こちらは打倒イネオスだ!
頑張れユンボ!
完全復活おめでとうファンアールト!
秋には石畳制覇だ!
そして復調してくれて嬉しいぞ!アラフィリップ!
やっぱり君は主役なのさ、輝き続けてくれ!
ありがとうエヴェネプール!
君の美しい走り、素晴らしかった!
その果てしない才能で、100年語り継がれるような伝説を作ってくれ!
しっかり戻ってきてくれよ、フルーネウェーヘン!
今は苦しいだろうが、君を待っている人も多いはずだ。
君も主役の1人なんだから、戻ってきて結果を残すのが「務め」なんだ。
そしてヤコブセン。
しっかりと回復して、また元気にスプリントで勝利を見せてくれる日を待っているよ。
FORZA FABIO!